第18話

「すみません、うちの雛が暴れちゃって」

「いえいえ、大丈夫です。とっても可愛いですね」

その女性はそう言って雛を一匹手に乗せにこやかに頭を撫でた。そのほほえみの美しさは小鳥に負けじとも劣らず、街行く人々の目線を奪っていた。

「そうですよね、こいつら随分元気で。えっと、先程ダイアンさんとお話しされていた方ですよね?」

俺はさっきまでの自分の思考を忘れ、何とか笑顔を作りながら尋ねた。

「ええ、そうです。先ほどはお世話になりました、アナスタシアと申します。受付にいらっしゃった方ですよね?」

彼女は丁寧にお辞儀をして、俺に問い返した。

「はい、ユウサクと言います。それにしても、雛がすごいなついちゃってますね」

「ふふふ、元気でいいですね」

今更被験体とは言えそうにない。

「ユウサク、ハァハァ、ここに、ハァ、いたのね、、、」

俺が彼女と談話していると重い荷物を抱えたメリアがこちらに向かってきた。気まずかった所にナイスタイミングだ。

「メリア、大丈夫か重かっただろ」

「かごの雛がいなくなったから何とかね。ちょっと荷物置かせて。あ、ごめんなさい、鳥たちが服を傷つけてしまって」

「いいんですよ、中古で安く買ったものですから」

俺はその言葉に少し驚いた。艶やかだが、どうやら意外と倹約な方のようだ。

「そうなんですね、てっきり俺も高いやつかと思っちゃいました」

「あんまり高いの買うと夫に怒られちゃいますから」

「大変ですね、服も自由に買わせてくれないなんて」

俺がそう言うと彼女は微笑みを止めた。

「昔は許してくれていたんですけど、この頃はなかなか厳しくて。怒られないように何とか安くて綺麗なのを買っているんです。あの人も自分のことに一杯一杯ですから。ああ、ごめんなさい、あなた達にこんなことを言っても何にもならないのに。それより小鳥を籠に入れるの手伝いますね」

彼女はそう言うと再び表情を戻し、雛が籠の方に行くよう手で仕向けた。

「ありがとうございます、俺らもやります」

金持ちそうに見えたが、話から察するに実はそうでもないのだろうか。だとしたら特別調合の金はいったいどこから来ているんだろう。何だか不思議な方だ。

まあ兎にも角にも、なんとか彼女のお陰で俺らは雛の回収に成功した。

「何とか入ってくれましたね、良かったです」

「すみません協力頂いちゃって。それじゃあ俺らは行きますね」

「あ、その籠凄い重そうですしお持ちしましょうか?薬草店まで遠いでしょうし」

「いやいや、そこまでしてもらわなくて大丈夫ですよ」

「遠慮しないでください。私もどうせこれから薬を取りに行きますし、ついでですから。雛も暴れるといけませんし」

結局俺は彼女の優しさに甘んじて、籠を預けることにした。

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