225.アイデア

 翌朝。

 小鳥の鳴き声で俺は目を覚ました。


「んむ……」


 今日も綿の中で寝ていたのだが、ひとつ普段と違うところがあった。

 ディアとマルコシアスがいないのだ。


 なので俺とステラはそのまま二人きりで寝ていたのだが。

 まぁ、ウッドはいるんだけども。


「……動けん」

「すぅ……すぅ……」


 寝る前は真正面にステラの顔があったのだが、いつの間にか抱きつかれている。

 今は俺の肩に額を当てるようにステラは寝ていた。


 背中側にステラがいるときがそうだが――普段はステラはそう引っ付いてきたりしない。

 でも寝てる間に抱きしめられるときは結構ある。


 寝てるときは無意識になるからかな?


 ステラも寂しいというか、人恋しいのかも……。


「……だけど動けん……」


 割としっかり抱きつかれている。

 実はもぞもぞ動くとぱっと離れてはくれるんだが。

 寝ぼけてもその辺りはしっかり反応する。


「んぐ……」


 腕を少し動かして、ステラの背中に触れる。

 こちらからも抱きつく形にはなれたな。


「これでいいか……」


 窓を見るに、まだ起きるには早い感じだ。

 今日は確か休日だし、少し遅く起きても構わないはず。


 ……今日はディアとマルコシアスがいないし、たまにはいいだろう。

 オードリーとクラリッサもそんなに朝早くからは動き出さないだろうし……。


 まぶたを閉じると、もう一度眠気がやってくる。


「むにゃ……コカトリスチームさんのあの打線に勝つには……」

「どんな夢を見てるんだ……?」


 まぁいいか。幸せそうな口振りだし……。

 もう一眠り、させてもらおう。


 ◇


 二度寝して起きると、それなりの時間になっていた。

 昨日の話だと、オードリー達は今日の午前にこの村を出立するらしい。

 ザンザスへ行き、それから屋敷へ戻るのだとか。


「ふんふん〜〜♪」


 朝からステラはすっごいご機嫌だ。

 というか、ステラが不機嫌なときってあんまりないな……。


 黙々とバットの手入れしているか、野ボールの練習のときは軽々しく声をかけられる雰囲気ではないが。

 いや、そういうときでもディアが近づくと普通に反応はするんだが……。


 ステラのそうした、気分がフラットなところは俺もだいぶ救われている。

 一緒にいて嫌だな、と思うときがないのだ。

 関係を続ける上でこれは大切だと思う。


「なんだかとても楽しそうだな」

「ええ、忘れましたがなんだか素敵な夢を見た気がするので……!」


 にこーとステラが微笑む。

 夢の中身は忘れたのか。でも楽しい気分は残っている、そんな夢もあるよな。


 支度をして、オードリー達の宿に向かう。


 最近は休日の朝でも外に出ると人と結構すれ違う。

 単純に人口が増えて、色々な過ごし方をする人が増えたからな。


 土風呂に入りに行く人、広場に行く人、釣りに行く人――思い思いに過ごす訳だ。


「ウゴウゴ、釣りに行く人も増えてる」

「ああ、ボートが出来たしな……。湖の上で日向ぼっこする人もいるみたいだし」

「お洒落ですね……!」


 前世でも船はレジャーのひとつだったからな。

 水の上を行くだけでも楽しいものだ。


 オードリーの宿に着くと、ちょうど向こうも諸々の支度を終えたところだったらしい。


 もう出立するということで、オードリーがはきはきと挨拶をする。


「それでは――お世話になりました!」

「ホールド兄さんとヤヤさんにもよろしくな。またいつでも来てくれ」


 そしてステラに抱えられたディアの羽をもみもみする。


「ディアちゃんも、またね!」

「ぴよ。またいつでもくるぴよ!」


 少女姿のマルコシアスも頷く。


「待ってるんだぞ」


 ディアとマルコシアスは前とは違い、それほど悲しそうにはしていない。

 再会すると確信しているからな。


 クラリッサもディアの羽をもみもみする。


「ええ、また一緒に遊びましょう!」

「もちぴよ!」

「添い寝もだぞ」

「ステラ様も……また野ボールで!」

「はい、いつでも……!」

「私も次はもーっと上手になってますから!」


 オードリーも意気込んでいる。

 ちなみにオードリーの隣のメイドにはお土産としてバット五本が進呈されていた。


「無理はしないでくださいね。過負荷は禁物、です!」

「はい……!」


 そんな感じでオードリー達は馬車に乗って、出立していった。

 馬車が見えなくなるまで、俺達も見送る。


「ぴよ……」


 家に帰りすがら、ステラがディアを気遣う。


「……寂しいですか?」


 でもディアは首を横に振った。しっかりとした口調で答える。


「さびしくないぴよ。また、あえるぴよ!」


 ◇


 この二日後、レイアが村に戻ってきた。

 元気そうで何よりだ。


 冒険者ギルドの執務室に招き、ホールド兄さんからの手紙を見せる。


「申し訳ありません、ボート納入のときも立ち会いができずに……」

「いや、気にしないでくれ。何事もなく終わったからな」


 それからしばらく情報交換をする。

 ボートと湖のこと、オードリー達が来たこと……。


 しかしあまり説明は必要なかった。

 この村から南下するオードリー達とレイアはちょうど出くわしていたらしい。

 なので道端であるが、話はしたそうなのである。


「本格的に芸術祭りに備えないといけないわけですね」

「そういうことだな。こちらから出展するものはある程度、目処はついているが」

「ドリアード文化の花飾り……とても良いと思います」

「あとは村独自のもの、ということで……野ボール関連か……」


 後半、少し声が小さくなる。

 自分でもちょっと自信がない。


 だが、レイアは朗らかに笑う。


「いいのではありませんか? 英雄ステラ様のお墨付きでもありますし……」

「……そういうものか?」


 確かに伝説の英雄が使う名剣の類と言われたらそうかもしれない。


「地方の特産物として、地元の英雄を模した物はポピュラーですからね。レプリカもお土産としては喜ばれます」

「それなら問題はないか」


 それなら異存はない。

 バットなら俺の魔法で作れるしな。


「その他に何か適当な物は……」

「コカトリスはいかがでしょうか……!」


 ずいっとレイアが身を乗り出してくる。


「ちょうどいいものを考えついたのです……!」


 と、レイアが懐から紙を取り出してきた。

 それを彼女はばさっと広げる。


「この村で過ごしてから、閃いたのです! ぬいぐるみと木の玩具を合わせた全く新しいなにかを!」

「お、おう……」


 俺はその紙をしげしげと見つめる。


 そこにはコカトリスのぬいぐるみと大樹の家の模型の組み合わせが描かれていた。

 この村を模しているっぽい。


 ……ドールハウスみたいなものか?

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