222.ぴよぴよぴよ

 というわけで野ボールをやることになった。

 ……突然だけど。


 俺達は支度すると広場に移動した。

 そこには他から集めたニャフ族や冒険者も来てもらっている。


 交流会というか、親睦を深めるいい機会だしな。

 ブラウンがきりっと運動服を着て、バットを担いでいた。


「にゃん。楽しみですにゃん……!」

「突然すまないな、ブラウン」

「大丈夫にゃん。天気も――雨は降りそうにないですにゃん」


 爽やかに風が吹いて、雲も少ない。

 グローブやボールもちゃんと用意されている。

 いつの間にかナール経由で色々と入ってきているらしい。


「ぴっぴよ、ぴっぴよ……」

「うんしょ……」


 広場の真ん中ではディアとオードリーが中心になって準備運動をしていた。


「はねをのばしてー……ぴよ。こしをぐいーとまえに……ぴよ」


 ディアが羽を伸ばしたり、ぺたんと座ってうにょうにょしてたりする。

 かわいい。

 すっかりやる気だな。


「…………」

「…………」


 クラリッサとステラは無言で準備運動している。

 離れていても気迫が凄いな。


 俺だけかもしれないが、ステラの後ろに阿修羅が見える気がする……。


「にゃん、エルト様はおやりにならないのですにゃん?」

「ああ……俺は側で座って見ていた方がいいかと思ってな」


 ステラはやる気満々なので、俺は逆に見学側になるのだ。そうすれば参加する気がない村人も、気を使わないだろうし。

 こういう気遣いは多分、重要だろう。


 まぁ、野ボールは見る人もまた大切である。

 自分でやらなくても見るのは好きという人も多いしな。


 広場の横にベンチを作り、そこでゆっくりと観戦することにする。


「わはー、いっぱいいるー」


 どたどたとテテトカを初めとするドリアード達も広場にやってきた。

 ちなみにコカトリスもぴよぴよと連れてるな。


「ふぅー! コカちゃんだぁー!」

「ぴよぴよ!」(おいでー!)


 羽を広げるコカトリス。そこに飛び込むオードリー。賑やかになってきた。


「テテトカ、こっちに来て座るか?」

「そうしますー」


 ぽてっとベンチにドリアードが並んで座る。

 ふむ……やはりドリアードは野ボールをやるのには関心がないようだな。

 まぁ、運動が得意そうな雰囲気でもないし。


「おやつにこれを食べるか?」


 俺は手をかざしていちごやぶどう、すぐに食べられる果物を生み出す。


「ありがとーございますー!」

「「わーい!」」

「他の観客にも分けてくれな」

「「はーい!」」


 もっもっもっ……。

 観客の分も果物を生み出しながら、広場を見る。


 そろそろ始まりそうだな。

 なぜかコカトリスもグローブやバットを持っているが……。参加するらしい。


「ぴよっぴー」(なんかたのしそー)

「ぴよぴよぴ……」(この木の棒、なんかある?)

「……ぴよぴー」(むこうのエルフ、やるきだねー)


 ごくり……。

 どうなるのか、全く想定ができないな。


 ◇


 今回のルールは本来の野球とはちょっと違う。

 というより、元のルールだとステラが本気出したら終わってしまう。

 村の外までホームラン連発、ボールを投げたら誰も打てない。キャッチャーの命もないかもしれない。


 二組に分かれて打つとの投げるのを交互にやる。

 ベースを走る要素はなし……ということだな。


「しゅっぴよ、しゅっぴよ」


 小さなバットを振るディア。ちゃんと頭にヘルメットも被っている。

 ディアはニャフ族とともに、小さいグループで野ボールをしている。


 ステラ、ウッド、冒険者は大人グループだな。

 妥当な分け方だろう。


「ディアちゃん……」

「なにぴよ?」

「かわいい……!」

「ありがとぴよ! オードリーもめちゃかわぴよ!」


 その横ではクラリッサがブラウンの投げたボールをスイングしようとしている。


「いくにゃーん」

「はい……!」


 しゅっとアンダースローでボールを投げるブラウン。ふわっとボールが浮き上がる。


 おお、変化球か! すごい……。


「くう……!」


 スカッ。

 盛大にクラリッサが空振りする。


「はぁ、駄目です……!」

「にゃん。力一杯じゃにゃくて、タイミングを合わせるにゃん」

「はい……!」


 ブラウンの投球……球速は早くないが、絶妙に振りづらい所に投げるな。

 手先が器用なニャフ族ならではの投球テクニックだ。


 クラリッサのスイングはまだ単調で、翻弄されている。でも何回かに一回はちゃんと当たる。

 それにブラウンもストレートを混ぜて投げているが、そちらは比較的打ててるな。


 クラリッサの隣ではオードリーがスイングしている。まだかなりフラフラだな。


「えいっ!」


 ぽてっ。空振り……。

 振り方はまぁ……あれだが、意識はボールに向かっている。最初からうまく出来る人なんていないんだし。


「クラリッサ、どーやったらそんなに綺麗に振れるの?」

「ええと、これはね……!」


 クラリッサが足の開き方や腕とかアレコレをオードリーに説明する。


「ふんふん……」

「腕だけじゃなくて、腰とか体全体を使って……」


 マルコシアスも実演する。


「こんな感じなんだぞ。遅くともフォーム、大切だぞ」

「そうぴよ。こしがだいじぴよ!」


 きゅっと腰を回すディア。


「かわいい……!」

「ありがとぴよ!」


 ふむ、対してステラの方は……。

 今、ステラがボールを投げる所だな。


 子どもグループより遠くにいるので、ちょっと見えづらいが。対戦してるのはウッドか。


「ウゴウゴ……!」

「いきます!」


 ステラが振りかぶって、ボールを投げた。

 投げたボールがぐにゃっと曲がる。


 カーブしてる……よな?

 球速が速いのと遠くからで自信はないが。


「ウゴ……!」


 ぶわっとウッドのスイングが惜しくも空を切る。


「すごく曲がる……ウゴ!」

「ふふふっ……秘密裏に練習していました!」


 練習してたのか。

 完全なカーブだったように思える。


「ぴよっぴ!」(ばっちこーい!)


 さらに奥ではコカトリスとアラサー冒険者が向き合っているな。

 ふよふよの体を揺らしながら、コカトリスがバットを構えている。


 そこにアラサー冒険者がストレートボールで勝負をかける。


「ぴよっ!」(えーい!)


 カーン。


 だがアラサー冒険者の投球を難なく打つコカトリス。


「また打たれたぜー!」


 アラサー冒険者ががっくりとうなだれる。

 身体能力の差は無情である。


「ぴよぴよぴよ」(ぱちぱちぱち)


 並んだ他のコカトリスが羽を鳴らしいる。


「ぴよぴっ!」(つぎはぼく!)


 打ったコカトリスが列に並ぶ。

 代わりに並んだコカトリスのうちの一体が、バッターボックスに立った。


 どうやら順繰りに打っているらしい。


「どんどん来い! 次は勝つぜ!」


 カーン。


「ぴよぴよぴよ」(ぱちぱちぱち)


 アラサー冒険者のボールはそれなりに速いように見えるが、コカトリスはよく打っている。


「あああー! また打たれたー! 次ー!」


 ……ほろり。


「たいへんだねぇー」

「でもこれも野ボールだ……」


 時に勝てない戦いもある。

 だがコールドになるかスリーアウトを取るまで、終わりはしないのだ。


 テテトカは草だんごを食べながら、頷いた。


「そかー」


 とまぁ、こんな感じで野ボール大会は終わったのだ。


 今日参加した面々だと、一番ステラ、二番ウッド……次にコカトリス組か。

 そしてアラサー冒険者、かな。途中からへろへろだったけど……お疲れ様。

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