143.ぴよ&草だんご祭り

 広場へ行くと、かなりの人が集まっていた。

 確か三百数十人は来ているはずだからな。

 村人と合わせて五百人以上がここに集まっていることになる。


 広場の正面にはテーブルと椅子が並び、ドリアード達がすでに座っていた。

 もちろんテーブルの上には草だんごが山盛りに置かれている。


 ドリアードは皆、きりっとした表情だ。

 気合いが入ってる。

 ドリアード全員がそんな感じで起きているのは、もしかしたら初めてかもしれない。


「はわ……なんだか緊張しますね」

「そ、そうだな……」


 最初の催し物だからな。

 ある意味、ここでコケると悲しい。


 広場の舞台上には、一つの大きなテーブルだけが置かれている。

 たべマスターの席だな。


 皆を見据えるように、テテトカがどーんと舞台のセンターに座っている。

 当然、ドラムもセットされていた。


 テテトカの左側には、これまたででーんとララトマが座っている。

 腕を組んで、風格は十分だな。


 そしてテテトカの右隣にはアナリアが精一杯、胸を張って座っている……ように見える。

 遠目だけど、なんだかぷるぷるしてる。


「……がちがちに緊張してますね」

「そうみたいだな……。でもやることは食べるだけだから……」


 テテトカ以外はドラムの音に合わせて、ひたすら食べる。

 そしてテテトカはドラムを叩きながら食べるのだ。まぁ、他にもあるんだがそれも食べることだしな。


 と、舞台上にレイアが現れた。

 彼女が司会役だったな。そろそろ始まる。


 レイアが大声で皆に呼び掛ける。


「すぅ……皆さん、お集まり頂いてありがとうございます!! これよりドリアードの伝統あるお祭り、草だんご祭りを始めます! 数百年にも及ぶ、伝統ある行事をどうぞお楽しみください!」


 ぱちぱちぱち。


 おおー、と観客から拍手が起きる。


 それからテテトカがすくっと立ち上がると、ゆったりと澄んだ声で語りかけた。

 あまり大きな声ではなかったが、彼女の声はよく通って聞こえる。


「えー……ドリアードの長のテテトカです。んじゃ、はじめるよー」


 お、おう……。

 この辺りはぶれないな。


 それだけ言うと、テテトカは座り直した。

 スティックをくるくると回し、何度かドラムを軽く叩く。


 トントントン……。


 ごくり。

 会場にいる全員がテテトカに注目する。

 対するテテトカは緊張とは無縁に見えた。

 あくまで自然体。


 そして、トンと一拍置く。

 俺にもわかる。

 始まる……!


 タカタカタカタ、タン!


 テテトカがドラムを軽快に鳴らし出す。


 もぐもぐもぐもぐ!


 物凄い勢いで、ドリアードとアナリアが草だんごを食べ始める。

 もちろん、テテトカも叩きながら目にも止まらぬ早さで草だんごを食べている。


 ……さて観客の反応は……。


 しーん……。


 何が起きているのか、わかってない反応だな。明らかに困惑している。

 わかる。

 俺も初めてこれを見たときはそうだった。


 だけど、今回は完全バージョン。

 テテトカとララトマも頭をひねって、色々と考えてくれたのだ。


 俺の初めて見た時とは何もかも違う。

 不安、凄く不安だが……ここから盛り上がるはずだ。


 もぐもぐもぐ。


 全員が手を止めないで食べるなか、テテトカが歌い始める。


「らららー。こかこっか、こかとりす~」

「「ぴよ!」」


 テケテケ、デンデン!


 舞台の後ろから、コカトリス達が現れる。


「わー、コカトリスだー」

「おお……まさか……」


 観客がざわつき始める。

 いきなり見せられた謎のお祭り。

 そこに足される新しい要素。


「草、草、草だんご~」


 コカトリスがずずいっと並んで舞台を歩き始める。

 そのままコカトリスはテテトカのすぐ後ろまでやってくる。


「こかこっか、こかとりす~」


 テテトカが草だんごを掴んで掲げると、それをコカトリスがちょいとつまんで食べる。


「ぴよ!」


 食べたコカトリスは舞台を歩きながら、くるくると回り始める。

 次々と草だんごを食べたコカトリスが踊ったり、ポーズをとったり……。


 そしてまたテテトカの後ろに戻ってくる。

 もちろん、隙を見てテテトカも草だんごをもぐもぐしてる。


「ぴよー」

「ぴよよ!」


 テテテ、トントントン。

 テテテテテ、ドントンッ!


 ぴよぴよ。

 ぴよぴよぴよー!


 それはいつの間にか、テテトカの歌とドラムとコカトリスのダンスになっていた。


 コカトリスは舞台に上がったり降りたり、思い思いに踊っている。


「ぴよよー!」(いい気分~!)


 ララトマやアナリアも他のドリアードも、タイミングが合うとコカトリスに草だんごを差し出している。


「ぴよ!」(ありがと!)

「もぐもぐもぐ……!」

「ぴよぴよ!」(こっちにも!)


 あっちこっちで草だんごをコカトリスにあげながら、無秩序に。


 コカトリス達は草だんごとドラムでご機嫌だな。

 段々とスピードが上がり、より華麗に、美しいダンスになっていく。


 ちらっと観客をうかがうと、身を乗り出しながら見入っている。


「はぁー……コカトリスってあんな風に動くんだね」

「ドラムと歌も心地よい……!」

「ドリアードにこんな風習があるなんて……!」


 やっていることは食べるだけ。

 でもここに来るまでには、長年の苦労があった。


 コカトリスの姉妹と地下のコカトリス。

 どちらも草だんごを思い切り食べられるようになったのは、最近の事だ。


 これはドリアードだけではない。

 草だんごをこよなく愛する、コカトリスのお祭りでもある。


「そろそろギブアップするドリアードが出てきましたね……」


 見ると、手を止めて一息ついてるドリアードがちらほらいる。

 ……なんだかお腹いっぱいで眠そうなのもいるけど。


 しかし草だんご祭りは競う祭りではない。

 思い思いに食べて、騒ぐ。

 お腹いっぱいになったら休む。


 それだけを目指すお祭りなのだ。


 ◇


 最初、舞台の上にいるアナリアは緊張で死にそうだった。

 思ったよりもお客さんがいたし、一人だけドリアードじゃなかったから。


 でも最前列のイスカミナが手を振って応援してくれている。

 なぜか自分を隣に選んだテテトカがいる。


 やりきらなくては……。

 なんとか盛り上げなくては……!


 しかし、お祭りが始まると逆に心が落ち着いてきた。


「いいねー、のってるよー」

「それでこそ、たべマスターです!」


 もぐもぐもぐ。


 舞台にいる三人だけに聞こえるよう、テテトカとララトマが言う。

 本当に、心の底から楽しそうに。


 そしてテテトカのドラムは弾けて、コカトリスは舞い踊る。

 ドリアードは音に合わせて、食べまくる。


 理屈なんてない。

 ただ、楽しそうだからこれをやる。


「もぐもぐ……なんとなくわかってきました!」

「へー、そうー?」

「目の前にある草だんごを、楽しんで――急いで楽しめばいいんですよね」

「もぐもぐ……その境地に至るとは、見事です!」


 テテトカの歌は同じフレーズを繰り返す。


「こかこっか、こかとりす~。もぐもぐ」


 ドリアードに過去はない。

 故郷は遥かに遠くなり、記憶すら薄れるほどの彼方の果てにあるのだから。


「草、草、草だんご~」


 ドリアードは知っている。

 明日の太陽は気まぐれであることを。


 それでも彼女達は楽しんでいる。

 幸せである。


 日々、働いて草だんごを食べて――そして、食べ終わったらすやすや眠る。


「……ずっと昔も、こんな事をしてたなぁ。懐かしいやー」


 ぽつりとテテトカがこぼす。

 それは真実なのだろう。


「うぐぐー。前もこんな風になりましたです!」


 ぽて。

 ララトマが机に突っ伏す。


 まぁ、すぐに復活するだろうけど。

 草だんご祭りはテテトカが動けなくなるまで、ひたすら続くのだ。


「ありゃりゃー。お祭りはまだまだだよー。こかこっか、こかとりす~」

「ぴっぴよ!」

「ぴよ!」


 もぐもぐもぐ。


 見ると、観客も楽しそうに手を叩いたり囃し立てたりしている。

 盛り上がっているようだ。


 良かった。

 後で残った草だんごは皆で分けることになっている。

 それまで観客はいてくれるだろう。


「もぐもぐ……ん?」


 ……なんだろうか。

 アナリアは確かにドリアードとの絆を感じた。これまでになく、心でドリアードと一体になったと思う。


 そんなアナリアの頭の中に、ある単語が思い浮かぶ。前にもこんな事があったような……。


【使用可能スキル】

ドリアードの力Lv2


「あ……レベルがあがった?」

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