128.ナールと地下広場へ

 アナリアの工房を後にした俺達は、道を行くニャフ族と出くわした。

 先頭を歩くのはナールだ。色々と荷物を持っているな……。


「にゃ、エルト様! こんにちはですにゃ」

「こんにちはぴよ!」

「こんにちはです……!」

「こんにちは、ナール。ちょうど探していたんだ」


 挨拶をしながら、荷物を肩代わりする。


「ありがとうございますにゃ!」

「気にするな。そんなに重くもないしな」


 子どもくらいのニャフ族にとっては大荷物だが、俺にはそうでもない。

 ふむ、箱にバールだのピッケルだのが入っているな。

 ステラがディアを抱えながら、ひょいと荷物をひとつ持ち上げる。


「これは……穴を掘ったり、採取したりする道具がたくさんですね。地下広場へ行かれるのですか?」

「そうですにゃ。イスカミナが欲しいという道具を持っていくのですにゃ」

「おなじようなどうぐがいっぱいあるぴよ」

「……土を採取するからな。掘る箇所ごとに道具を変えたいんだろう」

「ぴよ! かしこいぴよ!」

「さすがですにゃ、まさにそう言っていたですにゃ! にゃ、それでご用とはなんでしたかですにゃ?」

「ああ、それはな――」


 俺はレイアとの取り決めを説明した。

 要はコカトリス祭りを一部、ここでやるということだな。


「にゃにゃ! なんと素晴らしいことですにゃ!」


 話を聞くと、ナールは大興奮。

 他のニャフ族も目をきらきらさせていた。


「ずいぶんと乗り気になってくれたな」

「コカトリス祭りは、この国でも有数のお祭りですにゃ。遠くからも人が来ますのにゃ……商人にとっては大チャンスですにゃ」


 冬至祭はいまや、どこでもやるお祭りではない。国々が平和になり往来が楽になると、有名な祭りに人は吸い寄せられる。

 そういう意味では、ザンザスは数少ない勝ち組である。


「黒竜騎士団がザンザスへ行ったのは、警備の問題があったようだな。人が集まりすぎて分散させるようにとの通達らしい」

「にゃ。今でさえザンザスは人が多いですにゃ。本当は区画整理や街道整備をもっとやるべきにゃのですが、にゃ……」

「ふむ……お金はありそうだしな。パンクするほど人が来るなら、色々と手は打てそうだが」

「主にステラ様の像をどこに動かすかとかで、議論がまとまらなかったのですにゃ」

「ええっ……?」


 ステラが心外そうな声を出す。

 そんな理由で区画整理が……いや、だが考えてみると結構大きな問題だぞ。

 確かザンザスでは至るところにステラの銅像があったはず。


 現代の日本でも何百年も前からある銅像を移転するとなれば、議論は避けられない。

 愛着もあるしな。


「好きな風に動かしてくださっていいのに……」

「まぁ、色々とあるんだろう」

「でもやっと見直しが進んでいるみたいですにゃ。新しい銅像を増やすのと合わせて、色々と区画整理もやるようですにゃ」

「あたらしいかあさまのどうぞうぴよ?」

「うっ……不安が……」


 ステラがぶるっと震える。


「候補のひとつには、バットを振るうステラ様の像もあるらしいですにゃ」

「えっ……それがいいです」

「いいのか」

「野ボールの普及のために……。礎となる所存です」

「そ、そうか」

「ふむ……盲点でしたね。私の像という選択がありましたか……」

「かあさま、すごいことかんがえてないぴよ?」

「今ある私の像を、全て野ボールする私という最新バージョンに変えるのは……」

「やめてさしあげろ」


 ステラの諸々の力を使えば、出来ちゃうかもしれない。

 でもいきなり歴史的偉人の像が、バットを振る像に変わったら驚くだろ。


 ……ただ、気持ちはわからなくもない。

 上野の西郷隆盛像も生前を知る人からは物議を醸したそうだ。

 なにせ制作時に写真が残ってなかったらしいし。


 そんな故人の像を作るというのは並々ならぬ苦労があるだろう。

 しかしもしその故人が甦ったなら……。一言、言いたくもなるだろうな。


「まだ話は本格的じゃないのかもな。レイアにそれとなく言ってみたらどうだ?」

「そうですね……二刀流でもいいですし、ボールを投げるところでもいいですね」

「……お、おう」


 ……本当に野球――もとい野ボールの礎になる気だな。


 ◇


 塔に戻り地下広場にいくと、ちょうどイスカミナが坂の下で作業をしているところだった。


 コカトリスが一体、目を光らせてるからな……すぐわかった。

 すごく、ぺかーと光ってる。


 地下広場は変わらず、光る苔によって幻想的に映し出されていた。


 その中でイスカミナは目の光るコカトリスを後ろに立たせて、地面を調べている。

 あ、イスカミナがこちらに気が付いたようだな。


「もぐっ! エルト様も来られたのですもぐ!?」

「ああ、ナールと一緒にな」

「お手伝いしてもらったにゃん!」

「ありがとうございますもぐー!」


 挨拶をして、ついでにイスカミナにもコカトリス祭りのことを話してみる。


「おお、いい話ですもぐ! ここも人気スポットになりそうもぐ!」

「ふむ、この地下広場は使えそうか。ドリアード達は長年使っていたみたいだが……」

「危険性はなさそうですもぐ。今は土や壁を調べてますもぐ」

「お祭りをやるとなると、宿は問題ですにゃ。増やさないとですにゃ」

「そこは大樹の家で増やせるが……」


 そこで俺は地下広場の天井を見上げた。

 ここはかなりの高さがあり、水もある。

 なにより静かで綺麗な所だ。


「……ここに宿を増やすのはどうだ?」

「いいお考えですにゃ! あ、でも調査がですにゃ……」

「水の近くと広場の真ん中は終わってますもぐ。問題はありませんもぐー」


 イスカミナが胸を張る。なでなでしたくなるが自重しよう。

 ちゃんと進めててくれたんだな。


「いいですね、ここはお気に入りになる人もたくさんいると思います」

「きれーぴよ!」

「よし……それじゃ、とりあえず……」


 俺は魔力を集中させて、解き放つ。

【大樹の家】を連続発動。

 一気に十棟を生み出す。


 ただし一棟辺りのサイズは小さめ。一階建てだ。


「おおー、何度見てもすごいですにゃ……!」

「圧巻もぐー!」

「ぴよっぴー!」(すっごーい!)

「場所がまずければ、動かすからな」


 木をどかす【森を歩む者】の魔法を使えば、【大樹の家】は簡単に動かせる。

 もっともかなり雑に動くから、中の家具やらは駄目になるだろうが。

 しかし何もないなら、これほど便利なこともない。


 後で坂の上の入り口も改造するか。

 外から直接、地下への入口に入れるようにしよう。そうすればドリアードも気を使わなくてすむし。


 まぁ、誰が目の前を通っても気にせず土のなかで寝ているのだが……。

 むしろ来客が気にするかもだしな。


「よし、それじゃ俺達はここで戻る」

「わかりましたですにゃ、あとでこの地下広場の宿についてはまとめますにゃ!」

「ああ、頼んだ」


 そうして俺達は地下広場から塔を通って、外に出た。太陽の傾きからすると、お昼は過ぎているか。

 今日一日でだいぶ、進んだ気がする。


 あとはトマトや中華を形にして、出店みたいのをやりたいな。良いアピールになるだろうし。


 そんなことを考えていると、着ぐるみのナナがぽてぽてと走り寄ってきた。

 けっこう慌ててる気がする。


「……どうかしたのか?」

「エルト様に手紙ですよ。多分、早く読んでもらった方がいいと思って」


 お腹をごそごそして取り出したのは、豪華な金箔の封筒。

 少し前に見たな、この封筒は。


「……差出人は?」

「ホールドから」


 やっぱりか。

 今度は何を書いてきたんだろうか。


コカトリス祭り準備度

20%

草だんご祭り完了

地下広場に宿設置

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