142.団体客の皆さん

 皆が声を張り上げると、レイアは満足そうに頷いた。

 そしてレイアは両手を振り上げながら、


「私はこのまま一回りしてきまーす!」

「してくるよー」


 と、そのまま騎馬戦のレイアとテテトカは、よっさよっさと広場へと消えていく。

 ドラムとぴよぴよを響かせながら……。


 テケテケテケ……!

 ぴよぴよぴよ……。


 彼女達が去ってから、俺とステラは顔を見合わせる。

 まさに竜巻のようなヒトコマだったな。


「……凄かったな、あれ」

「まさか、あのような組み合わせで現れるとは思いませんでした」


 だけどインパクトは絶大だった。

 昔の人が、祭りで高さと音を重視したのがよくわかる。


 ふむ、来年は山車(だし)みたいのを取り入れてもいいかもな。

 ザンザスのコカトリス祭りでは、神輿や山車はないみたいだったが。

 そういう物は誰も話題にしなかったし。


「ようし、やるにゃんー!」

「にゃー!」


 村のあちこちから気合いの入った声が上がる。

 幸い、天気にも恵まれている。


 俺も気分が高まってきた。

 ステラへとハイタッチをする。


「ようし、やるぞ!」

「はい!」


 そして、いよいよお祭りが始まった。

 本格的な人波は、多分昼くらいか。


 その辺りから舞台でも色々とやるからな。

 草だんご祭りとか演劇とか生ぴよ握手会とか。


「んん……!?」


 と、ステラがぴくぴく耳を動かす。そして小首を傾げながら村の入口へと顔を向けた。


「どうかしたのか、ステラ」

「……馬車がたくさん来ているようです」

「たくさん?」


 もうそんなに?

 いや、お客にしては早すぎるだろう。

 まだ九時とかそんな感じだぞ。

 近くで夜営でもしてたのか?


「にゃああーん!」


 村の入口にスタンバイしていたナールが、こちらに走ってくる。

 かなり慌ててるな……。


「ナール、何かあったのか?」

「エルト様、ちょうど良いところに! 大変ですにゃ!」


 そこで一泊置くと、ナールは両手を広げて喜びながら……。


「たくさんのお客様ですにゃ!」

「おお! いいじゃないか!」

「やはりそうでしたか……!」

「ヴァンパイアの団体客ですにゃ! 朝から来てくれたんですにゃ!」


 ん?

 ヴァンパイアの団体客?


「それってもしかして……」


 俺が言い終わる前に、がやがやと村の入口からお客さんが入ってくる。


「生ぴよ握手会は奥だとー」

「とりあえず荷物置きたいー」

「すんごくおいしいトマトジュースはー?」

「ナナ様は? 彼女も向こうかな?」


 ……ふむ。現れたのは、コカトリスの着ぐるみ集団だった。


 大人から、多分子どもまで三十人くらいの団体だ。その全員がコカトリスの着ぐるみである。


 まぁ、そうだよな……。

 ヴァンパイアが着ぐるみをいつも着ているのは、ナナでわかっていたことだ。


 しかし、とりあえず俺にはやるべきことがある。

 俺は一息吸って、


「ようこそ、ヒールベリーの村へ!」


 と大声で呼び掛けたのだった。


 ◇


 それからもどんどんとお客は増えていった。

 予想外の来客数だ。

 嬉しいことに、一気に忙しくなる。


 ザンザスへの買い付け商人や通り掛かった人なんかが多い感じだな。


 今、来たのはドワーフの商人達だな。

 西にたくさんあるドワーフの王国からやってきたらしい。


 いつもは手紙や品物のやり取りだけだが、数年に一度はザンザスへ行くのだとか。

 そこで面白そうなのがあれば、取引開始というわけだ。


 近くに来たところ、この村の存在を知ったのだとか……。

 それで寄ってくれたのか。

 ありがたい話だ。


「この辺り一帯はこれまで荒野でしたのに……領主様の御力は素晴らしいですね」

「いえいえ……」

「野菜も素晴らしいものが……。叔父が野菜の取り扱いをしておりましてね。話をすれば興味を持つかと」

「是非、よろしくお願いします」


 こんな感じだな。

 ちなみに領主自ら入口に立っているのは珍しいらしいが……。


 でも奥で偉そうにしているのもなぁ……。

 ま、大丈夫だろう。受付みたいなものだし。


 ちなみにステラも村の入口に立っている。

 だがやはり、彼女の方は人だかりになっているな。


 まぁ、知名度が違うし……。

 後で彼女の活躍を元にした劇もやるしな。


「やあやあ、とても盛況みたいですね」

「ナナか……。おかげさまでな」


 ぽてぽてとナナが着ぐるみ姿で歩いてくる。

 ちなみに数人の小さな着ぐるみ――多分、子どもを連れている。

 さっき来た、団体客の子どもだな。


「お客さんを呼んでくれたんだろう? ありがとう」

「いえ、大したことはしていません。僕は故郷に、試作品の瓶詰めトマトと手紙を送っただけですから。あのヴァンパイア達が来たのは、それだけの価値があると思ったからです」


 ……着ぐるみで表情はわからないが。

 どことなく嬉しそうだな。


「手紙は何通か親戚や知り合いに送ったので、また来るかもですね」

「なるほど……。でもありがとう。人が来てくれないと始まらないからな」


 通信が未発達のこの世界では、人脈というのは大きな力だ。

 少しずつ認めてもらわないといけない。


 ナナは手を繋いでる子どもに問いかける。


「ねぇ、この村はどう?」

「トマトジュース、おいしかった!」

「あと緑色でちっちゃい……あのお菓子もおいしかったよー!」

「コカトリスもいたー!」


 わいわいと楽しそうに話してくれる。

 それだけで苦労が報われた思いだ。


「こうです、こう!」


 向こうではステラがなぜか、そこらで売っていたバットの素振り実演をしているな……。


 ブンブン!


 風を切りながら、実際に振ってみせている。


「体全体で振るんです……。腕だけだと力が伝わりきりません」

「ほー! なるほどなぁ……」


 周りの人も感心しながら聞いていた。

 というか、ステラの周りにいる人達は早くもステラグッズを買い込んでいるな。


 バットや手袋、ボール……。

 ステラの名言マントや小冊子とか……。


 やはり熱心なファンがいるんだな。

 今日は遠くから来てくれた、そんなファンと接する機会でもある。

 ……そっとしておこう。


 そんな感じでお客さんを歓迎していると、時間が経つのもあっという間だ。


 ナナも村の入口に立って、ヴァンパイアの案内をしてくれる。

 というか、続々と着ぐるみがやってくるな……。


 ひっきりなしにお客さんがやってくる。

 気がつけば太陽が高く昇ってきていた。


 そろそろ、草だんご祭りの時間だろうか。


「そろそろ広場で、草だんご祭り始まるですー!」


 おっと、ちょうど考えていた所に。

 ララトマがドリアード達を引き連れて、呼び掛けている。


 メインはアナリアとテテトカか。

 ひたすら音楽に合わせて食べるだけ――でもドリアードにとっては大切な風習である。


 よし、広場に行くか!

 果たしてどんな感じになっているかな。


領地情報


 地名:ヒールベリーの村

 特別施設:冒険者ギルド(仮)、大樹の塔(土風呂付き)、地下広場の宿

 累計お祭り来訪者+356人(コカトリス着ぐるみを着たヴァンパイアの皆さん、遠くから来た商人達、冒険者マニアの観光客)

 総人口:208

 観光レベル:C(土風呂、幻想的な地下空間、エルフ料理)

 漁業レベル:C(レインボーフィッシュ飼育、鱗の出し汁)

 牧場レベル:C(コカトリス姉妹、目の光るコカトリス)

 魔王レベル:E(悪魔マルわんちゃん)

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