309.ステラの評判

 大聖堂、二日目。


 爽やかな朝である。

 お風呂とトマトのおかげでステラ達はリフレッシュしていた。

 そして、彼女達は今日もブースに立って案内役を務める。


 ナナも着ぐるみ姿でぬぬっとブースに現れた。


「おはよう、皆」

「おはようございます……!」

「おはようだぞ!」

「おはようぴよー!」

「元気そうだね、うんうん。いいことだ」


 今は朝の九時半。所々に大時計が置かれて、時を告げている。

 元々が礼拝堂、次に要塞だったこともあり、時計の数と品質はピカイチである。


「まだ始まるまでに、少し時間がありますね」


 芸術祭は朝の十時から夕方五時まで開かれるのだ。

 もっとも社交会はえんえんと続くので、どこかしらは活動していることになるが。


「慣れてきたと思うけど、商売的な本番は今日と明日……だからね」


 ナナが着ぐるみの顔をパンパン、とやって気合を入れる。伝わる振動が中のヴァンパイアを目覚めさせるのだ……とステラは思うことにした。


「初日に来るのは大貴族で、元から好意的……でしたね。二日目以降が、興味本位の貴族や商人が増えるとか」

「そういうことだね。昨日、ここに来た貴人はイグナート兄さんやホールドとの繋がりがある。元から中身をある程度勉強してきてくれる」


 マスコット台にいるディアがぴよぴよと頷く。


「ぴよ。つまり……きょうは、あたしたちをあんまりしらないひとがくるぴよね!」

「そういうことだぞ。アッピールのしがいがあるんだぞ」


 子犬姿のマルコシアスもマスコット台で準備万端だ。


「ポジティブに考えれば、その通り。より広範囲に、これまで縁遠い人達との繋がりが生まれる機会でもある」

「ですね……! 頑張らないと!」


 野ボールと村の布教を! とでも言いたげなステラ。


「まぁ、人自体は昨日より少ないはずさ。丁寧にやっていけば問題ないよ」

「わかったんだぞ」

「はい……!」


 ディアが羽をぴっと上げる。


「レッツ、アッピールぴよー!」


 ◇


 ――それから。

 まずドワーフの貴婦人方がひっきりなしに押し寄せた。


「あらあら! ここがヒールベリーの村のブースですの!?」

「素晴らしいお花ですこと! 南の花と葉はやはり色付きが違うわねぇ!」

「英雄ステラとはあなたかしら!? 確かに魔力の質が常人離れしてる気がするわ!」

「あわわ……はい、私がステラです!」


 とりあえず村の説明をして、バットを振る。

 そうするとゲストは大喜びした。


 次に来たのはドワーフの騎士達だった。

 貴族の送り迎えを担当する、高位の騎士達である。誰もが立派なヒゲと体格をしていた。


「ガハハ、この木の棒――バットだっけか!? これでアイスクリスタルに突撃とは恐れ入ったぜ!」

「特別な力があるのか!? 一本欲しいぞ! ワハハ!」

「いや、伝説に違わぬ勇猛果敢! あ、あの服はなんだ?! 動きやすそうだな! ナハハハ!!」

「あははは! バットやユニフォームならここに沢山ありますので……!!」


 ……そんな感じで初日に負けず劣らず、ゲストは来訪し続けたのであった。


 ◇


「ひ、人は少ないはずでは……!?」


 お昼休み。

 目をグルグルさせたステラがやっと一心地ついていた。


「……人気者だね。はい、トマトジュース」

「あ、ありがとうございます」


 コップを受け取り、ごくごくと勢い良く飲むステラ。


「どうやらアイスクリスタル討伐の話が広まってるようだ。貴族だけじゃなくて、騎士のような戦う人達も来てるね」

「ぴよ。みんな、がっしりしてたぴよ!」

「皆、バットとかユニフォームとかに興味津々だったんだぞ」

「ですね。あの方々は実用としてバットやユニフォームに関心があるみたいでした」


 大変とはいえ、ステラはほくほくしていた。

 かなりのバットを手渡せたのだ。


「まぁ、実績としてSランクの魔物の脅威を撃退できればね……確かに十分過ぎる」


 うむうむとナナは頷いた。

 バット自体は普通の木の棒だ。つまり使い手がステラ並みなら、彼女並みの戦果が得られるということでもある。

 それは戦う者にとっては魅力的な可能性のひとつなのだ。


「ぴよ。なんにしても、よかったぴよ! たくさんのおきゃくさんぴよ!」

「だぞ。我と主もアッピール頑張ったぞ」


 きらん。マルコシアスの目が光る。

 いつの間にかマスコット台にはいくつものお菓子の箱が手土産として置かれていたが……。

 皆が食べなさい、と置いて行ったものだった。


「しかし、凄いね……。こういうのに初参加としては、異例とも言える客入りだよ。全部、考えてやったのかい? ここまで計算してたのかな?」


 感心するナナに、ステラは微笑む。

 曇りなき眼で。


「いえ、まったくです!」

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