167.ナナのひそかな研究成果

 そのままステラ達はばびゅーんと飛んでいく……。


 きらっ。


「あおぴよね」

「ウゴ……あれ、もう降りた」

「あんまりとんでないぴよ」

「ん……そうだな。赤いのと比べるとだいぶ手前に着地したな」


 青い軌跡は、赤い軌跡に比べるとかなり手前で地面に降りてるな。

 飛んでいった距離は半分弱くらいか。

 もしかして、かなり効果時間が短いのかな……。


 そして今度は赤い光がほとばしる。

 こちらに向かって。


 きらっ……すちゃ。


 あっという間にステラ達が屋上へと戻ってくる。


「おかえりぴよ!」

「ただいまです……!」

「……疲れた」


 ぐでっとナナがステラの背中にへばりついている。

 明らかに疲れている声だ。


 特に空を飛んだことについて、コメントはないな。


「今の青い光は……ナナなのか?」

「そう……。僕の着ぐるみの奥の手、超加速です」

「なるほど……」


 やっぱりか。

 なんとなくナナがどや顔してるように感じる。

 着ぐるみで本当の表情はわからないが。


 でもなんだかその着ぐるみも頼もしく見える。

 本当にスーパー着ぐるみだな。

 いや、さすがSランク冒険者ということか?


「すごぴよ! きたのぴよは、ひかってとぶぴよ……!?」

「まだ実用段階には程遠いけどね。魔力の消費が多すぎる。それにコントロールがかなり難しい。僕以外だと地面に激突するね」

「ウゴウゴ……」


 ウッドが何か言いたそうだったが、黙っている。

 ステラも最初は思い切り地面に突き刺さってたからな。


 まぁ、ステラの平衡感覚と反射神経がないと駄目なのかもしれない。


「だから今まで使わなかったのか」

「そうです。人気のない所、馬車の乗り継ぎがうまく行かないときにしか使いませんでしたから」

「ふむ……」


 確かに激突の危険と魔力消費が多いなら、そういう使い方しかできないか。

 地下通路の時も使わなかったわけだな。


「でも驚きました。マルシスはこの着ぐるみと同じような魔法を使えるんだね」

「わう」


 ナナが少し嬉しそうに、ステラの背中から手を伸ばしてマルコシアスの頭を撫でる。


 あっ。

 そうか、このナナの青い光は……地獄の悪魔の力を真似したものか?


 ありうる。

 確か悪魔の技術とかを研究してる、そう言っていたな。

 まさにマルコシアスの超加速は、地獄の悪魔の力そのものだし。


 しかし今の段階でも、性能的にはマルコシアスの方が上か。

 やはり模倣するのは楽ではないのだな。


「ウゴ、でもこれで交代で進めそう……楽になった?」

「あか、あお、あか……ぴよ」

「悪くなさそうですね」

「マルシスの力は予想外でしたけど、この方が早いしね。僕も異論はないよ」


 よし、それじゃ『ばびゅーん作戦』で決まりだな。

 これなら往復の時間は最小限だ。

 ぱっと行って、帰ってこれる。


「ところで、ここと東の国の間にはいくつかの魔物密集地帯があるんだけど……そこはどうするの?」

「強行突破します……!」

「…………」

「ちょ、ちょっと! 降りようとしないでください……! 逃げるんですか?!」

「そういえば、君はそういう人だったね。逃げはしないよ。急いで着地点のプランを作るんだ」

「それは頼もしいな」

「ほら」

「うう……はい」


 そう言うと、ステラがナナを降ろした。


「魔物密集地帯を避けろとは言わないけど、飛行する魔物との遭遇は減らすべきだ」

「ぶつかっても大丈夫だと思いますけど」

「怪我をするとはさらさら思わないけど、着ぐるみに傷がつく……!」


 お、おう。そうだな……。

 しかしナナの言うことももっともだ。

 より安全なルートを模索するのは当然でもある。


 ステラの知識は多分に古く、そうなるとルート策定はナナが最適か。

 長い間に密集地帯は様変わりしてたりするからな。

 おそらくステラの活躍していた時代とは違うだろう。


 それにしてもステラは強すぎるからな……。

 気にしないのにも程がある。

 まぁ、無傷で切り抜ける自信があるんだろうが。


 バットもそうだが、縛りプレイでないと勝利に価値を見出さなくなってる。


「……まぁ、プラン作りはやるとして……あと頼みたい事があるんだ。ナナの収納能力に余裕はあるか?」

「ありますけど……ポーション類なら、もう収納してますよ」

「できるぴよね!」


 本当に有能だな。

 言われるまでもなく準備は進めているか。


「では……こちらもお願いできますか?」


 そう言うとステラはすたたと走り出し、屋上から消えた。


 そしてすぐに戻ってくる。

 山盛りのバットを持って……。それらは俺が作ったバットだ。


「……それは?」


 ナナがバットを指差す。

 それにステラが静かに答えた。


「予備のバットです……!」


 ◇


「……予備、予備ね……」

「布教用と言っても構いません。むしろ布教分の方が多いかもしれません。余ったら向こうに置いてくるので」

「んっ、んー」


 ナナが唸って腕組みをする。


「僕の着ぐるみに収納するには、一晩抱いて寝ないといけないんだけど……」

「それが条件か。時間がかかるんだな」


 前に気軽には収納できない、そう言っていたもんな。

 確かにそれだとかなりの手間だ。


「まぁ、いいか……。見たところ、十本くらいだろう? そのサイズなら五日くらいあれば収納出来るようになるし」

「いいのか?」

「しばらくバットを抱いて寝るだけだから……」


 ナナが遠くを見つめるように言う。

 なんだかいくらか、諦めているような声だな。


 ほろり……。

 この恩は忘れない。

 野ボールの普及のため、ナナはしばらくバットを抱いて寝るのだ。


 残念だが超加速とバットは相性が悪い。

 空を飛ぶと、体からはみ出したバットがすっ飛んでいく。

 収納能力なしに運べるのはせいぜい数本だけだからな。


 ナナはステラに向き直る。


「こだわる気持ちはよくわかる。楽に生きるだけなら、他にやりようはあるわけだし。冒険者たるもの、執念とこだわりがないとね」

「レイアみたいな……」

「まぁ、そういうことだね。それに案外、こだわった方が物事はより良く進むものだから」


 ナナがステラに近寄り、またマルコシアスの頭を撫でる。


 ぽふぽふ。


「わふっ」


 わからん。

 着ぐるみで表情が見えないからな。


 ……マルコシアスの正体に気が付いた、そういう可能性もあるが。

 だが、ナナは自分の好奇心が優先。

 ディアやコカトリスも特に気にしてないし、害にならない限りは気にしないだろう。


 とりあえず、ナナもこの『ばびゅーん作戦』を受け入れてくれた。

 あとは年が明けて少ししたら出発なわけか。


 心配はしていないが……むぅ。

 俺もホールド兄さんとの奴とか、村の経営を頑張らないとな。


 ディアもご飯を作ってくれるようになっている。

 皆、成長していっているのだ。

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