第21話 なげきの姫君
先日の一件はクリストファー殿下からもリリン宛に正式な謝罪がきたものの、オルランさまが要望していたステラローズ様の臨時帰国は叶わなかった。
だけど、天使一族のプルスラエル様を敬わない態度や、リリンに対する危害の加え方が度を越しているとご判断されたらしくて、本国から臨時で側仕えという名目でお目付け役がくることになったとか。
監視役が来ることが決まったとはいえ、転移の準備は時間がかかるので、ステラローズ様に監視がつくまでいくらかの日数がある。
その間に追い詰められたステラローズ様が何をするかわからないと、心配されたインディル様がリリンの護衛のように過ごされている。この間の一件から過保護に磨きがかかったインディル様のご様子は理由を知っていても少し首を傾げるほどだ。
でも効果は抜群で、ステラローズ様どころか、昨年から気になっていたリリンの周りをチラチラしていたフェーゲの学生からの追跡すらなくなった。
「私では力になれなかったな」
「オルラン様?」
インディル様がリリンをエスコートしながら歩いているのを見て、オルラン様が小さな声でつぶやいた。
「私にはまだまだ力が足りない。彼女を守るだけの力が、インディルを羨ましいと考えてしまう自分が浅ましいよ」
「そんなことありません。オルランさまは」
「ありがとう、アンネマリー」
お礼を言ってもらったのに否定された。裏を読むのが苦手な私ですらはっきりとそのことがわかった。今のオルランさまをすくい上げることができるのはきっとリリンだけだ。
でも、今のリリンにオルランさまの不調に気がつくだけの余裕がない。
私ではオルランさまの力になれない。
改めて私の力のなさを突きつけられた気分だった。私では力が足りない、オルランさまの補助にすらなれない。このままでは、いくら私がオルランさまのことを支えようとしたところで、オルランさまの足でまといにしかなれない。
ギュッと手を握りしめても、何も解決できない。私がやるべきことは一つだ。
聖女になること。
私が聖女になれば、オルランさまの力になれる。それがリリンを守るというオルランさまの目的に沿えば、私はオルランさまの視界に入れてもらえる。
見てもらえさえすれば、オルランさまの中で役に立つ、必要になると判断して貰えたら、きっと。
「強くなります、私、もっと」
それを聞いたオルランさまがふっと口元を緩めて笑った。
その表情はよく見る社交用の微笑みとは異なっていて、ほんの少しだけとはいえオルランさまの心に私が近付けたと思わせるのに十分な顔だった。
僅かに伏せられた目からは憂いが読み取れて、それでいながらご自身を奮い立たせるように無理に口元だけ笑みを浮かべてみているオルランさまらしくない不器用な表情だった。
あぁ、こんな表情もされるのだとまた一つオルランさまのリリンへの愛を思い知らされる。
「君はよくやってくれているよ」
中庭でインディルさまと顔を合わせて笑うリリンの楽しげな声が窓の向こうから聞こえてきていた。
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