161.ごゆっくりー
少しゆっくりしたので、ステラを伴ってナナとレイアに会いに行く。
というよりレイアの家で会議だな。
ナナは何も言わずに付いて来てくれた。
もちろん着ぐるみ姿ではあるが。
席につくと、レイアが軽く身を乗り出す。
「……それで、折り入ってのお話というのは……」
「ただ事じゃなさそうだね」
ステラの瞳の奥が燃えている――のは気のせいではない。
レイアもナナもステラの並々ならぬ雰囲気を感じ取っている。
「私の故郷についての話です。秘匿番号1950と言えば、お二人には通じますか?」
「「……っ!」」
どうやら通じたらしい。
……よくわからんが、この燕についての資料番号か何かか?
未解決事件に割り振られているんだろうな。
刑事ドラマとかで見た気がする。
「レイアはグランドマスターですからね。主だった未解決クエストは承知しているはず。ナナも知っていますね? 魔法具に関係することですから」
「……ええ、まさに。承知しております。これまでに何度か解決が試みられましたが、うまく行きませんでした」
「僕も興味はあったけれど、手が出せない案件だね。難事件だ」
「その長年の未解決クエストを解決したく思います。協力してください」
レイアが眉を寄せて難しそうな顔をする。
「とてもありがたいですが……厄介ですよ。エルフの政治事情も関わる案件です。フォールディア王国の王権にも絡んでいます」
「僕は門前払いだったからね……」
エルフの姫のクラリッサが関わる案件だからな。
ん?
でも妙だな……ステラの故郷のはずだが。
その情報は一般に流布してないのか。
「問題ありません。私は――フォールディア王国の王家の血を引いていますから」
「……そうだったのですか」
レイアの反応が鈍い。
てっきり謎の半生が明かされたのだから、飛びつくものと思ったが。
視線に気が付いたのか、レイアがこほんと咳払いする。
「まぁ……ステラ様と血縁関係にあると名乗る貴族や王家は十を下りません。今となっては詮無きことなのです……」
「ええっ!? そんなにいるんですか!?」
びっくりしたのはステラの方だ。
……そこまでは俺も知らなかった。
フリー素材みたいな扱いだな……。
世界的な英雄だし、その末裔やらを名乗ると箔が付くのだろう。
ちょっと違うが、日本だと源氏や平氏のようなものか。
そう考えるとわかりやすい。
「明らかになったのはとても嬉しいですが、あまり公にはできません。色々と敵に回してしまうので……ごほごほ」
レイアがわざとらしく咳払いする。
要はそういうことらしい。
……苦労はありそうだな、その辺りについては。
ナナがやや上ずった声で言う。
「でもこれで懸念点はなくなったね。ギルド本部に話を通せば、イケるんじゃないか?」
「ナナは協力してくれるのですか?」
「条件はあるけどね。もし回収できたら燕は僕が研究したい」
「私は問題ありません。もとよりそのつもりです」
ナナとステラが頷きあった。俺はそれを確かめて言う。
「じゃあそこも問題なしだな」
「決まりだね」
そういうわけで、話はまとまった。
先方に連絡したり大まかな準備が整うまで、少し時間はかかるだろうが。
なお、移動方法。
ステラは特に触れなかったが、いいんだよな……。
……まぁ、大丈夫だろ。多分……。
◇
話し合いが終わり、ステラと二人きりで歩く。
……なんだか少し気恥ずかしい。
「地下広場に行きましょうか」
「あ、ああ……」
どもった。
さっきはディア達がいたから、そーいう雰囲気にはならなかった。
距離は近付いたとは思うけど。
地下広場は今日も光る苔が綺麗だ。
作った建物はそのまま宿として使い続ける。
坂の上から見渡すと、この幻想的な光景に心がすっとする。
「あちらにコカトリスがいますね」
「そうだな……川辺に座ってる」
地下の川に二体のコカトリスが並んで座っている。
なんだか体を寄せ合って、親密そうだな。
家族か恋人か。
いずれにしても静かに川を見つめている。
「いいですね、体を寄せ合って」
「……和むな」
「ええ、私達もハグしてみます?」
軽い感じで言われて振り返ると、両腕を広げたステラは耳まで真っ赤だった。
しかもぷるぷるしてる。
かわいい。
「……するなら、はやく……」
「すっ、すまん」
ぎゅ。
ステラと正面から抱き合う。
細くも折れそうな感じじゃない。
この体勢で力を入れると折れるのは俺の体……とかは考えないようにする。
「んー……安心しますね」
「俺もだ」
と、ステラの手が俺の髪をわしゃわしゃする。
「髪の毛に触れたのは初めてですね。さらっとして良い感触です……!」
「ど、どうも……」
多分、あれだな。
エルフ流の身体測定かな……?
五感が鋭いと色々な所が気になるのかもしれない。
「ぴよっ!」
「ぴよよー」
はっと見ると、いつの間にか二体のコカトリスが坂の上に来ていた。
「ぴよー」
「ぴよぴよー」
ごゆっくりー。お邪魔しましたー。
そんなニュアンスで、コカトリスがとことこと歩いていく。
「……とりあえず満足いたしました」
そう言うと、ステラはぱっと俺から離れた。
ふふんという感じで微笑んでいる。
顔はまだいくぶんか赤いが、収まっている。
多分、俺のほうが赤くなってるな。
……ドキドキする。
これから慣れていくんだろうが。
「新年ももう近いですし、冒険者ギルドのメニュー作りをしないと、です」
「ああ、そうだな……」
とにかく、やるべきことは決まっている。
村作りを進めながら、冒険者ギルドを正式オープンさせること。
そしてそれが終わったら、ステラを見送る。
そんなことを考えていると、ステラがぽつりと呟いた。
「新しいバットも欲しいですね……。向こうでの布教用に……!」
「お、おう……」
少し変わっている人ではあるが、凄く楽しくて、充実してる。
それが今の実感だった。
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