第8話 非日常の幕開け
サラはちらちらと反抗的な視線を向けてくることはあっても、以前のような敵意はなくなった。予定通りではあるものの、ちょっと物足りなくなった。
プライドがすごく高いわりに、敬愛する陛下とペトラに褒めてもらえていなかった私の
従順な護衛のあるなしで動き方が変わってくるから、それは大変ありがたいことではあるが、なんせ暇になった。
他に暇つぶしとしてちょうど良さそうだったソフィアは私の教育係であるものの、かなり人格破綻しているマッドサイエンティスト。私が”童話”を特定できる材料探しに、旅に出てしまって、私の教育は一向に進まない。
ペトラがソフィア以外に魔法を教えられる教師を探していると噂を聞いた。
「美味しいわ」
「お口に合われたようでなによりです」
粛々と仕事をこなすアルブ、ちょっと私のことが可哀そうと同情しかけているシトラ姉弟のおかげで、私はちょっと暇だけど、快適なニート生活をはじめていた。
ご飯は種族ごとに異なるというこのお国事情のせいで、野菜だけになったり、血が滴るような肉を出されたり、当初は散々だったが、あれこれと世話を焼いてくれるシトラ姉弟のおかげでようやくまともなものにありつけるようになった。でも、あまり食が進まないふりをして、ご飯は少しだけにする。
シトラ姉弟は私の監視係も兼ねている。アルブは私の元を離れることが多々あるが、シトラ姉弟は必ずどちらかがついている。ペトラに私のことを報告をするなら、きっと彼女らだ。
ペリのおかげで、部屋はすごく快適。
部屋から出て、城を歩けば、視線で殺せるなら私が何度死んでも足りないぐらいの視線をよこしてくる連中もいるが、国で最高峰と称される護衛サラ・イブリストを敵に回してまで戦いをしたいわけではないらしい。つまんないの。
「今日も散歩にいこうかしら」
「同行する」
職務に忠実なサラはお散歩にも付き合ってくれる。今日こそ彼が来てくれる日だといいんだけど。まだ魔王城にレイド王国の騎士が侵入されたことあるなんて噂は聞かないし、私が立ち入り禁止とされている区域もない。
この魔王城は近日のうちに、レイド王国の騎士グングニールに侵入される。
理由は愛おしの奥方ハイクエラとその子のため。勇者が生まれる預言がでる直前に、奥方の妊娠が判明したことから、レイド王国ではその子が勇者ではないかと期待が寄せられている。長女アルメニアと16も歳が離れているから、奥方の妊娠自体かなり奇跡的ともなると、話題にはなる。
もちろんそんな噂を有能なペトラが見逃すはずがないんだけど。
だから「殺られる前に殺ってしまえ!」で、グングニールが魔王城にやってくるという顛末だ。その報復でペトラが動くからグングニールは自業自得。ご愁傷さま。
でも、妹から噂を聞く限り、面白そうな歪み方をしている男だからぜひお会いしておきたい。
その侵入のときに、サラ・イブリストとベルトラン・リヴァイアが怪我をするというイベントがあるはずだ。
だからサラが私の護衛だとちょうど良い。私がお散歩しているときに襲撃を受ける可能性はゼロじゃない、それどころか私の専属護衛が戦闘に巻き込まれるなら私の近くで戦いは起こる。
私がどうしてそんなことを知ってるかといえば、ベルトラン攻略のうちにそういう設定がある。
なんと主人公に向かって「かつて、人間にやられたことがあって、ペトラ様のお手を煩わせてしまったから人間は無差別に殺す」宣言をするのだ。主人公ほんと聖女、もう護衛は足りてるし、私ならそんなペトラ狂信者はいらない。ペトラ本人に返すわ。
「きれいな庭ね。今日のもセンスが良いわ」
まあ、そんな気持ち悪いイベントは置いておいても、この城の散歩は結構気持ちが良い。魔王城と聞くと、おどろおどろしい人間に向いていない城をイメージするが、そんなことはない。
確かに曇天の日が多いなとは思うが、普通に花は咲くし、水は透明だ。噴水も贅沢に水を噴き上げている。
庭園も毎日眺めれば飽きると思いきや、そこはやはり魔法の世界。日々、草木は位置を変えたり、形を変えたり、日々忙しなく私を楽しませてくれるのだ。いい仕事をする。ペトラが用意してくれるらしい離宮にもぜひ庭師を連れていきたい。
「
「あら、珍しいわね」
昼間は仕事で一切見かけない。私の部屋に来るにしても、ペトラと一緒。陛下がそろそろペトラのいないところで話しかけてくると思ってた。
私の召喚を決定したのはルシファー本人だと聞いているが、ルシファーは私から一向に未来を聞き出そうとしない。未来を聞くつもりがないのに召喚してくれた理由をそろそろ知りたい。
「陛下、ごきげんよう」
「元気がないと聞いていたが」
「あなたが見た通りよ」
「そうか」
よし、シトラ姉弟へのミスリードはバッチリだ。ペトラには私が元気がないと思ってもらいたい。今後の楽しみのために。
それにしても、今日も今日とて、2周目の攻略キャラである魔王ルシファーは麗しい。俺様系と聞いているのに、周りのキャラが濃すぎて、特にソフィアとかソフィアとかのせいで、陛下の印象が薄い。
私は俺様系好きじゃないから、関わるのはめんどくさい。でも、綺麗なものを眺めて綺麗と思うのは好きだから、見る専で眺めておきたい。
ルシファーがポケットから緑の石を取り出す。宝石ってわけじゃなさそう。球体の石は、光を透かしてどちらかというとビー玉みたいに見える。手元を覗き込んで見ていたからか、ルシファーが丁寧に説明をくれた。
「防音の魔道具だ。魔力を込めたら幕の中の会話を外に知られることはない」
「内緒話に便利ね。でも普通に魔法使った方が楽なのではなくて?」
「この魔道具は口元の動きも誤魔化す、範囲指定で
ビー玉、もとい魔道具をルシファーが握り込むと東屋が緑の薄い靄に覆われる。外と隔絶されたことを確認して、ルシファーは俺様系魔王に相応しい微笑みを浮かべた。
「話をしようか、
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