そんなひと

ぽた、ぽた、ぽた…

また台所の蛇口をきちんと閉めてなかったと私は台所へ立つ。

私より年上のこのアパートは所々に隠せない経年による劣化がみえる。

台所の蛇口をきちんと閉め、水が止まるのを確認して隣の部屋に戻ると私は着る予定のない浴衣の続きを縫い始める。


毎年、あなたは花火大会へ行く約束はするけど、当日に都合が悪くなったとメールだけの詫びを入れ、次会うときには花火大会の約束なんてなかったかのように私を抱きしめる。

あなたは器用に立ちまわっていると思ってるかもしれないけれど、さすがに3年も続けば馬鹿な私でも分かるわ。

あなたはいつもそんなひと。


ぽた、ぽた…。

また?

私は台所へ行くが蛇口はきちんと閉まっている。

ぽた、

ぽた、ぽた…。


風呂場の蛇口も傷んできたかしら?

建て付けが悪い風呂場の引き戸を開けようとして思い出した。


去年の夏…。

風呂桶から出たあなたの手…男の人のわりには白くその細い指先から水がしたたる音。


あなたなの?


私は引き戸を開けようとしたけど磨りガラス越しにぼんやり立っているあなたの影は返事もしない。

私は音がする風呂場の引き戸を開けるのをやめ部屋に戻り浴衣を再び縫い始めた。



ぽた、ぽた、ぽた…。

風呂場からの音は続いている。

遅かったわね。…また、よそで寄り道してたの?

もうどこへも行かないでね。


あなたは私だけのもの。

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