162.ばびゅーん!
家に戻ってきた俺達はさっそくお昼ご飯を作り始める。
と言っても、俺とウッドはフルーツを切ったデザートとドリンクの用意だが。
メインの料理はステラが全部作る。
残念だが、誰が隣に居ても遅くなるのだ……。
ステラは残像が見えるくらいの手際で料理するからな。
しかし任せっきりはよくない。
デザート、ドリンク、食器洗いとかは俺達でやるようにしている。
うん?
マルコシアスと彼女に抱えられたディアがステラに近付いていく。
「ぴよ……なにか、できることはないぴよ?」
「えっ? 座ってて大丈夫ですけども……」
ぴっと羽を伸ばしたディアが、
「かあさまもたびにでるぴよ……! なにか、できるようになりたいぴよ」
「ということだぞ」
そういうことか……。
うっ……泣かせるじゃないか。
確かにディアが生まれて初めて、ステラが長時間いなくなる。
ディアも自分なりに、色々とできるようになりたいわけだな。
ステラも嬉しそうにぷるぷるしてる。
そうだよな、俺も嬉しい。
「で、では……この手袋を付けて、餃子の具をこねるのを……」
「わかったぴよ!」
「我もやるぞ!」
草だんごで培ったこねこね力の見せ所だな。
手袋を装備して、こねこねしてる。
ディアはもちろん足に装備だけど……。
こねこね……こねこね……。
こんな形で餃子は作られ、お昼ご飯になる。
作ってくれたのは辛味炒めと蒸し餃子だな。
やはりこれが看板メニューになりそうだ。
何度も調整して、レインボーフィッシュの鱗のだし汁も馴染んできた。
ステラの創意工夫のおかげである。
「おいしーぴよ!」
「ウゴウゴ……おいしい!」
「からっ! でもおいしいぞ!」
「ああ……辛さも控えめで、これならこの辺りの人でも大丈夫だな」
「ええ、ついに……形になりましたね」
最初の話から数週間は経っているか。
かなり時間はかかった。
後はこれを料理人へ伝授して……冒険者ギルドの開店に間に合わせればいいわけだ。
冒険者ギルドの中身も、休み明けに急ピッチで作ることになっている。
年明けの開業には間に合いそうだな。
◇
お昼ご飯を食べたあと、俺達は屋上へ向かった。
燕のことは現地でやるとしても、移動方法が特殊だからな。
テストしたいらしい。
俺もそれがいいと思う。入念にテストした方が絶対にいい。
風がやや強く吹き、厚い雲が所々空を覆う。
気合の入ったステラの前に、俺とウッドとディアが並ぶ。
なおマルコシアスは、子犬姿で雑にステラの体にくくりつけられているな。
……後でちゃんとやるらしいが。
「というわけですね、マルちゃんの超加速を使ったばびゅーん計画をテストします」
「わふー」
ぱちぱちぱち。
なんとなく拍手。
気分は大事だ。なんとなく嫌な予感しかしないが、うん……。
「方法はシンプルです、マルちゃん。私が思いっ切りジャンプするので、頂点に達した瞬間に超加速を使ってください」
そう言うと、ステラが東の方に向き直る。
「確か、マルちゃんの頭の向いている方角に超加速は進むはずです。これでよし!」
「わかったぞ!」
「大丈夫なのか……?」
なんだか簡単に凄い事をしているような……。
「ええ、かつてのマルちゃんは大きな狼の姿で、私がそれに乗る形でしたが……」
「ぜんぜんちがうぴよね……」
ディアも首を傾げる。
ふむ、まるっきり違うな。
「大丈夫です……! あのときもゴツゴツ当たりましたけど、無傷でしたから!」
「う、うーん……気を付けるんだぞ……?」
どう気を付けるかわからんが。
超頑丈なステラだし、そこは信頼はできるけど。
「はい……! では、行ってきます!」
ステラはそう言うと、少し屈んでぐぐっと足に力を込める。
そして、ばんっ! と飛び上がった。
「ウゴ……すごい……」
「たかーいぴよ」
「ああ……」
垂直十メートルか十五メートルくらいか?
人間業じゃないな……。
ビルの屋上とか、そんなレベルにあっという間に飛び上がっている。
きらっ!
見上げていると、赤い光が軌跡を描いて空を駆け抜けていく。
超加速を使ったんだな。綺麗な飛行機雲みたいだ。
「おおー……はやぴよね」
距離感がうまく掴めないが、これは確かに速いな。
馬車とは比べ物にならない。
赤い軌跡は真っ直ぐ東の平野に行き――光がなくなる。
効果時間が終わったのか。
また再使用して飛んでいくのだろう。
「ウゴ、ひかった」
「あかぴよねー……」
きらっ!
また空中で赤い光がほとばしる。
……やはり連続使用で距離を稼ぐんだな。
なかなか大変な気はするが……。
「ウゴ、角度……」
「うん?」
ウッドの声に反応した瞬間、赤い軌跡が地面へと向かっていったのが見えた。
「あっ」
「ぴよっ!?」
ズウウウンンン……。
低い音を響かせて、赤い軌跡が地面に吸い込まれていった。
角度が悪くて、地上へ突き刺さってしまったのだ。
「しんだぴよーー!?」
「大変だ……!」
「ウゴ、激突した!」
慌てる俺達だったが、すぐに赤い軌跡がまた光った。
きらっ!
「……だいじょうぶぴよ?」
「そうだな……こちらに向かってくる」
赤い軌跡が屋上の上に来て、そのまま消える。
すとっ!
そこには埃まみれのステラとマルコシアスがいた。
無事のようだな。
「ただいまです……!」
「わふー、戻ったぞ!」
「いきてるぴよ……?」
「大丈夫なのか?」
「ウゴ、ケガは……」
口々に言う俺達に、ステラは恥ずかしそうに頬をかく。
「埃にはまみれましたが、大丈夫です!」
「母上がガードしてくれたから、無傷だぞ!」
マルコシアスが両前足を上げてアピールする。
かわいい。
いや、そうじゃなくて……このプラン自体が大丈夫なのか?
「そういえばディアも飛びたいとか……」
「ぎくぴよっ」
ディアはびくっとなると、てててーと俺の方に走り寄ってくる。
ぴょん。もふ。
そのままディアはジャンプして、俺の胸に飛び込んでくる。
「あれ……? ディア?」
「もうすこし、あんぜんをもとめたいぴよ……! あたしにはまだはやいぴよ!」
「……だそうだ」
地面に激突したからな。
無事でも気持ちはわかる。
ステラは信頼してるが、人は選びそうだ。
「がーん!」
「……ウゴ、俺はおもしろそうに見える……」
「おにいちゃん!?」
ウッドがちょこんと手を上げる。
ステラは微笑んで手招きをした。
「どうぞどうぞ!」
「大丈夫なのか……?」
「イケます、このくらいは……!」
ステラはウッドを背負う。
身長ニメートルのウッドなので、かなり無茶なように見えるが……だけどステラの足取りはしっかりしてる。
ウッドくらいの重さはなんでもないらしい。
「では、ちょっと行ってきます!」
「お、おう……気を付けてな」
「おにいちゃん、ゆうきあるぴよ」
ステラは再び大ジャンプして、赤い軌跡を残してばびゅーんして行った。
俺に抱えられているディアが感慨深げに言う。
「きたのぴよも、これでいくぴよね……」
「ナナか? うん、そうだな……」
「はーどぴよね。かあさまのさとがえりは……」
「ま、まぁ……大丈夫だろう。ナナも強いし」
とはいえ、この移動方法については事前にナナに言っておいた方がいいよな。
俺もこんな移動方法を当日に明かされたら、多分ショックだ。
バラエティ番組でも移動はマシだからな……。
ズウウウンンン……。
あ、考え事をしていたらまた刺さった。
……練習は必要そうだな。
「またぴよね」
「ま、まぁ……無事だろ?」
「ぴよ、ちゃんとひかったぴよ……!」
きらっ!
そんな感じで、午後はたくさん赤い軌跡の練習をした……。
一応、村人にはステラの戦闘訓練と言って納得してもらったのだった。
これで行き帰りもばっちり! のはずである。
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