230.マルデコットン

 チーム名のデザインまで決めたところで、とりあえず作業は終わりにする。

 すでにディアもマルコシアスも眠そうだし。


「ぴよ〜……ねむぴよね……」

「わうわう。我もなんだぞ」

「ウゴウゴ、先に寝てる?」


 俺とステラが紙を束ねて後片付けをする。


「私はさっとシャワーを浴びてから寝たいので……先に寝ていてかまいませんよ」

「ああ……俺もぱっとシャワーくらい浴びて寝るからな……」

「ぴよ……。ふたりでシャワー、いくぴよ?」

「「ぶっ」」


 俺とステラが同時に吹き出す。

 チラッとステラを見たら、うつむいて一気に真っ赤になってた。

 ……真っ赤なのは俺も同じかもだが。


「わうー。そういうのは……まだ早いかもなんだぞ。わふぅ」


 マルコシアスが絶妙にあくびを挟みながらむにゃむにゃしてる。


「ウゴウゴ、寝るなら綿のところに行こう」

「そうぴよねー……。ここでねると、けなみがごわついちゃうぴよよ……」


 ふぁぁ……とディアもあくびをする。


「……俺が三人を見てるから先に行ってきていいよ、ステラ」

「あう……。お、お言葉に甘えさせていただきます」


 ふにゃふにゃとステラがシャワーに向かう。


 子どもたちはもう寝るモードだな。三人とも綿スペースに横になった。


 もう灯りは最小限でいいだろうな。

 リビングがかなり暗くなる。


 でもステラなら大丈夫だろうし、星明りもあるからな。

 俺も寝転がりながら、ディアやマルコシアスをなでなでする。


「ぴよよー……もうおやすみ、ぴよ……」

「ああ、夜更けまでありがとうな。先に寝てていいから」

「ぴよー。マルちゃんのせなかをなでながら、ねるぴよね……」

「わうー。主のふわもこで、我も……おやすみ」

「ウゴウゴ、おやすみなさい」


 少しうとうとしていると、ステラがリビングへと戻ってきた。

 ほかほかになってるな。


 子どもたちはもうすやすやと寝入っていた。

 ステラが俺の側に来てささやく。


「戻りました」

「もう上がってきたのか、早いな」

「ええ……。はい。頭を使ってけっこう眠かったので……」

「なるほど、俺もだ」


 オリジナルユニフォームを考えるなんて、初めてだからな。意外と頭と神経を使った。


 もぞもぞと静かに綿を抜け出す。

 ぱぱっと体を綺麗にしてさっさと寝るか。


「先に寝てていいからな」


 ぽむっとステラの頭を撫でて、俺はシャワーへ行く。


 ◇


 翌朝。

 ステラに抱き着かれた姿勢で目を覚ます。

 ……これはいつものことだな。俺としても全然嫌じゃないし。


 そして朝ご飯を食べて、冒険者ギルドへ。

 とりあえず普通の仕事もしないとな。


 その間にブラウンを使いにして、レイアに概要を説明した手紙を渡してもらう。

 複写したデザインと一緒にだな。


 打ち合わせは午後からにして……と。

 午後一番にレイアが俺の執務室に現れた。

 たぶん、そうだろうと思ってステラもここにいる。


 ノックからして、レイアのテンションが高いのがわかる。

 入室して挨拶が終わると、レイアは首をぶんぶんと縦に振った。


「概要は承知しました……。なるほど、なるほど! いいではありませんか!」

「そうですよね……! 野ボールにふさわしいですよね!」

「男女、身分の区別なく……悪いはずがありませんとも!」


 予想以上に好評だな。


 まぁ、常にコカトリス帽子を被っているレイアならわかってくれると思ったが……。

 全人類にコカトリス帽子を売り込もうという野望を持っていても、不思議じゃないからな。


 とりあえずコカトリスがデザインされていれば、ノッてくれると信じていた。


「デザインはこれ以上、大幅には変えないつもりだ。あとは道具や材料だが……」

「いざというときのために、道具類は多めに持っています。それをお使いくだされば……」

「いざというとき?」

「帽子やぬいぐるみに補修は必要……もとい、冒険者にとって装備は命綱です。それなりの服を作れる道具はあります」

「なるほど……」


 確かに森に入るのでもズボンや手袋なんかはあった方がいいしな。

 破れたら縫う必要もある。


「問題は材料のほうですね。正直、実用性と見栄えを両立させる材料はあまりありません」

「冒険者の装備に識別性はいりませんからね……。魔物に見つかりやすくなりますし」

「材料の要望はありますか?」


 レイアの問いかけに、俺は整理して話す。


「運動をするから、やはり伸縮性は大切だな。あとは通気性も欲しい。熱がこもるとよくないし」

「野外でやるので汚れもありますね。何度も洗濯できるか、それなりに安価でないと」

「そうだな……。耐水性もあるとありがたい。雨天でやるスポーツではないが、不意の雨で服が駄目になるのはな」


 こうしてみると、結構な条件だな。


「ふむふむ……。耐久力なら、あれがピッタリでしょうか」

「心当たりがあるのか?」

「ザンザスのダンジョンにありますね。マルデコットンが……」

「あー、第一階層にそんなのが……ありましたね」


 ステラには覚えがあったらしい。


「でもあれは加工が難しいとかで……」

「そうです、そうです。礼服には向きません。装飾よりも耐久性――主に子どもや職人が着る服にしかならないのです」

「ふむ、なるほどな……。だけどユニフォームなら問題はなさそうだ。あと加工は……」

「魔力があればできるはず、ですよね?」


 ステラの質問にレイアが頷く。

 そのまま使うならいいが、加工には魔力を要するのか。

 それだと素材としては確かに微妙だな……。


 しかし芸術祭に出す前提なら悪くない。

 とりあえず完成形を作らないといけないし。


 本格的に量産するときには他の素材でもいい。

 まずはそれなりの出来にならないとな。


「はい。それならすぐに取り寄せる手はずをしましょう」

「装飾用の糸も頼む。黄色や青色なんかだな……」


 こうして、俺達はレイアに道具と材料を依頼した。

 とりあえずは揃いそうだな。


 ……あとは実際に作ってみて、か。

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