第13話 優雅なお散歩

召喚されてから早くも1ヶ月。いつものように訪れたルシファーと、久々に来たペトラをお茶に誘おうとしたら、遮られた。

ついに、謎の城の登録とやらをして貰えるらしい。


登録が遅くなった理由は、ペトラが忙しかったかららしい。が、宰相であるペトラがそんなに頻繁に不在になるなんて、何が起きているのか想像すれば楽しい限りだ。その調子て頑張って貰わないと、グングニールへの報復が甘っちょろいものになるから是非とも応援する。

ベルトランはペトラがグングニールにすることを城へ乗り込んできた報復と考えていたけど、もともと狙っていたから不在でちょうどよかったってところかしら。ベルトランは洞察力が甘いわ、まだまだね。



「ずいぶんと楽しそうだな」

「せっかく魔法アリの異世界に来たのに魔法は教えてもらえないし、お城の外に出かけられないんだもの」

「魔力をもたない人間がうろうろして問題ないほど治安がよくない」



その治安の悪さは異世界人で女王にされた私にのみ発揮されているんじゃないかしらと察していても声には出さない。ただ「わかっているわよ」とにっこり微笑んであげるだけで圧力は十分だ。

私ごとき小娘がキイキイいったところでルシファーもペトラも堪えるような優しい神経はしていない。そんな優しい人たちだったら、乙女ゲームの勇者イケメンのトラウマそのものになったりしないわよ。


ルシファーの命令で、玉座の間からルシファーとペトラ以外を締め出す。護衛もダメらしく、サラも、ペトラの護衛という男性も玉座の間の扉前に待機になった。

私を召喚したこの玉座の間がこの城の中心らしい。


改めてこの玉座の間を見渡してみて思う。この城は戦時中かってぐらい装飾が少ない。確かに普通の家と比べれば比べようもなく贅を凝らしている場所であることには間違いないが、城にしては質素だ。

廊下を歩いても絵画とかはほとんどないし、飾りの鎧や武器はいざというときにはたぶん使う。試しに触ったら普通に飾りの枠から取れた。


ついでにその武器は、サラが慌てて私から取り上げた。理由が、私が誰かを攻撃する危険を考えて…ではなく、武器に慣れない素人が武器を持つと本人が怪我をするからという部分がちょっと微妙。武器もダメ、魔法もダメといわれてしまったら、異世界に来た感は皆無だ。



「それで、ようやく私をメルヘンな世界に連れて行ってくれるのかしら」

「君は私たちがメルヘンな国の王様と宰相様に見えるのかな?」



アルブから淑女のたしなみとしてもらった扇を広げて視線をさえぎってから、皮肉気に鼻で笑ったルシファーににんまり笑い返す。そんなメルヘンな国だったらとっくに飽きていた。

毎日毎日、あの手この手でゲームを良い位置で見るために、面白おかしく手を加えるために画策している私がそんな趣味をしているなんて、ルシファーは毛先も信じていない。


ペトラはそうじゃないみたいだけど。


シトラ姉弟に私が心細くなっているだとか、親を思い出して泣いているだとか吹き込んだかいがあった。ペトラはちょっとだけ私に同情的だ。ペトラ自身が恵まれた生まれであることや周りに優しくしてもらっている自覚があるからこそ、国を挙げて干されている私に同情する。親元から引き離された幼い子どもと思っている節さえある。

ゲームの知識として、魔族が人間より長生きとは聞いていたけど、思っていたより長生きみたいだ。実際に魔族の中では比較的に若輩者とされるイブリストですら30歳は越えているらしい。幼子のような見た目のシトラ姉弟ですら50ちょっと。平均寿命のケタが違う彼らにとっては20にもならない私は幼子といわれたら何も言えない。

魔力の大きさで寿命が変わるとか、リアルで強い者が長生きするぶっとんでいる世界だ。



「楽しみにしているわ。だって魔法でしょう?」

「あぁ、ソフィアが言うには異世界人でも受け入れようと思えば受け入れられるらしいからな」

「まあ素敵」

「現に召喚されたとき、ペトラにかけてもらっただろう」



なるほど、それはそういう意味もあったのか。自分たちの力が全く及ばない異世界人を城に置いておくわけにはいかないと、あのとき「早く治しなさいよ。誰か助けなさいよ」と思っていたのは吉と出たようだ。正直に生きるって大事。

それにしても、ペトラはルシファーに思っていたよりも信頼されているのね。



「先に行きます」



アルブから聞くには、ルシファーを育てたと言って過言ではないらしいペトラは臣下としての姿勢を崩さない。今回はペトラが先導を務めてくれるらしく、ぼんやりとした灯りの玉を浮かべて玉座の後ろに現れた階段を先に下って行った。


この入口は控えめに言って、裏ボスへの隠し通路。明らかに後ろ暗い何かがないと要らない場所へつながっている感、満載だ。

どうやらきちんとエスコートをしてくれるらしいルシファーが仰々しく、それこそお姫様にするように膝をついて手を差し出してくれていた。攻略キャラだけあって、嫌味なほど様になっている。ただ、どちらかといわなくても悪役だ。



「どうぞ?おひめさま」

「まあ、すてきだわ。これぞ地獄への招待って感じ」



ルシファーは私が手を取るとちょっとだけ安心したような表情をした。あぁ、そういえば妹が語っていた気がする。

攻略キャラの魔王ルシファーは正統な血筋でないのに、魔王に担ぎ上げられたためにずっと第一王子と比べられて育ってきた。だから、人に選ばれることに固執していて、主人公ヒロインに「勇者と俺どっちを選ぶの?!」をやってくる女々しい攻略キャラと。


なるほど。その片鱗がこれか。


ルシファーなら落としておいてよいかもしれない。あと1年のうちに一度消える魔王様だとしても、今はフェーゲ王国で絶対的な権力者だ。これ以上の庇護者は今のところ望めない。



「きちんと案内して頂戴。私の魔王様」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る