第11話 友好なる交流会

オルラン様にエスコートされてレイド王国の集団に合流すると、カールにエスコート役が代わった。カールがこっそりとウェバルはノイトラールの要人だからオルラン様が迎えに行ったのだと状況を教えてくれた。



「光の聖女バルドゥナの祝福を垣間見せいただけませんか?」



オルラン様が代表で、クリストファー殿下に挨拶したあと、階級順にレイド王国の学生が殿下にカードを手渡していく。注目されていたリリンも、予定通りの用意していたカードを手渡している。


私の順番が来てクリストファー殿下にカードを渡す。殿下から渡された返礼のカードにはクレマチスの花を模した殿下の紋章が描かれていた。メッセージは「いつもの場所で、また」と書かれている。

ふわりと香る花の香りに殿下の心遣いを感じて、顔を上げると、いつも笑顔の殿下が表情のない顔をされていた。



______殿下にそんな顔をさせるのはだれ?



クリストファー殿下の視線の先に居たのは、なんとマリアン先生。リリンにカードを手渡して何か言葉を交わしている。

口端を上げる怪しげな笑い方をしているが、怪しく見えるだけでアレがいつも通りの先生だ。カールへの補講も丁寧だし、戦闘訓練の流れ弾の件からリリンのことも気にかけているみたい。


それにマリアン先生はキシャル先生とも仲が良いらしく、リリンやオルラン様とは2人が学院に来るより前に会ったことがあるらしい。マリアン先生はオルラン様にも同じようにカードを渡しているし、特段おかしなところは見られない。


いつも完璧で、レイド王国の誇りとさえ言われる殿下の見てはいけない一面を見てしまった気がする。そう思って一歩下がったところで、慣れないヒールに足を取られた。



「怪我は?」

「すみません!大丈夫です」



いつもクリストファー殿下の傍にいる騎士に支えられて事なきを得た。リリンから借りたドレスは、リリンと色違いのレースが重なる可愛いものだ。破れたり汚れなくて良かったと思ってほっとする。



「よく似合っているよ。私はエンリル・モロス、クリストファー殿下の護衛をしている」

「アンネマリー・クエーサーと申します」

「よくラグエンティ伯爵令嬢と共にいる子だね。もう転ばないように気をつけてね」



私の衣装をスマートに褒めてくれた騎士様はクリストファー殿下の護衛らしく、それだけ言葉を交わすと殿下の護衛に戻っていかれた。


幾人か授業で関わりのある子たちとカードを交換して、ちらほらと退出者がではじめた。レイド王国はクリストファー殿下が退出されたから、あとは自由参加になった。

リリンに一言告げてから出ようと思って会場を見渡したら、レイド王国の女の子たちに囲まれた。



「話があるわ」



彼女たちに連れてこられたのは人気のないバルコニー。本来なら宴会に疲れた人が風にあたって休憩したりするところで、ロマンス小説なら婚約者たちが逢瀬したり、国同士の密談に使われると前に聞いたことがある。



「あなたどういうつもり?」

「身分のない平民がどうしてクリストファー殿下やオルラン様に気にかけられているの?」

「成金伯爵令嬢は仕方ないにしても、あなたは目障りだわ」

「モロス様にまで目をかけてもらうなんて、なんてふしだらな女なの」



次々にぶつけられる言葉に奥歯を噛み締める。リリンより上の階級のご令嬢はレイドからこの学院に来ていないのになんていいよう。せめてリリンの悪口を言うのを止めさせようと、言い返そうとして顔を上げたらバルコニーにオルラン様が入ってきたところだった。



「アンネマリー、探したよ。ご令嬢がた、彼女をお借りしても?」

「え、ええ、もちろんです。シャルマーニュ様」

「ありがとう」



オルラン様が順に名前を告げていくと、ぱっと頬に紅が差すご令嬢たちを見て、呆れたような気分になる。よくもまあ……さっきまでオルラン様の幼なじみのリリンを罵倒していたのに、なんと切り替えが早い。



「リリンも既に退出した。アンネマリーのことを心配していた」

「申し訳ありません」

「いや、私達も配慮が足りていなかったようだ」



オルラン様はなにか言いたそうに口を薄く開けたものの何も言わず、そのまま引き結ばれた。迷っていらっしゃる様子を見せてくれるのも珍しい。建物を繋ぐ渡り廊下で、オルラン様が急に立ち止まられた。


どうかされましたか?と聞こうとして慌てて口を塞いだ。どこからか人の声がする。

ゆっくりと足音を消してオルラン様が窓際から庭を見下ろす。今日は月が明るく、それに宴があるから煌々と灯りも付けられている。


夜の闇の中でも幻想的に輝く、リリンがいた。私と色違いで揃えられたドレスは月明かりを反射してキラキラとしている。誰かと話しているようだけど、もう1人は木に隠れて見えない。



「ハンカチ……?」



オルラン様が思わずと言った様子で言葉を漏らした。遠目で見にくいが、リリンと一緒にいる相手は箱から白い布、ハンカチを手にしていた。


十中八九、インディル様だ。



「いったい誰に」

「インディル様だと思います。インディル様にお渡しする家族、お母様がご病気と伺ってから毎年贈っていらっしゃると」

「あぁ、なるほど」



ため息をついたオルラン様は整えられていた髪の毛を片手で崩される。普段見られないその姿に場違いながらドキドキしてしまう。



「本当に心配になるよ。こんなに人目につくところで、あれで隠れてるつもりだから可愛らしい。仕方ない、心神イーシテュエルよ、我が力を糧に祈りにこたえたまえ」



魔力で気がついたのか、インディル様がリリンを庇う素振りを見せる。すぐにこちらを見上げてきたインディル様の実力の確かさに驚くが、オルラン様と視線だけでなにかやり取りされた様子だ。



「今日のところは譲ろう。帰ろうか、アンネマリー。このことは他言無用だよ」



人差し指を口の前に添えたオルラン様は少しイタズラっぽい笑みで、そう告げた。


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