196.ララトマの想いとコカボート

 大樹の塔。


 ララトマがもこもこ綿を持って、帰ってきた。

 広間にはここ最近、ウッドからもらった綿がかなり広げて置いてある。


 その綿の上で、テテトカがのびのびと寝転がっていた。

 寝てはいないようだ。薄目を開けて、うつらうつらしている程度のようだが。


 他にも何人かのドリアードが綿の上で昼寝していた。


 ララトマがそっとテテトカに近寄る。

 テテトカが首をちょっと動かして、声を掛けた。


「おかえりー」

「ただいまです、テテトカおねーちゃん」

「また綿を持って帰ってきたんだ」

「……です」


 言葉少なげに、綿を床に敷き詰めていく。


「確かにこの綿はいいよねぇ。土とはまた違うけど、ほわほわでー」

「……です」

「んー」


 テテトカはむくりと起き上がると、ララトマをじっと見た。

 それにララトマがびくっとなる。


「ど、どしたです?」

「なーんか最近、変じゃない? エルト様の家に頻繁に行ったり……。妙に言葉数が少ない時があったり、声が小さかったり……」

「そ、そんなことないです!」

「草だんご作るときも、集中してないよー」


 他のことはさて置いて、草だんごには厳しいテテトカ。


「うぐっ……」

「別に悪いって言ってるんじゃないんだよー。んー、体調が悪いわけじゃないんだよね?」

「です! そう言うんじゃなくて」


 綿を敷き詰め終わったララトマが、テテトカの隣に寝転がる。


「なんだかわからないんです。確かに集中は出来てないかもですが……」

「んー、そっかー」


 テテトカはまったりと言う。


「まー、自覚してるならいいよー。何かして欲しいことはある?」

「どうすれば……」


 ララトマは敷き詰めた綿をつまんだ。

 もうかなりの量である。これ以上持ち帰っても、邪魔になりそうだ。


「エルト様の家に行く用事?」

「です……」

「うーん、今だと……特別なのは花飾りの件かなぁ」

「それです!」

「どうどう、落ち着いて……」


 テテトカは静かに言う。


「歳も体の大きさも全然違う。それでも気にしてないの?」

「……わかんないです。とにかく……初めてで」

「んー、そっか。まぁ、そんなもんだよね」


 テテトカは手を伸ばして、ちょっと赤くなったララトマの頬をむにむにと撫でる。

 ララトマはそれを黙って受け止めていた。


「ディアちゃんを好きになっちゃったかー」

「……違うです」

「えっ!? 違うの!?」

「違うです……」


 真っ赤になったララトマが綿に顔を押し付ける。

 もごもごとララトマが言う。


「わかってて、言ったですね……」

「さー?」


 テテトカも綿に体重を預ける。

 確かにいい綿だ。植物が根を張れそうな感じもある。


「花飾りは後で教えるよー。一緒に作ればいいさー……」


 のんびりとテテトカは言うのであった。


 ◇


 一方、冒険者ギルド。

 太陽が傾いて、一面が茜色に染まっている。


 ステラと帰り支度をしていると、ブラウンがノックして入ってきた。

 手には紐で結んで丸めた大きめの紙を持っている。


「失礼しますにゃん、エルト様! ボートの図案ができましたのにゃん!」


 その丸めた紙に描いてあるのか。

 テンション高いな。

 それだけ楽しみにしているということだろう。


「おっ、出来たのか?」

「ほうほう……ボートですか?」


 ステラも興味あるのか、覗き込んでくる。


「そうですにゃん! さっきレイアから渡されましたのにゃん」

「……まだ見てないのか?」

「見てないですにゃん!」


 意気揚々としているブラウン。

 ふむ……果たしてどんなデザインになったのか。


「気になりますね……!」

「ですにゃん! じゃあ開けますにゃんー」


 紐を解いて、紙を広げるブラウン。


「にゃにゃーん!」


 ばっと紙を広げて、三人で一斉に見る。


 ……そこには水に浮かぶボート。

 コカトリスの頭部を模したボートが描かれていた。

 ちょうどくちばしのところが乗り込み口になっている……。


 そしてオールを持ったブラウンが描かれていた。

 ……うん、予想通りだな。


「コカトリスだな、まるっきり」

「へぇー、いいじゃないですか。コカトリス成分があって……」


 ステラは心底そう思ってる感じだ。

 対して肝心のブラウンは――。


「にゃん……ボートにゃん……!」


 覗き込むと目がきらきらしている。

 ボールや綿を投げたときと同じように。


 どうやら形はこれでいいらしい……。

 というより、ボートかどうかが重要みたいだな。


「ブラウン、これでいいのか?」

「いいですにゃん! グッドですにゃん!」

「そ、そうか……」

「お値段も聞いたらお手頃でしたにゃん」

「なるほどな。どれくらいで出来るんだろうか?」


 にゃーん、とブラウンは空を仰いで計算する。


「一ヶ月はかからないと思いますにゃん」

「楽しみですね……!」


 思えば、この領地に船はないしな。

 村に近づくほど川は浅くなり、しかもあまり魚はいない。


 釣れるのは小魚だけで、産業にはならないのだ。

 船を作る意義もなさそうなので、今のところ誰も作っていない。


 何気にこのコカトリスボートが第一号の船になるのか……。

 ごくり……でもこの村らしいか。

 この冒険者ギルドもそうだし。いっそコカトリス染めの方がいいかもしれん。


「にゃん、できたら湖の真ん中に行きますにゃん。エルト様達もいかがですにゃん?」

「ああ、そうだな……。ぜひ乗らせてもらうよ」

「もしかしたら意外な発見があるかもですしね……!」


 水中では魔法が使いづらいので、調査は後回しにしている。

 ステラは水の上を走れるようなことを言っていたけど、他の人にはできないし。


 ここの湖はいきなり岸辺近くから水深が深くなるしな。


 だが、湖の真ん中からなら事情は違うかもしれない。

 もし大きな発見があれば……コカトリスボートを岸へ並べることになりそうだな。

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