ちかちゃん

ちかちゃん、いい子でお留守番しててね


朝起きたら、お姉ちゃんが黄色い帽子と鞄を下げてパパとお出かけしてるところだった。

昨日の夜、明日からようちえんという場所に行くのって嬉しそうに話してくれていたことを思い出す。

今までずっと一緒だったお姉ちゃんと少しの間だけでも離れ離れになるのが何だか寂しくてあたしはぼんやり天井を見上げる。

いってらっしゃい

お母さんは2人を玄関で見送ると掃除機をかけ始めた。

掃除機の音が嫌いなので、耳を塞ごうと体を捩っていたらカーテン越しに青く高い空が見えた。

あぁ、こんなに天気がいい日はまたお姉ちゃんと公園でおままごとがしたいな。

お姉ちゃんはいつもママであたしは赤ちゃん、お姉ちゃんは葉っぱのお魚と泥団子のハンバーグが得意料理なんだ。


お母さんが掃除機をかけながらあたしに話しかける。

ちよちゃんが幼稚園に行ってる間に…

なに?お母さん聞こえないんだけど

お母さんは掃除機の手を止めあたしを抱えると部屋から連れ出した。

あたしは抵抗しようとするけどお母さんは怖い顔のままバスルームへあたしを連れてきた。

お母さん、やだよ。怖い…。

あたしが何もできずにいるとお母さんが突然水の中へぎゅうぎゅうと私を押し付ける。

苦しいよ、お姉ちゃん、助けて…。

お母さんがあたしを乱暴に扱うから目玉とお腹からワタが少し飛び出し、水はたちまちどす黒く濁った。

お母さんは水を含んで重くなったあたしを引き上げ上機嫌でベランダへ無造作にぶらさげた。


お母さん、いつも乱暴なんだから。嫌い!

あたしは半分飛び出した目玉で掃除機をかけるお母さんを見つめながら体を捩って物干し竿から飛び降り、濡れて少し重くなった体を引きずるようにリビングへと戻る。

お母さんはあたしに気づくことなく掃除を終えリビングへ戻ってきた。

あら、濡れてる…。

水の絞り方がたりなかったかしら?

あたしが歩いた場所に水がこぼれているのを見つけ雑巾で拭き取りながらお母さんはあたしがいないことに気づく。

まさか、また落ちた?

ベランダに出るとお母さんは爪先立ちで手すりから乗り出しはるか下を覗き込む。

いまだっ!

クーラーの室外機の陰から出てあたしはお母さんの足元から這い上がる。

ふくらはぎをよじ登りスカートにぶら下がって腰の上に飛び乗ると頭を下にしたお母さんが首だけあたしの方へ向けたので思いっきり怖い顔をしてやった。

お母さんの顔は真っ白になってそのままバランスを崩して落ちていった。

あぁ〜あ、落ちちゃった。

お母さんがいつも乱暴にするから今日は仕返しよ。

前にお母さんがあたしを落としたとき、結構痛かったんだから。お母さんも目玉が飛び出せばいいわ。

それより、お姉ちゃんが帰ってくるまでに体、乾くかな。

あたしはベランダの室外機の上に登ると大きく伸びをしていつもの姿勢に戻った。

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