第21話

「あんたがアナスタシアの奥さんか?」

「そ、そうだ」

「初対面がこんなことになるとは思いもしなかったが、いつかあんたのことはぶん殴ってやりてぇと思ったんだ。彼女がどれ程苦しい思いしてんのかあんたわかってんのか?」

胸倉を掴んだまま男をにらみ続けるダイアンさん。こんなに怒っているダイアンさんを見たのは初めてかもしれない。

「な、何者だあんた!」

「自分から名乗ることもできねぇ男のために俺から名乗ってやろう。俺はアナスタシアの幼馴染のダイアンだ。てめぇが彼女をぞんざいに扱っていることはよく知っている。こんなに美しい女性を嫁にもらっておきながら妾を作り、夫なのにもかかわらず大した金を彼女に与えない。おまけに家では物を投げ付け彼女を痛めつける。彼女があんたが与えたなけなしの小遣いを貯めて化粧や服を買い、おまけに体を壊すような薬まで飲んでいることなんてあんたは知らないんだろう?人をごみのように扱う成金め、いい加減にしろ!」

ダイアンさんは男を地面に投げつけた。男はダイアンさんの態度に怖気づき、地面に尻餅をついたまま身震いしていた。

「わ、分かった、すまなかった。もう彼女には何もしない」

「そういうことを言ってんじゃねぇ、彼女がこれまでどんな思いをしてきたのかわかってんのかって聞いてんだ!」

そう言ってダイアンさんが殴りかかろうとしたとき、アナスタシアさんが二人の間に割り込んできた。

「もうやめてください!」

「アナスタシア、なにすんだ」

「もういいんです、ダイアンさん。お気持ちだけで十分なんです。私の家庭のことですから」

「でもこいつはお前にひどい仕打ちをしているんだぞ?もうこんな男と一緒にいるのはやめたほうがいい。また新しくやり直せばいいじゃないか」

「いいんです、本当にいいんです」

そう言って彼女は男に寄り添い、男の身体を心配するように背中をそっと撫でた。

そのもの悲しげな姿を見つめながらダイアンさんは不甲斐なさそうに立ちすくんでいた。

「どうしてなんだ、アナスタシア。どうしてそこまで自分を傷つけるんだ」

彼女は何も言わなかった。沈黙することが彼女のできる精一杯だと言わんばかりに。

そして、彼女は男を支えながら、俯いたままゆっくりとその場を離れていった。彼女の表情に笑みは微塵も残ってなかった。

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