67.年齢

 それからレイアと打ち合わせを終えてコカトリスの住まいにも案内した。

 まぁコカトリス姉妹は人との接触は大好きだから良いのだが。


 今はステラと俺、レイアがコカトリスの住まいにいる。

 ディアは騒いで眠くなったらしい。家でお昼寝中だ。


 そしてレイアはコカトリス姉妹にサンドイッチにされながら驚いていた。

 コカトリスと会話ができることについてだ。


「……コカトリスと会話ができる……?!」

「は、はい……」

「ぴよ、ぴよよー」(いもうとよ、この人間さんはどうして仲間の真似をしてるの?)

「ぴよよ、ぴよ」(きっと寒いからね。うちらが寒いと藁を被るみたいなもの)

「ぴよぴよ……ぴよ」(人間さん、毛がないものね……寒そう)

「ぴよぴよ」(神に見放されたから毛がないのよ)

「ぴよ!」(髪だけに!)


 コカトリス姉妹もレイアを撫でくり回している。

 ディアがいないと何を言っているかわからん……。

 レイアは楽しそうだが。


「この姉妹と会話できるのはディアがコカトリスクイーンゆえ、ですかね……」

「他国ではテイマースキルで意志疎通できている所もあるのだろう?」


 この国ではコカトリスは育てられていない。

 しかし他国ではコカトリスを飼育できている所もあると聞く。


 テイマースキルを取得できれば、意志疎通は可能なはずだ。

 どの程度出来るようになるのかはわからんが。

 ゲーム中だと成長ボーナスと能力アップしかなかったんだよな。


 ちなみにステラが【コカトリステイマー】のスキル所持者と言ってはある。

 しかし最近の取得とは伝えていない。木像になる前に得た……ということにしている。


 スキル関係だけはそう簡単に共有しない方がいいからな。


「ええ、とはいえテイマースキルの取得は機密事項。簡単にはわかりません」

「そうだな。仕方ない」

「ええ……そうですね」


 ステラ、少し目が泳いでいるぞ。


「コカトリス生育の資料は取り寄せていますが、国外からの入手なので少しお待ちを。残念ながら私達は生育の資料は持っていませんので……」

「ああ、時間がかかるのは仕方ない。コカトリスクイーンも含めて資料があれば助かるんだがな」

「コカトリスクイーンは難しいでしょうね……。伝説や神話の類いしかないかと」

「やはりそうか……」


 その辺りの情報は期待薄か。

 まぁ、コカトリス生育の資料が手に入りそうというだけで良しとしよう。


 その後、レイアは宿泊所へと向かっていた。

 一応、魔物学の博士号(コカトリス専門)を持っていると言うから連れてきたんだが……確信した。

 レイアはコカトリスが好きでたまらなくて博士号を取ったタイプだな……。


 ◇


 その日の夜。

 レイアと秘書は宿泊所で打ち合わせをしていた。


 秘書は率直な感想をレイアへと伝えた。


「……この村に来たのは初めてですが、本当に驚きですね。この大樹の全てがエルト様の魔法なんて」

「ああ、しかもさらに魔力は増したようだ。同年代の貴族とは比べ物にならないだろうな」

「物腰も十五歳とはとても思えませんでしたが……。それで会談は?」


 秘書がそう言うと、レイアはバッグからコカトリスの小さなぬいぐるみを取り出した。

 そしてレイアはゆっくりとぬいぐるみをもみもみしはじめる。

 それも両手で……。

 ゆっくりともみもみしていた。


『レイアがコカトリスぬいぐるみを触りだしたら、要注意。重大案件』


 両手もみもみは、さらに難しい事態の証であった。


「……ごくり」

「地下通路は共同調査。もし埋めるという結論が出たら従うそうだ」

「それは……本当にそう答えたのですか? 十五歳の少年貴族が? とても冷静ですね」

「ああ、二人きりでちゃんと答えたよ。したたかな領主様だね」


 秘書は思う。

 普通、貴族のプライドや傲慢さは魔力に比例する。

 理由は単純。魔力があれば現実世界をねじ曲げられるから。それだけ万能感が強くなり、他を見下すようになる。


 十五歳であれほどの魔力がありながら、エルトの考えは非常に珍しい。

 地下通路という歴史的な発見をしたのにもかかわらず、である。

 レイアも同じ感想を持ったのだろう。静かに頷いて同意する。


「野心溢れる若者というより、保守的な壮年の貴族のような振る舞いだ。私と同年代に感じることもあるくらいだ」

「なるほど……。それだけの器があると」

「ああ、それに頭も切れる。フラワーアーチャーの討伐にも協力してもらえることになったのだが……ひとつ条件を出された」

「どのような……?」

「ボス個体の素材を譲渡すること、代わりに自分も前線に出るのだと」


 秘書は眉をひそめた。


「私達の働きを前線で検分したい、ということですか?」

「そうだろうな。ボス個体の素材はついでだろう……。うまいこと言われたものだ。手を組むのに値するかどうか、見極めたいのだろう」


 レイアはぬいぐるみを揉みながら、ため息をついた。


「さすが『知恵ある蛇』ナーガシュ家の子息だけはある。放置していた領地の開拓に送り込まれたくらいだと思ったのだが……」

「後継者争いにも関わると……? 三人の兄とは年齢が離れているのでは?」

「ああ、エルト様の三人の兄は全員既婚者で子供もいる。全員、十歳以上離れている。普通なら、後継者争いには加われないはず。それにエルト様の魔法は聖域奪還に向くわけでもないが……」


 そこでレイアは言葉を切った。


「……喋りすぎた。あまり貴族の事情には踏み込まない方がいい。我々にとってエルト様が信頼と器量ある方だけで十分過ぎる」

「そうですね……。我々としてはフラワーアーチャーと地下通路に全力を注ぐべきですね」

「ああ、エルト様には一週間と言ったが一日くらいは縮めたいものだ」


 そこでレイアは首を捻る。

 ぬいぐるみに納得できない所があるらしい。


「うーん、あのコカトリスの姉妹とお腹回りが少し違うなぁ……。もにゅと感が足りない。改良が必要だ。早くフラワーアーチャーを片付けて、もっとコカトリスをもふって手触りを覚えなければ」

「……心の声がだだ漏れですが。それで短縮した分、遊ぼうとしてるのですか?」

「コカトリスのぬいぐるみ作りは遊びじゃない」

「ま、まぁ……そうですね……」


 レイアはぬいぐるみから手を離して、意気込んだ。


「よし、エルト様を組み込んだ作戦は立てたぞ。書くか!」

「はやっ!」


 レイアはぐっと拳を握る。


「早く終わらせてコカトリスと地下通路のことを調べるぞ!」


 ◇


 翌朝。

 レイアはフラワーアーチャー討伐の計画書を家へと持ってきた。


 朝早くから凄いな。

 起きていたのは俺だけだった。


 リビングに通して、早速計画書を見せてもらう。

 ふむ……ちゃんと俺の働く分も書き込まれているな。


「必要なのは発火ポーションと盾か」


 発火ポーションとは攻撃用のポーションだ。

 ぶつけた相手を一瞬だけ燃やすのだが、植物系の魔物に特に効果がある。


 投げても良いのでゲームでもなかなかに重宝した。

 作るのは簡単だが、あまり保存ができないので備蓄はしてなかったな。


「数量は……百個か。揃うとは思うが、これだと足りないだろう」


 敵は千体以上いるはずだ。

 盾は素材を問わず。木でもいいなら植物魔法で用意できる。


「問題ありません。それだけ用意頂ければ。うまく使いますので」


 なるほど……。計画書にはこうある。

 敵を引き寄せながら発火ポーションで倒していく。

 要所に罠を張り、削る……。盾は防御壁のかわりだ。

 フラワーアーチャーの弾から身を守る。


 ふむ……ざっと読んだ限り、悪くなさそうだ。

 長篠の戦いみたいなものか?

 防御を固めて高火力で叩くらしい。

 あれも野戦陣地と火縄銃の組み合わせだったな。


 わかる限りの地形や補給についても書いてある。

 一週間で終わらせると豪語したのは伊達じゃなかったか。


 ……そして今日もレイアはコカトリス帽子を被っている。

 ちなみに顎紐が付いていた。夜の間に付けたんだな……。

 それでずり落ちはしないだろうが……。


 話を進めている最中、ディアとステラがリビングへとやってきた。

 顎紐付きコカトリス帽子を見て、ディアがひとこと。


「ぴよ。くびがしまってるぴよ……!?」

「なるほど、そう見えるんだな」

「くるしくないぴよ? いきてるぴよ?」

「……駄目でしたね」


 ふむ……顎紐はなしだな。

 ずり落ちないように頑張ってくれ……。

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