174.正式オープン

 そのままだらだら過ごしてご飯を食べ、就寝時間になった。

 パジャマに着替えて綿の前に集まる。


「ふんふーん、今日はこのスタイルで……!」


 ステラが綿の中に入り、ぐっと左腕を伸ばして寝転がる。

 ……どういうスタイル?


「ぴよー……ねむねむぴよ……」

「わふー……」


 ディアとマルコシアスは揃ってステラの左側に入り込む。


「ウゴウゴ、俺も寝る!」


 大きなウッドもごろんと寝転がる。

 ステラの右側だな。


 そうすると……俺もステラの左側か。

 ちょうどステラの腕があるところに俺の頭を置く形になるな。


 ……腕枕だな。


 ステラもこころなしか顔が赤くなってる。

 くっ、かわいい。


「じゃあ……お言葉に甘えて」


 深く考えると負けだ。

 俺はステラの方針にそのまま従うことにした。


 そのままステラの左腕に頭を乗せる。

 ステラにとって重くはないだろう、きっと。

 ニメートルのウッドを苦もなく背負えるくらいだし。


「ようこそ〜です」


 恥ずかしいのか、次第に小声になったし。

 こういうときステラは調子上がる。


「ぴよー……おやすみぴよねー……」

「すやわふー」

「ウゴウゴ、おやすみなさい……」

「ああ、おやすみ」

「おやすみなさい……!」


 まさか腕枕を企んでくるとは。

 先手先手を取られてる気がする。


 まぁ、でも……ステラには数百年の休眠期間があるんだ。

 その間に常識や風習も色々と変わっている。

 おそらくこーいうことも、探り探りなんだろうな。


 その辺は俺も気を付けないと。

 ステラの行動は、数百年前には問題なかった行動なんだからな……。


「……エルト様を感じますね」

「おう……俺もステラを感じる」


 腕枕だからな。

 お互いに体の一部が接触している。


 ステラがこちらに向き直り、右手で俺の頭を撫でる。


 なでなで。


 ……意外とやっぱりスキンシップ好きなんだな。

 普段はそんな兆候はないんだが。

 時たまスイッチが入るらしい。


 ステラが夢見心地でささやく。


「なんとなく、ドキドキしますね」

「そうだな……俺もだ」

「んふふ、バットを振るうこの腕でエルト様も触っちゃいます……」


 お、おう……。

 そういう感覚になるのね、うん。


「よく似てますね、やはり」

「……バットと?」

「違います……。いえ、それも似ていますが……」


 似てるんか。


「ウッドに触れたとき感じる、魔力の気配とです。植物が持つ気配に……」

「……なるほどな」


 ウッドも俺が生み出したしな。

 ステラの手がずっと俺の髪に触れている。


「すぐ帰ってきますので」

「うん……」

「そうしたら、またいっぱい撫でますからね」


 んふー、といった顔でステラが言い切る。

 自信たっぷりの顔つきだ。

 というか、もう撫でる宣言をされてしまった。


 まぁ、俺ももうわかってきている。

 こうしたステラは、勝利を確信している時なのだ。


 ◇


 それからまた数日経って、いよいよ冒険者ギルドの正式開設をする日がやってきた。


 年が明けてから移住者も増えて、嬉しい限りだ。

 お祭りを機会に移り住むという人ばかりだし、やった甲斐があったな。


 まだ一月なので、しんとした寒さがある。

 それでも霜はないし雪も降りそうにない。


 空は快晴で、こういう日にうってつけだ。


 冒険者ギルドの前に村人全員が集まっている。

 人数としては二百数十人。

 こうして見ると、本当に増えたもんだ。


 ニャフ族やドリアード、コカトリス達も勢揃いしている。


 そんな皆が見つめる巨大コカトリスとウッドの建物の前に、俺は立つ。

 長い挨拶はいらないだろう。

 というか俺も得意ではないし……。


 それでもまたひとつ、村の歴史が刻まれたのだ。


「よく集まってくれた、皆。皆のおかげで重要な一日を無事、迎えることができた」


 静かに、けれども段々と激しく。


「冒険者ギルドの設立により、村はより安全に、より豊かになるだろう。約束する」


 おお……と村人達の気持ちが盛り上がってくるのが伝わる。


「これからの新年も皆で頑張り、より良いものにして行こう!」


 俺がぐっと拳を握って天をつくと、どっと騒ぎになった。

 この辺りの反応は、日本人よりも明らかに激しいと思う。

 でも反応が返ってくるのはありがたい。


「「おおおおーー!!」」


 あとはこれだけ集まってもらったんだし、次は宴だな。


「あと広場に食べ物と飲み物をたっぷり用意した。今日は一緒に、この記念すべき日を祝ってほしい!」


 今では前世の日本で祝日を設ける意味がなんとなくわかる。

 それは共同体にとって重要な日を記憶するためであり、分かち合うためなのだ。


 盛大に開設を宣言したあと、俺達は広場に移動する。

 そこには前日に敷物をセットしてるので、あとは食べ物なんかがあれば宴を始められる。


「俺も色々と生み出すか……」


 イチゴやぶどう、メロンといった果物は生み出してすぐに食べられるからな。


 魔力を集中させて、どんどんと生み出していく。


 そしてステラや冒険者達がよいしょっと準備していた食べ物や飲み物を持ってくる。

 けっこうな量の草だんごがあるのは、ご愛嬌。

 ドリアードやコカトリスには必須のお菓子なのだ……。


 もちろん俺も植物魔法を使ってどんどんと増やしていく。

 こうしたときには、本当に便利だな……。


 一通り揃えたあとは、俺も座って色々と飲み食いをする。


「ぴよ、おいしーぴよ!」


 ディアは俺の生み出したメロンをもりもり食べてるな。

 我ながらすごい贅沢をさせてる気がする……。


「わふ、こちらもよいぞ!」


 マルコシアスはちょこんと座り、ハムやベーコンを食べてるな。


「ウゴウゴ、たくさん!」


 ウッドはぐわしっとキャベツを食べてる。

 とにかく量が重要らしい。

 ……体が大きいしな。


「んふふー」


 ステラも上機嫌に飲み食いしてる。

 ……アルコールは取ってないはずだが、テンション高いな。


 デュランダルとフラガラッハがそっと置いてあるのは、気にしないことにしよう。


 広場の中央では、レイアがバイオリンをひきながらコカトリスがぴよぴよしてる。


「いっえーい! 騒ぎましょー!!」


 合いの手を入れながらの演奏が本当に上手い。

 劇のときはあまりなかったが、盛り上げながらも手を休めない。


 ニャフ族がにゃーにゃー言いながら踊ったりしている。

 アナリアとイスカミナはドリアードに包囲されながら草だんごを食べてるな。

 まぁ、楽しそうだからいいか……。


「では、ちょっと行ってきます……!」

「お、おう」

「余興です、余興。お祭りのときはあまり出来ませんでしたから」


 演奏の切れ目にステラは立ち上がると、広場の中央に向かった。

 デュランダルとフラガラッハを持って。


 それだけでやんやの大盛り上がりになる。

 やっぱり人気があるんだな。


「ステラ様……! ステラ様は何を?」

「肉体の極限に挑戦します……!」


 そう言い放つと、二本のバットをお手玉のように投げてはキャッチする。

 くるくると細長いバットが空中で踊るように動く。


 おお……素直にすごい。観客も大盛り上がりだ。


「まだまだ、片足立ち!」


 すーっと右足を浮かして、それでもぴたりとバットお手玉は揺らがない。


「すごぴよ……!」


 ディアが目を見開いている。

 多分、俺もだが……。


「えいっ、そのままジャンプ!」


 えっ、高層ビルの屋上くらいまで飛び上がるのか!?


 どきっとしたが、ステラのジャンプは小さかった。

 ケンケンパーレベルだ。


 よかった。

 あのまま空高く行ってしまうのかと思った。


 そのまま小さなジャンプを繰り返しながら、広場の真ん中を一周する。


「すごいぞ、さすが母上」

「ああ……」


 でも多分、やろうと思えばもっと出来るんだよな……。


 一周してきたステラは一礼すると、こちらに戻ってきた。

 場は大いに盛り上がったな。

 というか、こんなのを見せられたら誰でも盛り上がる。


「お疲れ様、ステラ」

「いえいえ……もう一段階ありましたが、とりあえず今日はここまでです」

「もういちだんかい、ぴよ?」

「はい、逆立ちなんですが……」


 完全にサーカスや大道芸だな。

 ……見てみたい気もするが。


 しかしまぁ、それは次の機会でもいいか。


 こうして大盛り上がりで開設式は終わったのだった。

 ヒールベリーの村に、正式に冒険者ギルドができたのだ。


領地情報


 地名:ヒールベリーの村

 特別施設:冒険者ギルド、大樹の塔(土風呂付き)、地下広場の宿、コカトリス大浴場

 領民+23(村に商機を見出した商人達、樹木が落ち着くエルフや獣人の移住者)

 総人口:231

 観光レベル:C(土風呂、幻想的な地下空間、エルフ料理)

 漁業レベル:C(レインボーフィッシュ飼育、鱗の出し汁)

 牧場レベル:C(コカトリス姉妹、目の光るコカトリス)

 魔王レベル:D(悪魔マルわんちゃん、赤い超高速)

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