310.エレオノーレとアルブレヒト

 ヒールベリーの村。


 今日と明日はお休みである。

 地下通路の探索も休業だ。


 まばらな雲に、しっかりと輝く太陽。出掛けるには良い天気のように思う。


 おすそ分けしてもらったパズルマッシュルームは、朝ごはんのおかずの一品になった。


 もにゅもにゅ。

 なんとなく味が濃くなっている気がする。

 オリーブオイルでさっと炒めただけだが、悪くないな……?


「ウゴウゴ、今日は何かある?」

「ふむ……ウッドのほうは何かやりたいこととかあるか?」

「ウゴ、じゃあ湖行きたい!」


 ウッドの目がきらきらしてる。


「いいな。それにしようか」


 ボートや釣り道具もあるしな。せっかく揃えたんだから、休みには満喫しよう。


 朝ごはんを食べて家を出ると、ぽてぽてと歩くテテトカがいた。何人かのドリアードも一緒だな。

 釣り竿を持っている。


 アラサー冒険者達もセットだな。こちらも釣り道具を持っていた。


 こちらに気が付いたのか、テテトカが手を振ってくる。


「ご機嫌うるわしゅー。エルト様も釣りですか?」

「ああ、そちらも……釣りだよな」


 全員、釣り竿を背負っている。これで目的が釣りでなければ不審者だ。


「ウゴ、皆で行くの?」

「そうですぜ。定例の釣りでさぁ。ボートに乗って湖の真ん中で釣りするんですぜ」


 うきうき気分のアラサー冒険者。

 楽しみで仕方ないようだな。


「あとはー、釣りをしてみたいという子もいるのでー」

「よろしくですー」


 テテトカの後ろにいるドリアード達がぺこりと頭を下げてくる。

 ふむふむ。テテトカやララトマから段々と釣りに興味を持つ人が増えているわけだな。


 ドリアード達の目はきらきらしており、こちらも期待しているのがよくわかる。


 なかなかのプレッシャーだな。

 ……よし。釣りのあとのお昼ご飯は豪華にするか、俺の植物魔法で。


 釣りは正直、俺もプロではないしな。でも出来るだけ楽しんでもらわないと。

 ドリアードにはお世話になっているし。


 ◇


 小一時間後。

 湖に到着した。

 冒険者とドリアードの組を作り、早速ボートに乗ってもらう。


 ぽってぽってとドリアードと冒険者の組が湖に漕ぎ出していく。

 コカトリスヘッドのボートがぷかぷかと浮かび、微笑ましい光景になっている。


 ボートを見送り――残ったのは俺とウッド、それにテテトカだった。


「ではではー、ぼくたちも釣りに出かけましょー」

「そうだな、行くとしようか」

「ウゴウゴ、行こう!」


 三人でボートに乗り込み、湖へと漕ぎ出す。


 近くではアラサー冒険者が釣り糸を持ちながら、あれこれと実際にドリアードの前でやってみせていた。


「餌はこうやって付けるんですぜ」

「へー! へー!」


 草だんごをちぎったのを釣り糸の先に付けていく。


 植物の手入れに熟練しているからか、ドリアードの手先はかなり器用だ。

 釣りも問題なく出来ると思う。


 餌をきゅっと付けたドリアードが、糸の先をわたわたとアラサー冒険者に見せている。


「こんな感じー?」

「いいじゃないですか! バッチリですぜ!」

「わーい!」


 他のボートもそんな感じで上手くやっているようだな。


「ウゴ、良さげな感じ!」

「そうだな、楽しそうだ……」


 冒険者はノウハウを他人に伝えるのも大切な仕事である。特にザンザスでは徹底されているらしい。


 なので、こういうのも安心して任せられるな。


「エルト様ー、ちょっといいですー?」

「うん? なんだ?」


 糸の先にちょいちょい餌を付けながら、テテトカが言ってくる。


「エレオノーレちゃんとアルブレヒト君が、いい感じでしてー」

「……それは誰だ?」

「ウゴ、聞いたことない……」


 エレオノーレとアルブレヒト。

 知らない名前だ。

 ウッドも知らないようだが。


 俺もこの村に住んでいる人の名前は、一通り覚えている。もちろんドリアードも例外じゃない。


 他の冒険者もしっかりと覚えているんだが……似た名前はあっても、同じ名前はないはずだ。


「コカトリスですよー」

「えっ」

「ウゴ!」


 思わず驚きの声を上げてしまった。

 名前があった……のか?

 初めて知ったぞ。


「やっぱり知らなかったんですねー。うーん、コカトリスちゃん達はあまり名乗らないですからねー」

「うーん……。名乗ってもらってもわからない……気がするが」


 常にぴよぴよだからな。

 なんとなくニュアンスはわかるが、固有名詞はわからん。


「まー、でもその二匹がですねー」

「すまん……話が先に行く前に、その二匹の特徴はあるのか?」


 じゃないとイメージしづらい。


「えーと、お昼寝大好きなのとちょっと遠い目をしがちなコカトリスちゃんですー」


 あ、もしかして一匹は昨日来てくれたコカトリスか?

 それならわかる……。

 俺にもわかる!


「ウゴ、片方は昨日地下通路を探検したコカトリスだよね?」

「ですですー」


 良かった、合っているようだ。

 俺も捨てたもんじゃないな。

 だんだんとわかるようになってきたぞ……!


「でー、その二体がいい感じなんですよー」


 そこまで言うと、テテトカは釣り竿を湖へと振り上げた。


 ちゃぽん。


 糸の先が湖面へと落ちていった。

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