47.ピヨ的な視点

 コカトリスクイーンが喋った……よな?

 生まれたのは喋るヒヨコだった。


 ……コカトリスクイーンはゲームの中でも会話してたか?

 いや、人間の言葉は話さなかったはずだが……。


 ちらっと見ると、コカトリスを抱えたステラは目を丸くしてフリーズしている。

 コカトリスが普通に話すなら、その反応にはならないよな。やはり想定外のようだ。


「ぴよー! かあさま、あったかい!」


 そのままコカトリスクイーンはすりすりとステラに体を擦り寄せる。

 かわいい。

 フリーズしてたステラの表情も緩んでいく。


「とうさまー?」

「な、なんだ……?」

「なでてー……」

「お、おう」


 せがまれるまま、俺はそっと指先でコカトリスクイーンに触れる。


 ……ふわふわ。

 もこもこ。


 温かく、極上の触り心地。

 そのままゆっくりと指だけを上下に動かす。


「きもちいー!」

「よかった……」

「かあさまもなでてー?」

「ふぇぇ……は、はい……」


 俺と同じように、ステラもコカトリスクイーンの羽毛を撫でる。


 二人してしばらく撫でていると、いつの間にかコカトリスクイーンはすやすやと眠っていた。

 ……問題はないか。

 よく寝ている。


 喋るのは予想外ではあったが……喋るものは仕方ない。

 そういう風に触れ合っていくしかないからな。


「ぴよー……すー……。ぴよー……すー……」


 起こしちゃマズイ。

 ささやき声で、俺はステラに言った。


「……とりあえず俺達も寝るか」

「ええ、そうしましょう……」


 敷き詰めた藁の上に、俺も横になった。

 窓から見える星は綺麗に輝いている。


 コカトリスクイーンのことは、明日考えよう……うん。

 思ったよりも藁が柔らかくて、いい感じだ。……俺の意識はすとんと落ちたのだった。


 ◇


 朝。むくりと起き上がる。

 窓から入ってくる光がまぶしい……。

 というより、光で目が覚めた感じだ。


 ステラとコカトリスはどうだ?


 横を見るとステラもむにゃむにゃしてたが、起きていた。

 コカトリスはもぞもぞしている。


 俺は小声で挨拶する。


「ふぇぇ……」

「おはよう、ステラ」

「おはようございます……。あ、髪は気にしないでください……」


 言われて初めて意識が向いた。

 ふむ……ステラの髪が爆発してる。

 すごい寝癖だった。


「……ふぇぇ。ぐしゃぐしゃなんです……」

「見て悪かった。それより雛はどうだ?」


 俺はさっと話題を切り替える。


「んー……寝てますね」

「ぴよ……すー……」

「……そうか」


 このままだとステラが動けない。

 起きるのを待つべきか……。


 と、そんなことを考えていたのだが。


「ぴよ! とうさま、かあさま、おはよー!」

「うおっ! 起きた!?」

「おきたよー!」

「いきなりですね……! おはようございます」

「おはよー!」


 コカトリスクイーンはスイッチが切り替わったみたいに元気に活動しはじめる。

 寝起きからバッチリタイプらしい。


 ひととおりバタバタと動くと、コカトリスクイーンはしおしおとうなだれる。


「ぴよー、おなかすいたー……」

「よし、持ってくる」


 俺は棚に用意してあった、コカトリス用の餌を取り出す。

 冒険者達の話では、コカトリスは化石樹という魔力のある植物の葉や実が好物。


 特に雛のうちは化石樹の葉を食べている姿が目撃されている。

 なので、ザンザスから取り寄せていた化石樹の葉を細かくしたものを用意した。


 実は俺の植物魔法のラインナップにも化石樹はあるんだが、そのまま与えて良いか悩んで止めたのだ。

 どうも植物魔法で生み出したのは品質が普通より良すぎる。

 雛のうちはどう反応するかわからないからな。

 ザンザスの迷宮から取り寄せたモノの方が安心できる。


 浅い皿に載せられた、砕かれた化石樹の葉。

 その名前の通り、化石樹はまるで古い石のような灰色と硬さを持つ。

 葉っぱも緑色だが、せんべいのように硬い。

 砕くと緑色の砂だな……。


 皿をコカトリスクイーンの前に差し出す。


「おいしそう、ぴよー!」

「駄目なら無理しないでいいからな……」


 化石樹の葉は人間も食べられるし。

 味のほとんどないせんべいだったが……。


「いただきますぴよ!」


 ぱりぽり、ぱりぽり。

 勢い良く食べてくれてるな。

 ふぅ、大丈夫そうだ。


 ステラもその様子を安心した顔で見ている。


「……この子に名前をつけてあげないといけませんね。この前教えて頂いた中から、決まりましたか?」

「ああ、考えてきたよ」

「聞かせて頂いてもいいでしょうか?」

「ディア。エルフの古い言葉で太陽という意味のはずだ」


 確かエルフにまつわるクエストの中にそんな単語があった。

 なのでそこから貰ったのだ。


 ちなみに候補は一通り、ステラにも見せて了承済みだ。

 その上でステラは俺に決めて欲しいとのことだったのだが……。

 こういうのは俺が最終決定することらしい。


 正直、俺のセンスそのままだとピヨとか名付けてしまいそうだった。

 でもコカトリスクイーンなんだからな。

 それなりに由来があって、この世界の人が聞いても重みのありそうな名前にしないと。


 一応、こっそりナールとかに聞いてお墨付きは貰ってる。


 ふんふん、とステラが頷く。


「とても良い名前ですね……! さすがの博識です。私の生まれた頃でさえ、すでに古い言葉になっていましたのに」

「大丈夫かな?」

「ええ……この子にピッタリです!」

「ぴよ?」

「あなたの名前ですよー、ディア」

「ぴよよ! あたしのなまえー?」

「ああ、ディア。どうだ?」

「かっこいー!」


 良かった、好評のようだな。


「たべるー!」


 ぱりぽり。ぱりぽり。

 食事を再開したディア。


 まぁ……食欲優先なのは当然か。

 むしろ良く食べてすくすく大きくなって欲しいしな。


 一通り皿に乗った葉を食べ終えると、ディアは首を傾げる。


「あっちにだれかいるー?」

「ああ、多分起き出してきた人だな。この辺りには他にも住んでいる人がいるし」

「ぴよー、あいさつする!」

「い、いいのか……?」


 君は生まれたばかりなんだが……。

 というか色々と整理しないうちにアクティブだな。

 パワフルというか。


「コカトリスは好奇心旺盛ですからね……。ザンザスでも人を見るとすぐ近寄ってきますし」

「そうか……。なら、少しだけな」

「ぴよー!」


 ◇


 そういうわけで、俺達は鳥小屋から歩き出した。


 さすがに着替えて最低限の身だしなみはしているけどな。

 ディアは今、コカトリスの毛を使った毛布にくるまれている。


 それを持っているのはステラだ。彼女の方が反射神経も身体能力もあるしな……。


 鳥小屋からとりあえず向かうのは大樹の塔だ。

 といっても鳥小屋のすぐ裏なんだが……。

 すぐに着く。


「ぴよ? しんでるー!」

「ええっ……!? あ、ああ……あれは死んでませんよ」


 ディアが見たのは、朝から土風呂に入ってる

 冒険者。

 ちょうど頭のてっぺんがこちらに向いてる。

 角度的に向こうからこちらは見えないだろうが……。


 頭だけ土から出ているな。それを死んでると思ったのか。

 賢い。でも惜しい。


「あれは好きで入っているんだ。死んでないからな」

「ぴよよ? なんでー?」

「ふむ……」


 体にいいとか言うと、入りたがるかもな。

 まだそういうのはいいか。

 土よりも毛布の方が好きでいて欲しい。


「彼らは呪われているんだ……。ほら、頭に毛があんまりないだろう? そういう呪いを解くのに土に入るんだ」


 許せ、冒険者達。

 ちょっとアレな言い方になったが、これも生まれたばかりのディアのためだ。

 まだディアに土風呂は早い。


「かわいそうぴよ……」

「ああ、そっとしておこう……」

「……え、ええ……」


 ステラが目をしばたたかせる。とりあえず乗ってくれた、みたいな。


 そのまま俺達は冒険者達をスルーして歩き出す。

 正式な紹介はまた後でもいいだろう。


 そして歩き出して少し経った頃。

 またもやディアが声を上げる。


「ぴよ? しんでるー!」

「ふむ……ドリアード達だな」


 死んでない。

 ……朝から野菜や樹木の根本に埋まっているだけなのだ。


領地情報


 地名:ヒールベリーの村

 特別施設:大樹の塔(土風呂付き)

 領民+1(コカトリスクイーンのディア)

 総人口:151

 観光レベル:D(土風呂)

 漁業レベル:D(レインボーフィッシュ飼育)

 牧場レベル:E(コカトリスクイーン誕生)

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