228.ユニフォーム
俺とステラはせっせとユニフォームのデザインを進めていた。
大きな紙をテーブルに広げて、そこに色々と書いていく。
ちなみにディアやマルコシアス、ウッドはお風呂に行っている。
なので二人きりで集中しているのだ。
「薄く、半袖……動きやすく……」
俺の言葉を繰り返しながら、ふむふむとステラが頷く。
「動きやすいのは重要だな。特に野ボールは腕をよく動かすから」
「その通りですね。腕まわりは余裕を持って、と……」
ステラが左腕をくるくると回す。
「両腕の自由度が大切ですね。……冒険者の服装にそこそこ近くなるでしょうか。ポケットや装飾もないですし」
「貴族や商人の服はそこらが多いからな……」
貴族の服は見栄えによって、商人の服は実用性のために色々と多くなる。
だけどユニフォームにはそれはない。
動きやすさが第一だし、野球以外に使うことを前提としていないからだ。
「あとは男女ともに基本同じデザインだ」
「ほうほう……」
ステラがいささか意外そうに頷く。
これは予想されていた通りだった。この世界の服装は男女別である。
現代に入るまで男女によって服装は分かれていた。
しかしユニフォームは基本的に男女兼用である。
サイズの違いはあれど、この点は重要だろう。
……問題はこれが、拒絶反応を招かないかということだが。
ちらっとステラを見ると、目の奥のきらめきは少しも衰えていない。
「男女の区別なく、野ボールをやるようにということですね……!」
「ま、まぁそうだな。わかってくれて嬉しいよ」
「ええ、素晴らしいお考えですね……! そうです、男女ともに野ボールをやるべきなんです!」
「お、おう……」
これは大丈夫か。しかし次が本題だ。
「それでもうひとつあるんだが……」
野球のユニフォームの特徴として、当然だが身分の区別もしないのだ。
選手のユニフォームであれば違うのは背番号だけ。
家や実績も関係ない。
あとはホームやアウェイ、限定などあるが……その場合はチームごとに変える。個人的に変えることは許されない。
これはとても大切なことだ。
百年の伝統、ユニフォームの根幹である。
だけどこの世界では間違いなく異端の考えだ。
統一といっても、ステラの頭の中では俺と違う風に理解しているだろう。
「貴族や平民、身分の違いでもデザインは変えてはいけない。全員、背番号を除いて同じデザインだ。同一チーム、同デザインが鉄則とする。貴族でも余計な装飾は全て却下だ」
「……!」
ステラが驚きながら、周囲を窺う。
もちろんここは俺の家のリビングだから、他に誰もいないが。
ディア達はお風呂に行っているしな。俺達家族は結構な長風呂である。
まぁ、俺とステラもお風呂はのんびり入る方だし……その気質が受け継がれている。
だけどこの反応で確信した。
やはり、俺とステラでは『服装を統一』のレベルが違っていたのだ。
ここまでとは思っていなかったんだろう。
「ほ、本気ですか……?」
「……ああ」
やっぱりこういう反応になるよな。
例えば支給される騎士の鎧でも、ここまで画一的ではないはずだ。
黒龍騎士団でもちょいちょい個人個人で意匠は違っていた。
しかし野球のユニフォームはそれを遥かに上回る画一性が必要なのだ。
そこは譲れない。譲っては野球――いや、野ボールのためにならないのだ。
「わかってくれ。野ボールのためにはこうしないといけないんだ」
「仰っている意味はご理解されているのですよね……? とんでもないことです。身分によらず完全に服装を同じにするなんて……」
「ああ、だがここは譲りたくない」
「なるほど……」
ステラはそう言うと、目を閉じる。
そして彼女はカッと見開いた。
「ス、ステラ?」
「野ボールのためには、既存の秩序など無きがごとしと……。そこまでの覚悟をされているのですね」
「お、おう……」
なんだか大仰な言い方じゃないか?
それともステラの生きていた頃は当たり前の言い方なのか?
ステラは静かに、しかし圧を高めて俺に問う。
「これは――革命ですね?」
「……いや」
そこまでじゃないんだが。
服装を統一するのは別に野球の中だけだし……。
「むしろ当然の成り行きである、と……」
ずずいっとステラが俺の顔に近寄る。
瞳の奥の炎……それは白く変わっているように思えた。
炎は白い方が熱いのだ。そんな話を思い出した。
「おそらく反発もあるかと思いますが……理はエルト様にあると思います」
「う、うん」
「野ボール普及のため、微力ながらお手伝いいたします」
「あ、ありがとう……」
……うん。
とりあえずはいいのかな?
いいことにしておこう。
それから背番号の位置や大きさを書き込んでいった。これはスムーズにいったな。
実用的な部分だし。
「問題は前側ですか……」
「そうだな。ここには文字や絵が必要だが……」
プロチームだと上半身の胸部分にチーム名。
そして袖口にロゴマークが入るのが普通かな。
ただ応援用のユニフォームはこの限りではない。
もっと派手で、ユニークなのも数多いのだ。
最初だし、派手目でもいいかな。
ユニフォームは頻繁に変わるしな……。
「とりあえず、親しみやすくインパクトが欲しいな」
「コカトリスですかね?」
「……その手もある」
「コカトリスですよね?」
がさごそ。
紙は何枚も用意している。
その一枚にぴぴっとステラが筆を走らせる。
そこにはディフォルメされたコカトリスの上半身が描き上がっていた。
「う、うまい……」
アナリアも上手かったが、それに劣らない。
ちなみにこのコカトリスは右の羽を上げて、挨拶してるみたいだ。
おはぴよ!
ディアもよくやる。
「コカトリスなら上手く描けます……!」
「心強い……」
そして圧が凄い。
なんとしてもコカトリス。
「わかった、コカトリスにしよう」
「ありがとうございます……!」
まぁ、他にいいのも考え付かないしな。
この村から始めるならコカトリスをモチーフにした方がいいだろう。
「しかしコカトリスを独占するのは忍びないですね。チームが増えたときのために、なにかもうひとつ欲しいような」
もうモチーフの重複を心配してる!
だけど懸念はもっともである。
人気のモチーフに一手間加えて、独自性を出していきたい。
コカトリスともうひとつ、加えるとするなら――。
「……ヒールベリーかな?」
「いいですね! この村らしいです!」
別の紙にささっとステラがヒールベリーを描く。
こちらはえらく写実的だな。
コカトリスとタッチがかなり違う。
「ふむ……どうも実物の物はそのまま描いてしまうんですよね」
「でもいいんじゃないか?」
「うーん……!」
本人的には納得していないらしいが。
しかし光明は見えた。
野ボール、コカトリス、この村らしさ。
すべてを満たしている……はずだ。
この調子なら、なんとか間に合いそうだな。
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