第8話 閑話・1
No7
閑話・1
『執行者』と名乗る青年と金髪美女は束の間の休息を過ごしていた。
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あるマンションの一室のベッドで青年は目を覚ます。
二十代前半に見える見た目で顔立ちはそれなりに整っている。街中の女性に声をかけて誘えば十人中の半数ぐらいは誘いに乗ってくれる....かもしれない。
体型は細身でありながらも引き締まった体つきをしていて日々のトレーニングをしているのは想像に難くない。
青年はその広いベッドの隣を見るがそこには誰も居なかった。
青年の記憶が正しければ昨夜はある一人の女性と一緒に寝たはずだった。
「....また、仕事かな?」
青年はそう小さく独り言を呟くとベッドのから抜け出し、上半身裸だった為に白いシャツを手にとり着ると寝室の扉を開けた。
すると、香ばしい匂いが鼻腔をくすぐった。
「おっ? ジュディスが作ってるのかな?」
青年は顔に笑みを浮かべると、その匂いを辿るように足を進めた。
リビングには陽の光が差し込み、どこかの音楽家が作曲した音楽が奏でられている。そして、その音楽に合わせて鼻歌混じりに一人の女性がキッチンで料理をしていた。
その女性が作る料理は、簡単なサンドイッチとカリカリに焼かれたベーコンにスクランブルエッグ。それと、一口サイズに切られた野菜が入ったコンソメスープだ。
その女性は、艶やかな金髪をリズミカルに揺らしながら鼻歌を交えながら手早くフライパンに並べてあるベーコンに香辛料を振りかけ味付けをしながら焼いている。
ジュウッ--ジュゥウ
香ばしい匂いと音がキッチンとリビング空間に広がっていく。
さらに、火口の一つには湯気を出している鍋からはコンソメスープの匂いも広がり食欲を掻き立てる。
そんな匂いにつられてやって来たのは昨夜を共に過ごした青年だった。
「やぁ、ジュディス。おはよう。朝から良い匂いだねっ」
「朝にしては少し遅い時間よ。それと、わたしが料理をしてるのだから当然よ」
「ハハ、確かに。ジュディスは料理が上手だからねっ! 今から食べる料理が楽しみだよ」
「あら? 誰も貴方の分があるとは言ってないわよ? 腹ペコ狼さん」
「えっ!? そんな事ってあるのっ? こんなに良い匂いをしてる料理を食べれないの? しかも、僕だけ?」
「なわけないでしょ。ちょっとしたモーニングジョークよ。すぐに出来るからテーブルに運んで。それと、コーヒーと紅茶どっちにするの?」
「コーヒーでよろしく」
そんな質の悪い冗談を交えながら少し遅い朝食をリビングテーブルに並べ、ジュディスと青年は食事をしていった。
朝食を食べ終わった青年は、自室へと戻り自分専用の認識コードをAR拡張インターフェースに入力して情報を開示する。
ARとは実際に存在する風景にバーチャルの視覚情報を重ねて自覚かすることで、目の前にある空間を仮想的に拡張するというものだ。そして、それを視覚する為の視覚の網膜手術はすでに青年はしている。
さらに、バーチャルインターフェースを操作するための触覚神経の手術にネットワークシステムに介入する為のマイクロチマシンを脳内の一部に埋め込む手術はすでにしてあった。
この世界では青年のように脳内にマイクロマシンを埋め込むことは当たり前であり、科学技術もそれに応じて一躍発展している。
「んー。特に緊急を要するに案件は無しだね。なら、今日も休みか。まぁ、平和が一番だね」
「仕事は無いわよ」
青年はいつの間に自室の扉を背にして声をかけてきたジュディスに振り返った。
「ジュディス.....はぁ....。出来れば気配を消して部屋に入るのはやめてくれるかな? いくら僕でも『過ち』を犯さないとは断言できないよ?」
「貴方に『過ち』を犯させるほどわたしは弱くないわよ」
そう言ってジュディスは肩をすくめながら言った。
「そうだね。ジュディスはなかなかに強いからね。そこら辺の男じゃ束になっても叶わないよね」
「その言葉は誉め言葉として受け取っておくわ。それより、天気も良いし外に出掛けましょ。わたしは着替えてくるから貴方も着替えといてね」
ジュディスは言ってから青年の部屋を出ていった。
「相変わらずな行動力だよね....さっ、ジュディスを怒らせないように着替えちゃうかな」
青年はそう言って寝室へと向かい、ドレッサーの中から適当な服を選んで手早く身支度を整えた。
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ジュディスは、グレー色のボタンシャツに黒の膝下丈のスカート、黒のハーフブーツといったラフな服を見に纏っている。
「うん。さすがジュディスだね。良く似合ってるよ」
「貴方こそ似合ってるわよ。わたしの隣を歩くには及第点だけどね」
青年は、グレーのシャツに黒のパンツスタイル、ブラウン色の革靴とオーソドックスな服装だ。
「ありがとう。落第点じゃなくて嬉しいよ。それで、どこに買い物に行くの?」
「別に買い物じゃなくてもいいのだけど....まぁ、せっかくだし買い物もしましょうか」
二人はマンションの地下駐車場に停めてある車に乗り込むと、自動運転モードに設定し近くの繁華街へと向かった。
この時代では、自動運転モードが定着し自らの操作で車を運転することはほぼなくなっている。
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