224.安らぐ子ども達

 交代交代でお風呂に入り、オードリー達と夜ご飯も一緒に食べた。

 あとは寝るだけ……になったな。


「ぴよー。おなかいっぱいぴよねー」


 ソファーの上にはオードリーとクラリッサが座っていた。

 そしてディアは、オードリーの膝の上で横になっている。


 マルコシアスは子犬姿でクラリッサの膝の上だな。

 家族以外に撫でさせるのは珍しい。


 ディアはステラの作ったエルフ料理をもりもり食べていたからか、ちょっと眠そうである。


 そんなディアをオードリーは優しい目で撫でていた。


「よく食べてたもんねー」

「ぴよ。さいきん、おなかがよくすくぴよ」

「育ち盛りなんでしょうか……」

「かもしれないんだぞ」


 クラリッサもマルコシアスのしっとり毛並みが気に入ったのか、ゆっくりとずっと撫でていた。


 マルコシアスも目を細めて、それを気持ち良さそうに受け入れている。


「のびーるぴよ……!」


 うにょーとディアがのびのびする。

 意味は特にない。


「かわいい……!」

「かわいいねぇ……!」

「我も伸びるんだぞ」


 うにょうにょ。マルコシアスも伸びる。

 特に意味はない。たぶん。


 ちなみに俺とステラ、ウッドはホールド兄さんからの手紙を読んでいた。

 向こうは子ども同士でも問題はなさそうだものな。


「ふむ……」

「どのような事が書いてありましたでしょうか?」

「この村から出展物を六点から十点ほど出してくれと書いてあるな」

「ウゴウゴ。予想通り?」

「そうだな。それくらいになるだろうとは思っていたが……」


 半月後、今度はホールド兄さんがこの村に来るそうだ。ザンザスと一緒に回って、最終打ち合わせのようだな。


 その時に出展物の調整その他をしたいようだ。

 事実上、この時に出展物は決まるわけだな。


「ほむ。そのあとはまた半月から三週間で芸術祭ですか……」

「馬車で運ぶか、ナナに運ばせてくれと書いてあるな」


 割と気軽な調子で書いてあるが。


「ウゴ……あのドラムの花飾りを? でもパーツごとに分ければ……」


 ウッドがうんうんと考え込んでいる。俺はあの花飾りを作ってないからな。

 どういう風にすればいいかは、ウッドの方がわかっているだろう。


「そもそも、あれは分解できるのか?」

「ウゴウゴ……丁寧にやれば、バラバラにできる。手順を間違えなければ、同じように飾れる……はず」


 時間はあるから、やり方を詰めればいけるか?


「またナナにはバットと一緒に寝てもらわないといけないですね」


 バットと寝ない選択肢はないのかな?

 ないんだろうな……。


「ナナは野ボールの伝道師ですからね。今回もまた、彼女の協力が必要不可欠です……!」

「お、おう……」


 品物を運ぶ場所は北の国の大聖堂になりそう、とも書いてある。

 ホールド兄さんいわく、ここからまっすぐ北へ……急いでも一週間はかかるらしい。


 ナナとマルコシアスのばびゅんなら、もっと早く行けるかもだが。

 しかし実質的な準備期間はもうあまりない。


 まぁ、これは予想通りだ。

 そのために色々と作ってきているんだし。


 最後に出展物の注意事項か。

 あまりに大きすぎるものは却下。当然だな。


 えーと、トマトを馬鹿にするようなものは厳禁。

 可能ならコカトリスモチーフのものは何点か用意願いたし。

 村独自の特産物があれば、なおよし……か。


 と、ステラがすっと村独自という文言を指し示す。


「村独自……?」

「……野ボールのなにかを」


 ステラの瞳が燃えている。

 それを見て、俺はとりあえず頷いた。


「わ、わかった」


 何をどうするかは、後で考えなければだが……。

 後でレイアとナナに相談しなければだな。


 ◇


 オードリー達の宿。

 すでに夜更けであり、空には月と星が輝いている。


 ベッドの上にはパジャマ姿のオードリーとクラリッサがいた。

 その二人の間にディアと子犬姿のマルコシアスがいる。今夜は一緒に寝ることにしたのだ。


「今日はたくさん、お喋りしたねー」

「ぴよ。まだたりない、ぴよ……」


 というディアだが、すでに半分目が閉じていた。


「わうー。我も眠いぞ……」

「ええ、私も眠いですね……」

「……ぴよー。ねちゃうぴよ……」

「いいんだよ、寝ちゃっても」

「ぴよー……」


 オードリーがディアの体をさわさわする。

 そうされると、ディアは余計に眠くなってきた。


「でもあしたになると、またおわかれぴよ」

「うん。でもまた会えるから、ね」

「私もまたこちらに来るから……!」

「ぴよー……。そうぴよね」


 思ったよりも早く、二人と再会できたのだ。

 それがなによりも嬉しかった。


 別れは悲しいけれど、また会うことができる。

 ここにいる誰もが再会を望んでいる。

 それならば、きっとまた会えるのだ。


「そうぴよ。きたでなにか、おまつりやるぴよ……?」

「あっ、うん。父上が叔父様といっしょにやるんだって」

「ヴァンパイア達も一緒です」

「ヴァンパイア……だっぴするぴよのなかまぴよね……」

「脱皮?」


 聞き返すオードリーに、マルコシアスが答える。


「ナナの収納のことなんだぞ」

「んん? うん、なるほど……」


 オードリーはなんとなく察した。

 ディアは結構、見たままを見た通りに理解している節がある。


「きたにはいっぱい、だっぴするぴよがいるぴよ……?」

「はい、ヴァンパイアだけのちいきもありますし……」


 エルフの国もそうだが、生活環境の違いで種族ごとに固まっているのだ。


 北の国は寒すぎて樹木が少ない。なので古くから住み着いているエルフはごく少数。

 同じように東の国は日照時間が長く、雨も多い。ヴァンパイアは住みたがらないのだ。


「まじぴよ……。もしかして、せかいにはだっぴするぴよのほうがおおいぴよか……?」

「そ、それはどうなんだろう?」

「じつはたいはんのぴよは、だっぴしちゃうかもぴよか……」


 世界の真理をひとつ悟った雰囲気で、ディアはそのまま目を閉じた。


「ぴよ……。すやー……ぴよ」

「……寝ちゃいましたね」

「うん、そうだね」

「わうー……すー……」


 マルコシアスもいつの間にか静かに寝息を立てている。割と眠かったらしい。


「ふぁ……それじゃ、私達も寝ようか……」

「はい……」


 そう言うと、クラリッサがぽんとオードリーの頭を撫でた。


「おやすみなさい、です」

「んふふ、おやすみ、クラリッサ」

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