違和感
喉に違和感がある。
痛みではなく喉に空気が詰まったような感じで以前から違和感を感じていたのだが、最近になって違和感の上に息苦しさが出てきたので休みを取って病院に行くことにした。
しかし、どこも異常はなく医者からはストレスからくるものでしょう、気になるようなら別の診療科を紹介しますと言われたので黙って診察料を払って病院を出た。
バスに揺られて帰る途中、窓の外に流れる景色を見ながら私のストレスってなんだろうと考える。
最寄りのバス停でバスを降り梅雨明けした街路樹に蝉の声が響く中、私は家へと歩きだす。
日差しが明るく気持ちいい帰り道だったが、家が近づくにつれ喉の違和感がまた増していく。
息苦しさの中、やっとの思いで帰り着くと玄関の鍵を開け中へ入る。
玄関を開けるとこちらに背を向けて彼がソファーに座っている。
私は黙ってサンダルを脱ぎ鍵を靴箱の上に置く。
いつもなら私が帰ってくるなりスイーツの美味しいお店見つけたから一緒に行こう、とか今年の夏はどこ行く?とか言うのに。
黙ったままの彼の隣へ座り横顔を見つめる。
生活力のない人だったけど好きだったの。
私だけに優しいし、ちっともストレスなんかじゃなかったわ。
でも、これでおしまい。
さようなら。
私は喉のつかえを吐き出すように彼に告げる。
あなたは事故で死んだの。
気づいてないかもしれないけど、そこの小さな箱に入ってるのよ。
背の高いあなたがそんな小さな箱に入ってるなんてなんだか不思議だけど。
近々、ご両親のところへつれて行くから。
泣いてばかりの私を心配してくれてるんだろうけど私は大丈夫、だからもう逝って。
やっと振り返った彼はふっと笑い消えた。
彼へ別れを告げると喉の違和感はすっかりなくなっていた。
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