第12話 騒動の裏方
世界と世界の間をこじ開けるのに途方もない量の魔力が必要になる。そして、魔王さまへ親和性が高いものを呼び寄せるためには、城の源の近くで行うことと悪魔系の協力が不可欠だ。
玉座の間で召喚をすると決めて、ソフィアの動きは素早かった。
「ペトラ、顔色が悪いぞ。大丈夫か?」
「他の方がいるときに」
「大丈夫、エリザベートさましかいない」
そのお方が一番気になるのですがとは言えない。私の派閥外のナーガさまや獣人筆頭のレーベ・コーニマリスが立ち去ったから気を抜いて良いというわけじゃない。
何度も伝えたはずだが、そんなことと遠くに投げ捨てているのか。同じ頃に学院に通っていて、私がきちんと王子だったころの側近候補シジルが寄ってきた。
魔王陛下の正妃候補と言われるようになってからも、私にまだ気安く手を伸ばしてくる珍しい存在だ。
「ナーガさまの攻撃、守護魔法で真っ向から受け止めたんだろ。お前の後ろだけ壁が残ってたもんな。
まったくお前じゃなかったら、そんな荒業できないっての。よく魔力枯渇しなかったな」
「リヴァイアもいたからな」
「俺はお前が心配だよ」
「ありがとう」
「はあ……。どうせ、召喚、馬鹿みたいに魔力使うんだろ?魔力の多い魔族は筆頭以外も集合と言われたもんな」
私はその指示を出した覚えがないから陛下が直々に勅令出だしたんだろう。ヴルコラクを名乗る兄弟は他に学院にいるユリーしかいないから、私には言わなかったのか。
「回復薬ぐらい飲んでおけ。そんな中、宰相がぶっ倒れるのはヤバいだろ」
「シジルは持っているのか?」
「当たり前だろ。これはお前の分。飲んでおけ、今回の召喚、俺は嫌な予感しかしないんだよ」
大袈裟なと流せない。彼が前に嫌な予感がすると言った日に父王が勇者の襲撃を受けて、地獄の門をくぐった。
大人しくシジルから渡された試験管入りの赤い魔法薬を飲み干す。胃が熱くなる感覚に思わず吐きそうになるが、飲み込む。体力や魔力を無理やり戻す薬はどうしてもこうなる。
「……言っておくけど、他のやつからこうやって薬渡されても飲むなよ」
「そこまで不用心では」
「ペトラ、お前、自分で思ってる以上に要人だからホント気をつけてくれよ?」
相変わらず人の話を聞いてくれないものの、心配してくれるシジルの気持ちを少し嬉しく思って受け取る。体力と魔力は無理やり戻したが、疲労感は拭えない。それでも召喚までの時間はそう多くないから、すぐに本城へとんぼ返りした。
王城は急遽作ることが望まれ、そのときの財政は危機的で、そして政治基盤も怪しいルシファーさまではお金を集めるのも一苦労だった。だから城は全体的に予算削減で、シンプルに作られている。
だが、玉座の間だけは別だ。豪奢なシャンデリアに、贅沢なカーペットが敷いてある。玉座の間はルシファーさまの威厳をしめす場所だからそこだけは惜しまなかった。
でも、ソフィアに遠慮とかはないらしい。
敷きつめられたカーペットの上に白墨で魔法陣の線を描いている。せめてカーペットを剥いで欲しかったと言うのは後の祭りだ。
今期の予算、どこを減らしたらこれを補填できるか。もしくは歳入を増やすためになにか事業でも興すべきか。
「ペトラ」
「はい、陛下」
「召喚の魔力供給には参加するな。俺と、非戦闘員に守護魔法をかけていてくれ。何が来るかわからないからな。到着と同時に目くらましをかける」
「承知いたしました」
もしものときには陛下の嫁を始末しろということか。その指示があるなら、守護魔法を使うのは確かに、私でないとダメなんだう。
そもそもルシファーさまへ謀反の意を持つ者も少なくない上に、ルシファーさまを支持する者なら得体の知れない異世界人を嫁にすることに反対している。表面上、ルシファーさまの意向に従っていても、根源たる異世界人をその手で処分しても良い許可を委ねられたらどうするかわからない。
嬉嬉として召喚作業を進めるソフィアのおかげで、玉座の間は短時間で召喚の間に早変わりした。続々と到着する魔族たちに笑顔で挨拶をして完成を待つ。
挨拶の中、レイド王国に潜ませている間者の連絡員からちらりとジークフリート家に赤子が生まれるらしいという噂を聞いた。当たりとは限らないが、そろそろ長年構築してきた伝手を使うときかもしれない。
「さあ!陛下!いつでもできます!」
煌々と目を光らせるソフィアの報告で、魔力の多いナーガ、ベリアル、アスダモイ、フーリー、イブリストとリヴァイア、そしてルシファーさまが重要地点に付く。
それ以外の集まった魔族はそれぞれの属性の代表が付く地点の外周から魔力を一族筆頭に集めることになる。イブリストとリヴァイアには近衛隊と騎士隊からの幾名。ルシファーさまには城仕えたちが配置についた。
「我らに数多の魔力と恵をもたらす神々に感謝を。加護神シャムシアイエル、時を司る神クィリスエルよ」
ルシファーさまが祝詞もしくは呪文と呼ばれる神への魔力行使を訴えかける文言をつむぎ始めると、それぞれの魔力の色が見えるほどに魔力が引きずり出され始める。
鳥肌が立って、刺激で痛いと感じるほどの魔力が渦巻くのはイブリストとリヴァイアのとき以上だ。あのときとは比べ物にならないほどの量が使われる。
世界間の壁をこじ開けて、交流を持つことを祈る。
白墨で描かれた魔法陣に魔力が流れ込みはじめて、混ざり合い、捻れて、まるで虹のように光輝く。イブリストから放出される炎の魔力、リヴァイアから放出される水の魔力。それぞれの種族毎に得意な魔力の色が、異世界への扉をこじ開ける。
その魔力の光が魔法陣の真ん中へ収束して、人型を象り始める。
何が来る。戦闘能力がなくてもよい、ただ、せめて、魔族であって欲しい。
精霊や幻獣が悪いとは言わない。言わないが、それではこの城の主に指定できない。ただ、二人の間にお子ができるまでの空白の期間に、勇者がこの城に着いてしまう可能性もある。
魔王の直系がいない今、どこに徴が降りるのかわかったものではない。探すのに一体どれだけかかることか、そしてその間にどれだけの犠牲がでるか。
そうして、光の中から現れたのは。
人間だった。
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