328.ザンザスの思惑

「大変失礼いたしました、エルト様」

「いや、いいんだ。気にしないでくれ」


 大樹の塔の前にある土風呂場。

 俺はレイアとそこにいた。


 ほっこり土風呂に入っているレイアと、その隣に椅子を持って腰掛けている俺。

 これが今の位置関係だ。


 天気はからっとしていた。

 だんだんと暖かくなっていて、肌寒さを感じる機会は少なくなっている。


「そしてこのようなお姿で申し訳ありません……」

「それも気にしないでくれ」


 ばったり倒れたレイアは、その拍子に腰をちょっとメキメキさせたらしい。

 そのためポーションを飲んで、ここにいるわけだが……俺もわかるよ。


 腰と肩と腕と首と――つまり動くところはいたわらないとな。

 メキメキ、ギリギリ、ボキボキくるから。

 うんうん……。


「レイアも大いに働いてくれたからな、ここで疲れをほぐしてくれ」

「うぅ、ありがとうごさいま――」

「はいはーい。お水をぱしゃぱしゃー」


 ぱしゃぱしゃ。

 すすっとやってきたテテトカがレイアの顔にじょうろで水をかける。


「……ありがとうございます」


 水をかけ終わってから、レイアはセリフを言い直した。


「ではではー」


 そしてぽてぽてとテテトカは歩き去っていく。


 この水やり上級コースは、ドリアードのタイミングで水をかける。

 話してようがお構いなしに、じょうろから水が降り注ぐのだ。


 だが不思議と鼻や口に入ってむせないらしい。絶妙な角度で水やりをするからなんだそうだが。


「ええとそれで、卵ですね……」

「実物はちょっと見たんだがな、綺麗だった」


 大きさはディアの卵とあまり変わらなかった。

 虹色だったディアの卵と違ったのは色だ。赤、緑、青の三原色でカラフルな色だった。


 ゲームでもコカトリスの卵はカラフルだったので、同じということだ。


「ふむふむ、そうすると間違いなくコカトリスの卵ですね。亜種でやや違いますが、三色から四色の色鮮やかな卵が特徴です」

「資料を読んでも不明確だったが、孵化にはどれくらいかかるんだ?」

「……まちまち、ですね。孵化には魔力が必要らしく、地域差が激しいのです。食料も魔力も乏しいところでは、年単位という話もあるくらいで……」

「なかなか大変だな、それは……」

「しかしこの村ではそれほど時間はかからないと思います。ご飯もありますし、一ヶ月もあれば……」

「やはりそんなものか。ご飯以外に必要なものはあるか?」

「特にはないはずですね……。ふわふわもこもこなコカトリスの羽毛そのものが、極上の揺りかごですし……」


 目を閉じてうっとりとするレイア。

 彼女の頭の中では、すでにコカトリスの雛への妄想が進んでいるに違いない。


「あとは芸術祭の件だが――ザンザスのほうはどうなんだ? いい話はありそうか」

「意外と難しいですね。コカトリスグッズの引き合いはありましたが、その他となるとドワーフもヴァンパイアも目が肥えています。評価はまぁまぁ、急いで買う必要はない――くらいです」


 しかし、レイアは落胆していそうな感じではない。


「ですが、こちらの資金力と販路には興味を持って頂けたようです。交易都市としてのザンザスは巨大です。ヴァンパイアもドワーフも人口の多い都市を抱えている訳ではありませんからね」

「ヴァンパイアは数が少なく、雪国ではなかなか人口を増やせないからな。ドワーフも山に接する形で街を作ることが多いと聞く」

「ええ、限られた貴族との取引にとどまらない可能性――それを見出してもらえれば、先々にも繋がります」


 こうして真面目なときは、本当にきりっとして有能なんだがな……。

 レイアの顔にしたたる水を見ていると、吹き出しそうになる。


「それと、エルト様にお願いが……!」

「……なんだ?」

「コッカトニアの村の新商品に、ぜひ『卵』の模型を加える許可を! ニューアイテムというやつです!」

「まだ販売はしてないんじゃないのか……?」

「ザンザスで反対する人間にはどんな手でも使いますし、必ず商品化しますから……!」


 きらきらとした瞳で言い放つレイア。


 うん、まぁ……好きにするといいよ……。

 どうせ止まらないしな!

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