229.チーム名

 二人でデザインをガンガン進めていく。

 とはいえ描くのはステラなんだが……。

 しかし俺が描くより遥かに上手いし速いしな。


「どうもコカトリス以外は見たままになりますね……!」


 再びステラが首を傾げる。

 ヒールベリーが納得できないらしい。


 構図は中央にコカトリスの絵、右羽にヒールベリーを持たせるのに決まった。

 だけどバランスが納得できないらしい。


 どの辺りにどれくらいのコカトリス、ヒールベリーを描くのか。それを決めないといけない。


「それなら俺が色々と生み出そうか」

「色々……ですか?」


【治癒の実】を使い、テーブルの上にヒールベリーをいくつも出現させる。

 普段はどれも同じような形だが、今回は少し違う。


 あえてバラバラな大きさで生み出してみた。

 大きい物と小さい物では倍以上の差だ。


「不揃いに生み出すのは、逆に魔力の効率が良くないのでやらないんだが。しかしモデルとしては役に立つんじゃないか?」

「はい……! ありがとうございます!」


 植物魔法で生み出す物にはちょうどよい大きさがあるようで、それから外れると効率が悪くなる。

 普段の二倍大きいヒールベリーを生み出すのに、十倍近い魔力が必要なのだ。

 これでは意味がない……と思っていたが、モデルとしてはこの方がいいかもな。


 ステラが真剣な目付きでヒールベリーを転がしたり、覗き込んだりしている。


「ふぅむ……」

「どうだ? もう少し生み出そうか?」

「いえ、むしろ――」


 と、お風呂場から音がする。

 ディア達がお風呂から上がってきたか。


「ぴよー! いいおゆだったぴよー!」

「わう。ふやけるほど長風呂したぞ」

「ウゴ、ここに拭き取り残し……」


 どたどたとリビングに入ってくる子ども達。

 みんな、ホクホクだな。


 そしてステラがディアをじっと見つめる。


「ちょうどいいところに……!」

「ぴよー?」


 すすっと椅子から立ち上がったステラがディアを抱き上げ、テーブルの上にそっと乗せる。


「ぴよ。なかまのえがたっくさんぴよね」

「ええ、ちょっと緊急かつやむを得ない事情により……このヒールベリーをこう、掲げるように持ってもらえますか?」

「ぴよ? こうぴよ?」


 ステラから渡されたヒールベリーを右羽で掲げるディア。

 かわいい。


 けどヒールベリーが小さすぎるか。

 もっとバランスを追求しなければならないな。


「そうです……! いえ、これではありませんでした」

「このもっと大きい方が良さそうだな」

「はい、こっちですね!」

「ぴよ?」


 ディアの持っているヒールベリーを大きな物にチェンジする。

 ふむ。この方がバランスいいな。


「いいですね! インスピレーションがドンドン湧き上がってきました!」

「よかったぴよ!」


 ディアのお腹にもふもふと顔を埋めるステラ。


「ウゴウゴ、お洋服を作ってる?」

「ああ、よくわかったな。これから野ボール用の服を作ろうかと思っているんだ」

「ウゴ、芸術祭に向けてだと……」

「かなり急がないとなんだぞ」

「そのつもりだ。デザインは早急に決めないとな……」


 背中側に必要なのは背番号で、これはそれほど時間は掛からないだろう。


 あとは――チーム名か。

 ユニフォームにロゴマークとチームネームは外せない。


「……地獄には野ボールのチームとかあるのか?」


 なんでこんなことを聞いたのか、自分でもよくわからない。

 だけど自分以外で野球知識がありそうなのは、マルコシアスだけだ。


 マルコシアスはテーブルに頭をちょこんと乗せて、


「あるんだぞ。インフェルノディーモンズ、トルクメニスタンヘルゲート、黄泉レイヴンズ……いっぱいなんだぞ」

「そんなにあるんですか……!?」


 ステラがディアのお腹から顔を離し、キラキラした瞳でマルコシアスを見つめる。


「地獄の悪魔は暇だから、どんなスポーツでもやってるんだぞ。かくいう我も……盗塁王だった気がするんだぞ」

「そうだろうな……」


 超加速を使えば一発だろう。

 まぁ、もしかしたら他の悪魔たちには超投球や超守備があるのかもしれないが。


「あとは識別用にチーム名がいるな。仮の名前でも付けないと」

「ウゴウゴ、この村にちなむやつ?」

「出来る限り、その方がいいだろうな」


 プロ野球のチーム名は地域・運営団体名と動物名の組み合わせがほとんどのはず。


「ヒールベリー・コカトリスでは……そのまま過ぎますね」


 ドキッ。


 まさにその通りの名前を考えていた。

 やはり安直か……。


「一般名詞は避けたほうがいいんだぞ」

「……むぅ、一理ある」


 チーム名は単純な名詞と違う方がいい。

 それは確かだ。


「ヴィレッジ・コカトニアはどうなんだぞ?」

「あっ、なかなかいいですね」

「センスあるぴよね!」


 おおう、悪くない響きだな。

 コカトニアはコカトリスの言い方のひとつで、少し古い言葉だ。

 月刊ぴよで読んだぞ。


「レイアの言っていたアレコレともセット……にもできるんだぞ」

「ウゴ、策士……」

「考えてますね……!」


 この世界の文字はアルファベットに近い。

 シュシュッとステラが筆を走らせる。


「ヴィレッジ・コカトニア、と」


 達筆……!

 目を細めないと読めない。


 そうだ、ステラがノリノリで書くと古文書みたいになるんだった。

 普段落ち着いて書くと読めるんだが……。


「……父上も書いてみるんだぞ」


 マルコシアスも俺と同じことを思ったらしく、紙と筆を持たせてくる。


「ヴィレッジ・コカトニア……と」


 シュシュッと書く。少し筆記体で。

 俺の字を見たディアがぴよぴよと頷く。


「きれーぴよね!」

「エルト様の字はやはり読みやすく、格調がありますね……!」

「あ、ありがとう……」


 ちょっと恥ずかしい。

 実家で仕込まれたので、字はそれなりに上手いのだ。


 やや字が丸っこいのは家柄で、ナーガシュ家の字はこんな感じである。

 歴史ある貴族家には独特の文体があるのも、この世界ならではか。


 それから何度か清書して、文字のバランスを決めていく。

 並行してステラがコカトリスの絵を描く――共同作業だな。


 終わったのはかなりの夜更けだけど、最終的に良さげなデザインになった。


 真ん中にかわいらしいコカトリス、その右羽に大きいヒールベリーを掲げている。

 そしてコカトリスの下に丸っこく『ヴィレッジ・コカトニア』……と。


 ふむ、いいんじゃないか?


「……完成だ」


 あとは実際に縫って作らないといけない。

 ステラもやると言っているが、様々なテスト品を作るのだと道具や材料がいる。


 図柄のひとつひとつを糸で再現しないといけないわけだしな。

 それだけの道具類は家にはないので、借りてこないといけない。


「私も出来ますが、前提として道具や材料を持っているのは……」

「そうだな……やはり彼女か」


 この村で一番の裁縫家といえば……。


 常にコカトリス帽子を被って、ぬいぐるみ作りに余念のない冒険者のギルドマスター。

 言ってて本業がわからなくなってきたな。

 だがあのレイアを置いて、他にいないだろう。


領地情報


 地名:ヒールベリーの村

 野球チーム名:ヴィレッジ・コカトニア

 特別施設:冒険者ギルド、大樹の塔(土風呂付き)、地下広場の宿、コカトリス大浴場、コカトリスボート係留所

 総人口:243

 観光レベル:B(土風呂、幻想的な地下空間、エルフ料理のレストラン)

 漁業レベル:B(レインボーフィッシュ飼育、鱗の出し汁、マルデホタテ貝)

 牧場レベル:C(コカトリス姉妹、目の光るコカトリス)

 魔王レベル:D(悪魔マルわんちゃん、赤い超高速)

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