第2話

頭が痛い…

身体が思うように動かず、精神も蝕まれている。

ああ…生きるのが辛い…

何故だ…何故こんなにも…

「退院明けに、徹夜でゲームやってるからでしょ!」

「いでっ」

叩かれた。いや、刺された。

「お前、なにを刺した」

「綿棒」

「謝れ今すぐに綿棒に謝れ」

「おだまり」

「ひだまり」

「あら、徹夜明けのその虚な目をひだまりに晒して目を元気にしたいと。そういうことね?」

さらっとサイコパス気味の発言をするこいつは、俺の幼なじみであり同級生の佐咲雪羽。

栗色のショートヘアが特徴のクラス1の人気者であり、クラス1の陰キャの俺を更生させようとする、厄介者だ。

「せっかく心配してあげたのに退院報告もしないなんて、恩知らずですねぇ海斗くんは」

「お前が勝手にやったことだろ。ってかなんでいつも勝手に部屋にくるんだよ!」

「えっ、だってそれは…その…海斗くんが…」

なんかちょっと甘い雰囲気になっているが俺は騙されない。今まで何度期待して後悔したことか…

「私の朝ごはん食べてくれないと、昼ごはん、奢ってくれないでしょ?」

案の定こうだった。

「お前なぁ…ただでさえ金がないってのに、昼飯なんて奢れるわけないだろ?」

「財布に3万入ってたのに?」

「あれは課金用だ」

「ケチだなぁ。海くんあれでしょ。借りた物返すとき『気持ちだけでも受け取ってくれ!』とかいって物返さない人でしょ」

「んなこと雪羽にしかしねぇよ。というか、こんなことしてる暇はねぇんだ。悪いが俺は出かける」

「どこいくの?安静にしてなよ」

「安静になんて今更だ。本屋に行くだけだよ」

「ふーん。じゃあたしも行く」

「お前は来ないほうがいい」

「なんで?えっちぃ本でも買うの?」

「そうだと言ったら?」

「クラスのみんなに言いふらす」

「お前が言ったら嘘でも信じるからやめてください」

「ま、あたしも家の手伝いあるし、行かないけどね」

「あっ、さいですか」


「いらっしゃいませ、お兄ちゃん」

「その呼び方すると他の客に敵意向けられるんでやめて下さい」

本屋に来ると、小柄な白髪の店員が声をかけてきた。オートマタを量産できるほど発展したSAだが、こうして接客は人間でやりたい、という店も少なくなく、ここもそのひとつだ。そして白髪の店員は椎名紬。高校の一個下の後輩であり、中学の時の吹奏楽部の後輩でもある。見た目や喋り方のクールさが、お兄ちゃん欲(そんなものがあるのか知らんが)を沸き立たせる、いかにも妹ポジみたいな存在だ。だが、本人曰く、じつは姉妹の中で一番上らしい。

「今日は遙華先生の新刊発売日…ちゃんと把握されているんですね、先輩」

むしろなんできみが把握しているのか気になったが別に聞かなくていいだろう。

遙華先生の本を取り、レジに向かう。

「どうぞ、300円です」

「あの…椎名さん?売値より、半分以上安いんですけど…」

「先輩の顔を見れれば500円払ったことになるので」

嬉しいけど500円の価値なのか…

「そうは行かないって。今は売り手と買い手。仕事に私情は挟まない。だろ?」

「むぅ、そうでした。では1000円になります」

「なんで増えたの!?」

あれなんか拗ねてない?なんで?

1000円払ったら普通にお釣りをくれたので、

それでよしとしておこう…


「また新しいイベントが追加されたんだ。とっとと帰ってやらないと!」

そう言って少し急ぎ足で帰る。すると、

「きゃあああああ!」

横断歩道の向こう側で悲鳴が聞こえた。何かと思えば、近所の長岡のおばちゃんが、何かから逃げている。

「あれは…家事用オートマタ!?」

暴走したというのか?だが、そんな事故、今まで一度もなかったはずだ。何故今更…

「にゃ〜お」

鳴き声に気付き、足元をみると、先日助けた子猫がいた。しかし、前のように無邪気に暴れるのではなく、まるでなにかを伝えるかのように見上げてきた。

「な、なんだよ…」

俺にあれを止めろというのか?無茶だ。


ーそれに、やったところで評価されない。

今までだってそうだった。なにをするにしても評価なんてされない。一生懸命楽器を吹いても感性が違うと切り捨てられた。オタクの奴らに思想を合わせてやってもお前にはわかるまいとただの独占欲で突き放された。

告白しても覚えてもらっていなかった…


前回が良かっただけだ。たまたま居合わせてたまたま貴族の娘を救っただけ。

俺なんかがなんかやったって…


「おいお前!しっかりしろ!

なにぼーっとしてんだ!後ろ!後ろを見ろ!」

「なんだ?」

気づけば俺は歩き出して、オートマタに向かっていたらしい。トラックが、来ていた。


……浮いてる?

五感は視覚以外機能していないような感覚だった。長岡のおばちゃんを襲ったオートマタがトラックによって粉砕されている光景が目に映る。

…撥ねられた?

そのまま意識を失った。

最後に猫が呆れたように立ち去るのが見えた気がした…


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どうも、プロローグでまた会う日にと言っておいてその日のうちに2話までかきましたクロです。


2話は少し長いです。なにせ新キャラが2人、

でますからね。


このシリーズは早めに完結させ、新シリーズか続編を出す予定でいます。なんで一話一話がだんだん長くなっていくと思います。


プロローグや1話では見られなかった主人公の人間関係や過去、SAの技術力を描写したつもりですので、伝わっていただければ幸いです。


次回から話は動き出します。

さぁ演者はそろった。劇の始まり、

カーテンコールの時間だ!!

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