308.模型
ヒールベリーの村への帰路。
薄暗い道を馬車隊とウッドで走っていく。
俺とテテトカはウッドに掴まり、顔に風を受けていた。
「はわー。いい風ですー」
眠気は飛んだようだ。テテトカは気持ち良さそうに目を細めている。
「こーいうのもいいですねー」
ほわほわ。
まさにテテトカはそんな感じだな。
「ウゴ、ちょっと暖かくなってきたからね。夜風が気持ちいい」
「そうだな、爽快だ」
「ぼくたちはあんまり走ったりしないですからねー。こーいうのは新鮮ですー」
テテトカは目をきらきらさせていた。
「高いのもいいですねー。おっきな木はこんな気分なんでしょうねー」
「なるほどな……。そうかもな」
「塔からあまり外を眺めたりはしなかったですけど、これからはちょっと眺めたりしますー」
ドリアードの背丈は人間の子どもくらいだ。
他を見下ろす、ということはあまりないのかもな。
意識しないと、そういうのも中々やらないかもだし……。
ウッドの隣では、コカトリス達がわっせわっせとパズルマッシュルームを担ぎながら走っている。
「ぴっぴよー」(よっせよっせー)
「ぴよぴ!」(持ち帰るのだ!)
「ぴよ、ぴよっぴ!」(時折つまむのも、また良し!)
「……ぴよぴよ」(……もにゅもにゅ)
「ぴよっ!?」(もう結構食べてるっ!?)
「ぴよ、ぴよー!」(食べていいのは半分までだよー!)
……当たり前のように、帰りも馬車やウッドと並走できるんだな。
底無しの体力というか……ウッドがタフなのは、俺とステラがしっかり育てているのもある。
でもこの村のコカトリスは特に、そういう訓練とかはしてないはずだ。
食べては農業の手伝いをして、よくお昼寝している。
あとはお風呂と毛づくろいくらいか……。なかなかマイペースに優雅な生活をしている。
そう考えるとコカトリスの種族的な強靭さはやはり、目を見張るものがあるな。
「ウッド、疲れてないか?」
「ウゴ、大丈夫だよ! 余裕!」
ふむ、ウッドも余裕か。
「はわー……」
風を受けて、本当に気分爽快なテテトカ。
……ふむ。
ララトマも同じだろうか?
それなら、ウッドが担いでデートというのもアリな気がするな……。
◇
その日の夜。
イスカミナは自宅でカチャカチャと作業をしていた。
「パズルマッシュルームの辛味炒めと塩野菜パスタ、できましたよ〜」
アナリアが声を掛ける。イスカミナはぱっと手を止めて、アナリアを振り返った。
「もぐ! 懐かしいメニューもぐ!」
「学院時代にはよく食べたメニューですね。たくさんパズルマッシュルームが手に入ったので、どうかなぁと」
「いただくもぐ!」
とは言っても、学院時代には辛味はなかった。これはこの村の特産物である。
アナリアはよく知っているが、パズルマッシュルームは炒めてもあまり味はない。さすがにそこまで再現する気はなかったのだ。
「……何を作っていたんです?」
お皿を並べながら、アナリアが聞く。
イスカミナが弄っていたのは、細長い四角い箱のようなものだった。
「もぐ。魔導トロッコの模型もぐ。わかりやすいのがあるといいと思うもぐ」
「なるほど……。車輪がまだなんですね」
「そうもぐ。出来合いの模型だけど、あとは車輪を付ければ完成もぐ!」
カチャカチャ。
道具箱から車輪を出すと、イスカミナはあっという間に魔導トロッコの模型を完成させる。
「親戚から貰った模型が、まさかの大役立ちもぐ」
「ははぁ、そんな感じなんですね」
「ご飯の前にちょっとだけ、動かすもぐ」
「いいですよ。コカトリスのぬいぐるみとか乗せましょうか」
「ナイスアイデアもぐ!」
リビングに置いてあるいくつものコカトリスぬいぐるみ、その中でも小さいぬいぐるみをイスカミナは手に取る。
ぽて。
そして魔導トロッコの上に乗せた。
なかなか良いカンジである。
「可愛いですね……!」
「いいもぐ!」
そしてまたカチャカチャとイスカミナが弄る。
「じゃあ、動かすもぐ!」
「ドキドキ……!」
「地平線までかっ飛ぶもぐ!」
「トロッコですよね、これ!?」
「冗談もぐ! そんなに動かないもぐ!」
そうしてスイッチを入れるイスカミナ。
「スイッチオーン、もぐ!」
カチャ。
グオオオーーンと重低音が鳴り、模型が動き始める。
だが……。
「「…………」」
……ノロノロ。遅い。
かなり遅い。ほとんど進まない。
亀のほうが早いくらいのスピードである。
「やっぱり、パワーが足りないもぐね」
「……そうですか」
ぽて。コカトリスぬいぐるみがトロッコから落ちる。
「あっ、ぬいぐるみ落ちたもぐ」
「そこそこ揺れてますしね……」
「仕方ないもぐ。元はおもちゃもぐ。かなり改造しないとダメもぐ」
そこでイスカミナはぐっと親指を立てる。彼女特有の切り替えの速さでもって。
「よし、続きはご飯の後にするもぐ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます