第20話

「あ、お客さんかな?」

俺がそう言うとその声に気付いたのか、男は俺らの方へ向かってきた。

そしてその姿を見るや否や、アナスタシアさんはその場でピタリと立ち止まった。

「お知り合いですか?」

「ええ、少々お待ち頂いてもよろしいですか?」

俺が頷くと彼女は荷物を置い、神妙な面持ちで男のほうへ向かっていった。

二人が対面すると、男は彼女を睨みながらこう言った。

「どういうことだねこれは?」

どうやら随分と怒っているようだ。俺は少々心配しながらも敢えて口出しせずに行く末を見守ることにした。

「申し訳ありません、買い物をしていた所重い物を持っている方を見かけたものですから」

「そうじゃねぇ!!薬の話だ!」

男が怒鳴ると、彼女はハッとして男に頭を下げた。

「失礼いたしました」

「ここで何を買っているかは全て愛人から聞いた。前々から毎年お前がどこかへ買い物へ行っていることはわかってはいたが、こんな店で美容の薬を買っていたとはな。散々俺の金を無駄なものに使うなと言っておきながらこのざまとは」

「申し訳ございません、あなたの側室として努力していたつもりなのですが」

「ふざけるな!てめぇの代わりなんざいくらでもいるんだ!」

男は彼女に怒鳴り散らかした後、彼女の頬を叩いた。その勢いで彼女は地面に倒れた伏した。

「ちょっと何やってるんですか!」

俺は争いを止めようと間に入り込もうとした。

「うるせぇ、関係ねぇ奴が入ってくんな!これは俺の家の話だ。こいつが俺が折角与えた金を要らねぇ薬代に使ってたんだからな。当然の報いだ」

「だからってそんな叩くほどじゃ」

「ああん?てめぇに俺の家の何がわかるってんだよ。なんも知らん奴は引っ込んでろ」

俺は男の声に押し負け、何も言うことができなかった。この争いを止めるために何かするべきではある、でも機転の利いた言葉が思いつかなかった。くそ、どうすれば。

すると、薬草店のドアが開き、中からダイアンさんが出てきた。

「おいあんた」

「ああん、なんだてめぇ?うぐっ」

ダイアンさんは鬼のような形相で男の胸倉を掴んだ。

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