169.ふわもこ風呂

「ぴよっ……きもちよさそうぴよ」


 ディアも綺麗好きだし、お風呂好きだしな。

 すっかり入る気だ。


「私も入りたいですね……。ほわほわなコカトリス達と……」


 ほわほわな顔でステラも頷く。


「じゃあ入るか。誘われてるんだし」


 ささっと着替えてガウンを羽織る。

 ……このガウンはあれか、ニャフ族は毛が生えてるからな。それがぶわわっとならないためか。

 種族的な習慣もあるかもだが。


 出てきたステラも同じようなガウンだな。

 少し照れている。


「二人して同じような服……あまりないことですね」

「そうだな……。たまにはいいんじゃないか」

「にゃ、完成祝いですにゃ!」


 ナールもテンションが高い。

 俺も大いに興味はある。


 出来たての巨大ヒノキ風呂……。

 気持ちいいのは間違いない。


 もうコカトリス達はお風呂に入っている。

 ぷかーと浮いてたりするコカトリスもいれば、じっと動かないコカトリスもいる。


 ふむ……気分的にはどちらかというと、温水プールだな。


「ぴよ、はいるまえにしゃわーあびるぴよ!」


 待っていたディアを、ステラがひょいと持ち上げた。

 俺とナールもステラの隣にすすっと移動する。


「はい、どうぞ……!」

「ありがとぴよ! ぽちっとぴよ!」


 ディアがシャワーのスイッチを押す。

 ぬるま湯が勢い良く俺達に降り注ぐ。


「にゃーん……」


 バシャャャ……。


 少ししてぬるま湯は止まる。

 ふむ、こんな感じか。かけ湯としても大丈夫そうだな。


「これでいいぴよ!」

「ええ、入りましょう!」


 ステラもテンション高いな……。

 気持ちはわかる。俺も楽しんでいる。


 ちなみにコカトリスの羽毛は、マジカルな力で水を弾く。

 なのでシャワーを浴びてもディアはふわもこである。


「ふぅ……お湯はそんなに熱くないか……」


 手でお湯に触れてみる。

 元日本人的にはもう少し熱くてもいいが。

 確実に四十度までいってないな。


「ぴよー……いいぴよ」

「ええ、木造はいいですね。落ち着きます」


 ステラも早速、伸び伸びとお風呂を満喫している。


 ディアはお湯に浮いてるな……。

 んー……こんなおもちゃが前世であったような……。

 まぁ、深く考えるのはやめよう。


「きもちいいぴよー」


 すーっと軽快に浮いたまま、ディアがこちらに来る。かわいい。


「ああ、いいお湯だな」

「とおさまもきもちいいぴよ?」

「もちろん。この木のお風呂は好きだぞ」

「あたしもすきぴよ!」


 なでなで。


 うむ……やはり、ふわもこだ。

 不思議な感覚だな。

 もしかしたら魔法よりも不思議かもしれない。


「にゃーん……いい気持ちですにゃ」


 ナールは背が低いので、首元までたっぷり湯船に入っているな。


「ええ、本当にそうですね……!」

「ス、ステラ……!?」


 見るとステラがコカトリスに寄りかかっている。

 抜け目ない……。

 そしてほわーという顔をしている。


 すごく気持ち良さそう……。

 いや、絶対に気持ち良い。


 さすがザンザスのダンジョンで鍛えたコカトリス愛だな。

 さらなる高みを目指すのに余念がない。


 こう見えてステラもコカトリスは大好きだからな。

 自分でアイテムを作ったりはしないが……。


「ぴよ?」


 ふわもこなディアを撫でるだけでも良いのに、全身がコカトリスに包まれたら……。


 ごくり。


 そう思っていると、ステラが抱きついているコカトリスがこちらに手招きをしている。

 手というか羽だけど。


「ぴよー?」

「くるー? といってるぴよ」

「はぁ、行きますにゃーん」

「それなら俺も……」


 まさに渡りに船。

 全員でそのコカトリスに寄りかかる。


「……大丈夫なのか?」

「ぴよ、ぴよー……」


 俺の表情を読んだか、コカトリスが答える。


「ごわっとして、いいぴよ……らしいぴよ」

「コカトリスの感覚からするとそうなんだな……」


 ガウンを着ている俺達は逆にいいらしい。

 よくわからんが、常にふわもこなコカトリスからするとそうなんだろうな……。


 ふわもこふわもこ。


 でもこれはいい……。


 お湯が血行を良くして、ふわもこなコカトリスに体の重さを預ける……。

 最高じゃないか。


「にゃーん、これはたまりませんにゃ」


 ナールもご満悦だな。


「そういえば、ですにゃ……。新年明けて移住者がかなり増えそうですにゃ」

「おっ、そうなのか……」

「お手紙がたくさん来ておりますのにゃ。だいたいが商人ですにゃ、ここで修行したいという名うての料理人もいますにゃ」

「料理人……?」

「季節外れの野菜も果物も安く入りますのにゃ。修行する場所としてはもってこいですにゃ」

「なるほど、そういうのもあるのか……」


 確かにこの村なら良質の野菜や果物がすぐに手に入る。

 新しいメニューを作りたいとき、野菜や果物なら悩むことは少ないだろうな。


「あと税金も安いですにゃ。家も含めると、これから村人はかなり増えそうですにゃ」

「良かった、魅力を感じてくれる人がいるのなら成功だ」


 うんうんと頷いていると、コカトリスがゆっくり、俺達の方に来る。


「ぴよー」

「ぴぴよー」

「うん? これは……」

「きっと密着したいのでしょうね。つるっとしてるから……」

「そ、そうか……」


 もふもふもふもふ。


 いつの間にか周囲をコカトリスに取り囲まれてもふもふになっている。

 いや、むしろ俺達がごわっとされている?


 でも温かいし、ふわもこお風呂は気持ちいい。


 日中からお風呂も贅沢だが、コカトリスも加わるとさらに贅沢だな。


「……喜んでくれているみたいですね」

「ああ、そうだな」 


 コカトリスもこの村の大切な一員だ。

 楽しんでこの村にいてくれるなら、それがいい。


 結局、のぼせそうになるまでお風呂に入っていた。

 コカトリスはもう少し入っているらしい。


 でも満足してるみたいで、本当に良かった。


領地情報


 地名:ヒールベリーの村

 特別施設:冒険者ギルド(仮)、大樹の塔(土風呂付き)、地下広場の宿、コカトリス大浴場

 総人口:208

 観光レベル:C(土風呂、幻想的な地下空間、エルフ料理)

 漁業レベル:C(レインボーフィッシュ飼育、鱗の出し汁)

 牧場レベル:C(コカトリス姉妹、目の光るコカトリス)

 魔王レベル:D(悪魔マルわんちゃん、赤い超高速)

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