第11話 騒動の裏方

本来の天使としての本能はどこに行ってしまったのか。おっとりとした性格を持ち自らより強い者に付き従う習性の天使一族の生まれであるはずなのに、髪を振り乱して目をギラギラと輝かせて叫ぶ姿はどちらかというと悪魔。

ソフィア・ヘルビムと同年代で学院に行ったものは、また始まったと目を濁らせて、初めて見るものら思いっきり引いている。


天使一族の筆頭ラファエル・ヘルビムはソフィアからそっと目を逸らして、憂うように目を伏せていた。同性であっても加護欲がでてくる。これぞ天使。

本来の天使の姿に少しだけほっとしたが、反動でソフィアを見るのがキツい。



「世界と世界は、つかず離れずの距離にいます。具体的にいえば、私たちの世界で童話として知られる話が現実になっている世界。人間しかいない世界。可愛らしいマーメイドがいる世界。

これは別の軸にある別の世界。私たちが知る物語を生きている人たちがいるということなんです!」



今の話でなにが琴線に触れたのかわからないが、空に向かって手と羽根を伸ばす様は見た目だけは天使なので、なにか降臨しそうだ。



「そこに生きる異世界人は、私たちの世界の理から外れる存在です。そう、勇者や聖女の存在が、私たちの実力と全く関係なく関与してくるのと同じです」

「まさか」

「神殿の予言は異世界を垣間見して得られます。異世界では私たちの世界の話がきちんと終わっている。めでたしめでたし、と語られているのです!」

「なんと……、未来が既に決まっているなんて」

「それは!!今回の召喚の理由の一つでしかありません!!」



ノリにノッて来たのか、ソフィアは天使どうこうの前に、女性としてあるまじき妙な唸り声を上げながら、怒声を上げる。よくこんな声が出せるものだ。

そして、重鎮たちが気になる事項や召喚の理由に納得した声を出しているのに、一切反応することなく全て無視。肝が据わりすぎている、少し常識まとも成分が欲しい。


少し現実逃避をしたくなったところで、気遣わしげに私を見るフーリーに気がついて、手を振って遠慮した。

魔族の中では珍しい回復の力を持つフーリーに甘えすぎるのは良くない。それに、これは精神的なダメージだ。魔力が足りないとか、血が足りないとかそういうことではない。


ついでにリヴァイアの「回復しようか?」の視線も断る。こっちは私の魔力を核に作っているから私が損耗したときに同じ力を渡すことで、私を回復することができる稀有な存在だ。

ただ、リヴァイアの魔力は私に近しいが、陛下の魔力も入っているから完全一致ではない。どうしても不具合が出る。死にかけたときとかでなければ、使いたくない。



「しかし、今上陛下は先代正妃さまのお子ではありません。それであれば、異世界人を正妃にしなくてもよいではないですか!」

「異世界人には!!!魔法の力も!!聖なる力も!!なにも!!彼らの意にそぐわない害を与えることができないのです!!!!」

「いい加減話を聞けよ!!お前、天使じゃねえの!?」



他の人の話を総無視して進めていくソフィアに、ついにアスダモイが怒った。テーブルがあれば叩いていただろう勢いだが、仮にもソフィアは天使で女性だ、力技で捩じ伏せるのは止めたらしい。

同年代で学院に行ったからわかるが、シジル・アスダモイはもっと短気なやつだ。むしろ、よく我慢した。


でも、異世界へ思いを馳せるソフィアには届かない。話だけではなく、彼女の意識も異次元に行ってしまっている。

控えめに言ってこの状況はカオスだ。色々と諦めてしまいたい。


ソフィアの話はまだまだ終わらないが、見切りをつけたのだろう悪魔系の一族筆頭であるエリザベート・ベリアルが私に話しかけてきた。

ふわりと自然な仕草で口元に広げられる扇には美しい薔薇が描かれている。



「ヴルコラクさま、正妃を異世界人にする理由は秘密に関わると考えてよろしくて?」

「私に秘密なんて、そんな多くありませんよ」



さすがにその通りですと直に答える訳にもいかず、返答を考えるのに間を取ろうとしたら、それだけで回答がわかったらしい。



「ペトロネアさまが語れないものが多くあると存じておりますわ。

それに、如何に異世界人の力が興味深くても、勇者の力の盾に、異世界人一人だなんて侘しいもの。そんな小さな盾があっても、ねえ?

それに聖なる力が効かない魔王に魔族としての力が備わるかも怪しいと思いますわ。

そんなものだけで、預言を防げるなら先代さまも崩御されておらず、ペトロネアさまとしてヴルコラクさまもお過ごしになっていたことでしょう」



相変わらず返答しにくいことを聞いてくるが、私の意見を支持という部分は変わりがなさそうだ。魔族の中では、悪魔系と獣人の派閥が大きい。片方が支持してくれるというのは、大変有難い。


さすがは先代魔王の正妃の妹。エリザベートさまはフェーゲ王国の不自然によく気がついておられる。

姉が魔王に嫁がなくても、エリザベートさまが時期筆頭と見られていたと噂を聞くから、昔から優秀だったのだろう。



「良いですわ。このお話がきちんと終われば、ペトロネアさまも宰相としてだけではなく、きちんと私的にも身の置きところを決められるのでしょう?

わたくし、叔母としても嬉しく存じますわ。国とためとわかってはいても、心苦しく思っておりましたの」



思わず笑顔が引きつる。そうだった、彼女が勘違いしているわけがなかった。私が男のはずなのに、ミスリードして国の平定に走っているのを誰よりも見守ってくれていたお方だ。

もし、仮に勘違いしているのだとしたら、きちんと家に降嫁してくれますよね?という圧力だ。どちらにしろ、背筋が寒い。


ようやく異世界の素晴らしさや異世界人の面白さから、召喚方法について話し始めたソフィアにもう一度意識を向けて、召喚場所の検討をはじめることにした。

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