かえりみち
春も終わり梅雨前の蒸し暑さが残る夕刻、私は急ぎ帰ろうとしていた。
友人とのおしゃべりに夢中になり随分と陽が傾いている。
陽が落ちる前に帰らないと。
母は優しく滅多な事では叱らないのだが、今日はいつもよりずいぶんと遅い。
私は叱られることよりも心配をかけている方が気になっていた。
母とはかえりみちについての約束があり、遅くなっても必ず決まった道順で帰るよう噛んで含めるように言われていた。
しかし、まもなく陽が落ちる。
私は近道に母との約束で通ってはいけない道を通ることにした。
その道は大通りからひとつ外れた住宅街の中にある。薄暗い場所があるわけでもなくただ道に沿って家が並んでいるだけでこれといって変わった様子などなかった。
ここを抜ければあと少しで帰り着くと少しほっとしながら進んでいくと不意に塀の陰から知らないおじさんが現れ薄い笑みを浮かべ私に近寄ってくる。
母が通ってはいけないと言ってたのはこの事なのかと声も出せずに震えてると私の足元の影がするするとおじさんに向かって伸びた。
不意に後ろから目隠しをされ何もできずに震えていたら、ぐえっと蛙が鳴くような声と水風船が潰れるような音がした。
遅いじゃないの心配したわよ
振り返ると目隠しの主は母だった。
お母さん…
大丈夫、あなたは悪くないわ
でもこれからはお母さんとの約束は守ってね必ずよ
母がしっかりと私の手を握り何事もなく笑うので私は振り返らず小さく頷いた。
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