06.フルーツパーティー

 さて、ナールも無事に帰ってきて新しい住人も増えてくれた。

 ザンザスへの遠出は、大成功だ。


 嬉しいな。

 うん……俺はこの感情を忘れていた。

 だんだんと人や物が増えていくのは、すごくやりがいと手応えを感じる。


「よし、ここはひとつ成功を祝って……」


 俺は褒めて伸ばすタイプだ。

 ねぎらいの宴でもやって、ぱーっと気分良く行こう。

 実際はささやかなパーティーだけど、やりがいや楽しさは重要だ。


 と思って、夕方みんなを広場に集めて言ってみたのだけど……。


「エルト様自らなんて、身に余る光栄ですにゃ」

「……すごい。平民の私が貴族様から招待されるなんて……」

「いや、そんなに大したものじゃないんだが」


 広場とはいえ、石ころを取り除いただけの何もないところだ。

 そこに今いる住民すべてが集まっている。


 この数日、また俺の使える魔法が増えた。【樹木の戦士】の魔法だ。

 力持ちのツリーマンを作り出し、働いてもらう魔法だ。

 樹で出来ているゴーレム、そう考えればわかりやすい。


 この魔法はこれまでで最大の魔力を消費するものの、効果も大きい……はず。

 とりあえずやってみよう。

 息を整えた俺は魔力を込めて唱える。


「樹木の戦士」


 地面に魔力が吸い込まれると、すぐに反応が起きる。

 にょきっと地面から樹が生えてくるのだ。

 よし、うまくいったぞ。


「よし、そのまま人の形になって立ち上がれ」


 命令すると、樹はすぐその通りに形を変え始める――めきめきと音がなり、二足歩行のツリーマンになった。

 大きさは二メートルくらいか。今の魔力だとこんなものだろう。


「こ、これも魔法ですにゃ……?」

「ああ、色々な属性に似た魔法があるが……これはゴーレムを作り出す魔法だな。今の世の中だとあまり評価されないが。よし、お前の名前はウッドだ」

「――ウゴウゴ!!」

「……まだうまく喋れないか」


 俺自身の魔力が成長すれば、このウッドもより強く賢くなるはずだ。

 この辺りは時間をかけるしかないな。


「さて最初の仕事だが――俺の家から果物を運び出してくれ」

「ウゴウゴ!」


 こんな日のために、俺は植物魔法で大量のフルーツを用意していた。

【果物生成】の魔法を使えば、楽勝だからな。


 生み出したのはメロンやイチゴ、ブドウなどなど……。

 確かニャフ族は甘いものが大好きで、目がないはず。だからフルーツにしてみたのだ。

 きっとみんな、喜んでくれるだろう。


 ◇


「ウゴウゴ……!」

「よしよし、その調子で広場の真ん中に運び出してくれ。んん……? どうした?」

「……こんなに沢山のフルーツ、見たことありませんのにゃ」

「ええ、あれはとっても甘いと噂のメロン。もう何年も見ていませんでしたが……」


 俺が思っている以上に、ニャフ族とアナリアがうっとりしている。

 いや、果物ってそんなに珍しいか?


「喜んでくれるのは嬉しいが、大げさじゃないかな……」

「そんなことはありません! 果物は基本、かなり高価なので、平民はめったに食べられないんですよ」

「そうですにゃ……。ほとんどの果物は他国からの輸入品ですにゃ。今のヒールベリーほどじゃないにしろ、高級品ですにゃ」


 うーん……?

 その辺りの感覚はだいぶ違うな。

 前世でも果物のプレゼントはそこまで高価なものではないし。


「貴族様からこんな良い品物を頂戴できるなんて……。みずみずしくて、おいしそう……」

「にゃあ……とっても甘い匂いがするにゃ。素晴らしいにゃ!」


 よしよし、喜んでもらえそうだ。

 というより、今にも手を伸ばして食べそうな雰囲気だが。


 まぁ、食べてくれるのが一番だからな。良かった良かった……。


 あとは野菜や果物は売り物にならないと思っていたんだが、そうでもないようだ。


 この調子だと意外と価値のある作物があったりしそうだな。

 ……後でナールに聞いてみるか。


 ◇


 それから俺達は広場でフルーツパーティーを行った。


 ニャフ族が笛を吹き、太鼓を叩く。

 ケルト音楽のような……素敵な民族音楽だ。


 甘いものを食べたニャフ族は体が動き出すらしく、音に合わせて躍っている。

 見ているだけで面白い。


 アナリアは……なんか酔っぱらっているな。

 たしかコップ一杯のワインしか飲んでなかったと思うのだが。


 そんなアナリアが、コップを手にふらふらと近づいてくる。


「エルト様、私たちのためにありがとうございます……ひっく」

「あ、ああ……おいしかったか?」

「とても! こんなにおいしいメロンやブドウは食べたことがありません!」

「何よりだ。俺も嬉しいよ」


 そんな風に答えていると、アナリアが微笑みながらコップを差し出してくる。

 中身は――ワインだな。


「口はつけておりませんよ。どうですか、少しくらいは」

「……ありがたいが、俺は……」


 言いかけて、俺は言葉をひっこめた。

 なんだろう。うまく言葉にできない。


 差し出されたワインを飲むだけだ。

 ここでは年齢だとかそんなことを気にする人はいない。

 遠慮なんていらない。自分がしたいようにしていいのだ。


 ……そうだな。もう少し自分に正直にならないとな。


「いや、もらおうか……ありがとう」


 アナリアからコップを受け取った俺は、中身を一気に飲み干す。

 ごくごく。


 渋みが喉を通りすぎ、かあっと体が熱くなる。

 でもいい気分だ。とても久しぶりにアルコールを摂ったな。


「ほれぼれする飲みっぷりですね。魔力がある人はお酒も強いと聞きますけれど」

「そうなのか……でも確かにあまり酔いは感じないな。どうだ、ここでポーションは作れそうか?」

「ええ、おかげさまで明日から作業できそうです。はぁ……やっとポーションが作れます」


 アナリアが腰のポーチから、ポーションの入った小瓶を取り出す。

 小瓶の中には、ゆらゆらと薄い青色の液体が揺れていた。


「その色合いは……水とヒールベリーの組み合わせで作ったポーションだな。綺麗だ」


 ポーションの作り方には色々とある。

 薄い青色とさらっとした液体は、水を使う作り方だ。


 ……それが失敗だった。

 俺は何気なく、見たものをその通りに言っただけだったのだが――。


「お分かりになるんですか……!? すごいです、ちらっと見ただけで製造方法まで見抜かれるなんて! しかもこの方法は高等学院でないと習わないはずなのに――」


 アナリアのマシンガントークが始まってしまった。

 どうやら酒を飲むと、色々とが外れてしまうらしい。


「薬師ギルドも最近では理論ばっかり、実際に作らなくていいみたいな、そんな考えなんですよ。私としてはやっぱり作ることが大切なんじゃないかと思うんですけど」

「……ああ、そうだな」

「はぁ……エルト様なら理解してくださると思いました! こんなに知識があるなんて――高等学院の教授みたいですぅ!」


 こんな調子で、アナリアの話は止まらない。

 前世で知っている分野なので、俺もちゃんと答えてしまう。

 それがアナリアにはとても嬉しかったらしい。


 ……結局、真っ暗になるまでアナリアとのトークは終わらなかった。

 でもこんなに人と話をしたのは、いつぶりだろうな。


 たまにはこういうのも、いいもんだ。

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