ほたるび
最近潰れた隣町のコンビニ跡に蛍が出るという。
確かに田舎の山の中とはいえ、水辺もない県道沿いの騒がしい所に蛍が出るとはにわかに信じられなかった。
どうせ暇なんだろ?
ガキの頃からの親友であるコータに言われ、俺は少しムッとしたが確かに暇ではある。
行こうと言われ断る理由もなかったので、さっそく今週末の土曜の夜に行くこととなった。
ごめん!
なんだよ急に。
車が走り出すなりコータが俺の方を向いて両手を合わせた。
実は潰れたコンビニに出るのは蛍ではなく幽霊だと言う。
幽霊だと正直に話すと俺が笑って取り合わないだろうから嘘をついたらしい。
笑うだろ?
ばーか、ガキの頃からつるんでるお前を笑うもんか。要は肝試しだろ。なんだか面白そうな話じゃねぇか。
コータは安堵の息をつくと合わせた両手を下ろし前へ向き直ると今日の心霊スポットについて話しだす。
なんでも、コンビニにハンドル操作を誤ったダンプが突っ込んでその場にいた人が巻き込まれて亡くなったらしく火の玉が見えたり、人の声が聞こえたりするらしいとなかなかの内容だった。
馬鹿話をしたりして盛り上がっていると目的のコンビニに到着した。
県道沿いだが夜半も過ぎるとぐっと交通量は減る。
コンビニはもちろん灯りもなく、車のエンジンを切るとヘッドライトが消え、俺たち2人は暗い闇の中に包まれる。
車を降りコンビニの正面に立つ。
一見、普通に見えるが左手奥の壁が崩れ、ガラスと瓦礫の残骸が事故の凄まじさを物語っていた。
おい、何してんだ。私有地だぞ。
はい!
俺たちが瓦礫のそばまでやってきてコンビニの中を覗いていると横の暗がりから声がした。
飛び上がるほど驚きながら返事をし、暗がりに目を凝らす。
コンビニの左手のいちばん奥、ゴミ箱がある辺りにぼんやり人影が見える。
すみません、すぐ出ます。
声の様子から中年の男性とわかった。
関係者なのか、少し怒気を孕んだ声だったので俺たちは慌てて出ようとした。
すまない、驚かせるつもりはなかったんだ。
中年の男性らしき人影は何かを探しているのか低い姿勢で暗がりをうろうろしている。
何か探してるんですか?
俺たちは見かねて声をかける。
あぁ、失くしものをしてね…。
人影は低い姿勢から立ち上がると胸ポケット辺りを探り出す。
探し物、手伝いましょうか?
手伝ってくれるかい?
で、何を探してるんですか?
あぁ…。
人影は胸ポケットから何かを取り出す。
カチッとライターの音がして人影の顔が明るくなった。
顔、半分失くしたんだ。
この辺に落ちてるはずなんだけど…。
煙草を咥える中年男の顔は左半分しかなかった。
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