246.お疲れ様会

 ステラ達がばびゅんして行き、それを見送った俺とウッドは大樹の塔に向かった。


「じゃあ、行くか」

「ウゴウゴ、わかった!」


 今回の芸術祭でテテトカやアナリア、イスカミナやララトマには世話になったからな。

 ささやかにお疲れ様会をやろうということにしたのだ。


 日はまだ昇ったばかり……。

 とはいえテテトカ達は夜は早く寝るので、日中にやる方が都合が良い。


 大樹の塔に入ると、すでに招待した人達は全員揃っていた。


 あとは給仕役として、ブラウンとニャフ族が数人だな。

 ……ドリアードに慣れているし、彼が適役なのだ。


 すでにテーブルには食事がセットされている。


 十種類以上の香味野菜を一晩煮込んだ、極上のスープ。

 もちろんこの村の選りすぐりだ。


 王国各地の名産ハムとチーズの盛り合わせ。

 ザンザス経由で取り寄せた、美食家も唸る……はず。


 マルデホタテの厚切り辛味炒め。

 たっぷりとした歯応えと旨辛が楽しめる。


 デザートにはふわもち食感のパンケーキ、フルーツデカ盛りの蜂蜜シロップ添え。

 貴族でもおいそれとは食べられない組み合わせだ。


 そして俺達を見たテテトカがわたわたと手を振った。


「どもどもー」

「お邪魔するよ、テテトカ」

「ウゴ……お邪魔します!」

「どぞどぞー」


 すでに席もセットされていた。

 ドリアードの朝は意外と早いからな……。

 まぁ、日中も寝るんだが。


 アナリアとイスカミナの服装も、普段と違う。

 黒のフォーマルな服装だな。あまり見ることはないが、二人ともよく似合っている。


「今日はお招き頂き、ありがとうございます!」

「光栄ですもぐ!」


 ララトマも並んでいる……ちょっとと言うか、なんだかカチコチに緊張している。


「ほ、本日は……お招き頂いて、あい、ありがとうございましゅ!」


 ……凄い慌ててる。


 目線がウッドに向いているから、彼の前で緊張したのか……。そう考えると、微笑ましい。


「ああ、ありがとう。とはいえ、そんなにかしこまらなくても大丈夫だ。楽にしてほしい」


 大樹の塔では他のドリアードが草だんごを作ったり、植木鉢に入っていたりするからな。

 あんまり堅苦しい雰囲気にするつもりはない


 そしてブラウンがすっと前に出てお辞儀しつつ、皆に向き直る。間合いの入れ方がさすがプロである。


「エルト様の命により、お料理の数々を取り揃えましたにゃん。どうぞご賞味くださいにゃん」


 にゃにゃーんとニャフ族が料理を持ってくる。

 おお、かなりおいしそうだな。


「今回は芸術祭で特に働いてもらった。ありがとう。時刻は早いが……のんびり食事を楽しもう!」


 アナリア達は本日仕事はなし、このお疲れ様会だけである。

 心置きなく楽しめるだろう。


 ……と、俺は腕まくりをした。


 ドリアードのテテトカには豪勢な食事と言ってもアレだからな。口に合わない可能性がある。


 本当に感謝の意を示すなら確実なのは……俺が草だんごをこねて、食べてもらうことなのだ。


 やるか。こねこね……!


 ◇


「はー……このマルデホタテ、おいしいですねぇ……」

「歯応えばっちりもぐー!」


 アナリアとイスカミナが湖でとれたマルデホタテの辛味炒めに舌鼓を打つ。

 まだ量の関係で売りには出せないが、かなりの味になっているはずだ。


 ウッドとララトマはまったりしているな。


「ウゴ、このお水おいしい……!」

「そ、それは地下広場の水脈から取ってきたのを……そう、濾過したんです!」

「ウゴ……さらに綺麗にしたんだ」

「はい、おいしいですか?」

「うん、とってもおいしい……ウゴ」


 ウッドがさっと優しくララトマの髪を撫でる。

 あまりに自然だったので、見過ごすところだった。


「んふふ……!」


 ララトマが嬉しそうにウッドを見上げる。


 ……やるな、ウッド。

 父さんは嬉しいよ……。


 そして俺はテテトカ相手に草だんごをこねこねしていた。

 俺の作った草だんごを、テテトカが片っ端から食べていく。


 こねこねこねこね。


 こうしてこねた先から、テテトカの手が伸びる。


 ひょいひょいひょい。


「もっもっもっ………」

「おいしいか?」

「ごっくん。おいしいですよー。いやー、贅沢ですねー……食べるだけでいいなんてー」

「今回も色々とやってくれたからな。ささやかなお礼だ」


 もちろん草だんごだけじゃなくて、後で欲しい物もリサーチしてプレゼントするけれど。

 アナリア達には金一封、渡すつもりだ。


 しかし、とりあえず感謝の意を示すのは大事だろう。

 ステラ達の出発をもって、少なくともこの村でできる芸術祭の準備は終わった。

 あとは帰ってきたステラ達の報告次第だ。


「アナリア……あ、あれはいいもぐ?」

「いいんです……! ドリアードはエブリデイ・フリーダムなので……」

「それは感じてるもぐ……」


 イスカミナには驚きだろうが、ある意味これは平常運転だからな。

 テテトカはブレないのだ。


「エルト様も、どぞー」


 テテトカが俺の作った草だんごを手にとって、口元に持ってくる。


「おっ、ありがとう」


 ひょい。ぱくっ。


 ……もぐもぐ、ごっくん。


「おいしい……」

「腕前が上がったのですよー」

「そ、そうか?」


 にぱーとするテテトカ。

 そう言われると嬉しいな。何気にテテトカや草だんごとも長い付き合いだし。


「あの花飾り、ぼくもとっても楽しかったです。たくさん他の人のも見ることができましたしー」

「ああ、それなら良かった」

「ここに来てから、新鮮なことばっかりですー」


 草だんごを手に取り、微笑みながらテテトカが言う。


 それはテテトカの本音だろう。

 でも良かった、そう言ってくれるなら。やった甲斐があるというものだ。


「さぁ、じゃあ……ぼくも草だんご、作りますねー」


 そう言うと、テテトカがぽてぽてと草だんごの材料を持ってくる。

 そして、俺の隣にきた。


「今日はたくさん、作って食べましょー」

「ああ、そうだな……!」


 そしてテテトカがアナリアの方を見る。

 うん?


 アナリアもこっちの方を見た。

 視線が合って……アナリアもこちらに微笑んでいる。

 テテトカが朗らかに言った。


「余っても食べマスターがいますしー」


 俺はすっとアナリアから目をそらした。

 やはりマイペースだな、テテトカ……。


「……そうだな」


 とりあえず、俺はそう答えたのだった。

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