第12話 謀略渦巻く交流会

神々の遊びに準えて行事なんて、異世界でもやることは変わらないわね。でも無理してまで七斗学院に来たかいがあったわ、あっちもこっちも罠だらけで愉快な限りね。


フェーゲ王国もウェバルも原作通りの動きをしてくれて、おかげでアンネマリーの意中の人がオルランと裏が取れたわ。

でもオルランの好感度は上がってないから、他の攻略対象キャラクターのイベントも起きそうね。ふふふ、いいわ、面白くなってきたわね。そう来なくっちゃ。



「リリンシラ様、水の神ハーヤエルとして御加護をお贈りしても?」

「ありがとうございます、マリアン先生。土の神ネルトゥシエルは兄を慕っております」



レイド王国内のやりとりが終わってすぐに来てくれた。素敵だわ。階級が高い人は早く帰っていくのが暗黙のルールとなっている宴で、早く贈り物を渡しに行くのはそれだけ相手を重要視しているというメッセージになる。

だから通常の教授なら派遣している自国の有力者を優先する。マリアンがフェーゲ王国の宰相息女より優先する相手を、周囲が看過するはすがない。


カードにはペンの精巧な絵が書かれている。異性へお菓子以外のものを贈るには意味があることが多いが、マリアンはあえて恋人とされているソフィアと揃った状態で私にプレゼントを渡してきた。それも隣にオルランがいて、一緒に渡すほどだ。

そうなれば親戚付き合い、先生と生徒という関係で見れば手のかけている弟子といったところか。


それにしても赤い宝石に黒の台座ね。エリザベートからも貰ったけど、本当に魔王様ルシファーのこと意識し過ぎよね。まあ私がこの色、似合うから構わないけど。マリアンと楽しく探り合いをし終わったところで、予想通りの人から挨拶をもらった。



「時の神のお導きでしょうか?ご挨拶申し上げてよろしいですか?」

「もちろんです。時の神の粋な思し召しでしょう」

「こうして話すのははじめてですね、アザレア・アスダモイと申します」

「光の女神の微笑みを垣間見た心持ちです。リリンシラ・ラグエンティと申します」



アザレアの背後にいる魔族も見覚えがあるわね。きっと宮仕えの誰かの子どもだろうけど、全く名前が出てこない。まあ、リリンシラが知るはずのない情報だからそれでも良いわ。



「マリアン先生があのように親しくされているのを見て驚きました」

「以前にキシャル先生とともに我が領地にいらっしゃったので、そのときから交流があります」

「そのようなことがあったのですね」

「ええ、ラグエンティ伯爵領は商業に特化していますので、良い素材が手に入ると仰っていました」

「あぁ、ソフィア様のためですか」



あらあら、マリアンがソフィアを溺愛しているせいかそのまま納得されそうだ。このままアザレアが疑うことを知らない純粋な小悪魔ちゃんじゃ困るわ。そうね。それならこの言葉でどうかしら。



「私の従兄弟とも仲が良いアスダモイ様と、私も風の子のように過ごせればと存じます」

「従兄弟?」

「ええ、インディルは私の従兄弟です」



アザレアの目が細められる。恐らく魔族たちの中ではインディルはレイドの噂通りの魔族の混血、もしくは魔族だろうと見なされている。アザレアがさっき贈り物をしたことからも明らかだ。

それならそのインディル従姉妹を名乗り、さらにマリアン・ベリアルに注目されている生徒は当然調べるでしょう?


私はリリンシラが魔王の娘である設定は公然の秘密にしたいの。その方が安全じゃない、聖女と勘違いされるよりも命の保証がされる。彼女に早く辿りついて欲しいものだわ。



「記憶の神シュネエラの過ちを疑うほど、楽しい時間を過ごしました。時の神クィリスエルの御加護がとけぬうちにお暇させていただきます」

「ラグエンティ嬢。こちらをお贈りいたします」

「まあ、光の女神の祝福をいただいたようです。私からもこちらを。ぜひリリンとお呼びください」

「それでは私のこともアザレアと。仲良くしましょう、リリン」



底光りする目で仲良くしましょうだなんて、本当に素敵なひとたちね。ふふふ、でもその優秀さ、期待しているわ。


フェーゲの学生と交流の後、オルランに声をかけてからパーティ会場を離脱した。パーティ会場の外で、少しそわそわ待ってくれていたインディルに内心ニンマリと笑いたくなる。

なんて良い位置で待ってくれているのかしら。寮に向かう学生が目を凝らせば見えるけど、興味がなければ見過ごすぐらいの絶妙な場所だ。



「インディル!お待たせ。はい!今年のハンカチ、ふふっ、私も上達したでしょう?」

「ありがとう、リリン。今年の刺繍もとても上手だよ」



木陰でインディルと会話をしていると、急にインディルが私の手をとって、ダンスをするようにくるりと回る。


馴染みのある気配だったからオルランかしらね、微かに呪文の声も聞こえた気がするから、私の婚約について余計な噂が流れないようになにかしてくれたのかしら。

インディルにもオルランにも庇われるなんて、こんな展開だとまるでロマンス小説のようだわ。乙女ゲームの世界に来たのだと、ようやく実感してクスクス笑う。



「急にどうしたの?ふふっ、まるでダンスみたい。そうだ!インディル、一曲踊らない?」



そう囁けば、インディルは少し目を見張ったのちにペトラによく似た顏でとても幸せそうに笑った。

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