第17話

メリアのデレに惹かれて二つ返事で引き受けたものの、実際お使いの量は尋常ではなかった。大蛇の尻尾にグリフォンの雛十匹等々、とてもか弱いメリアには持って行けそうもない代物ばかりだ。一体何にこれを使うのかもよくわからないまま、俺はメモの通りにメリアと店を回った。

「結構重いでしょ?」

「ああ、想像のしてたのより何倍も重い」

「実験で使う物なんだけど、ちょうど切らしてたみたいで」

「なるほどな。すまん、ちょっとあそこのベンチで休ませてくれ」

俺は荷物地面に置き、道のそばに置いてあるベンチに腰掛けた。こりゃ帰るまでにだいぶかかりそうだ。

「ごめんね、私だけだと結構きつそうだったから」

「いや、そりゃこの量はきついよ。頼んで正解だ」

「うん、ありがとう」

「そういやメリアって、外出るのか?いつも実験頑張ってるイメージがあったからさ」

「あんま行かないかな、大体お使いもパパが行ってるし。今日ちょっと忙しそうだったから私が行くことになったけど」

例の薬の調合でってことか。

「そうだよな、てかセージとかが行くのが適任だろ」

「私がじゃんけんで負けたから」

いや、あいつが率先していけよ。

「あいつもめんどくさがりだな。この世は平等であるべきだ、とかクサいこと言って、じゃんけん押し付けたんだろ?」

「ふふ、まあそんな感じ」

俺の話に微笑むメリア。考えてみたらこんな風に外で話すのも珍しいし、お使いも悪くないかもしれん。

俺は横目メリアの顔をじっと見つめた。黒くてサラサラな髪に、メガネの整った顔立ち。こうして近くでまじまじと見たことはなかったが、やっぱり近くで見てもメリアは綺麗だ。そしてやっぱり昔好きだったあの子とそっくりだ。

「何を見ているの?」

「え、ああ、いやただぼうっとしてただけだ、すまん。そういえば、研究進んでるか?」

メリアに見つかり、俺は急いで話を変えた。

「うーん、あんまりかな」

「そっか。まあ、研究のことばっか考えない方がいいだろうし、こういうお使いも気分転換になるだろ」

「そうね、でもまた家帰ってやんないと。時間は限りあるものだから」

本当に真面目だなぁ。俺なんて受験期のころでさえ、遊んでる時間の方が勉強時間より多くなってた気がするのに。

「すごいな、メリアは。まあでもメリアは本読んでる姿似合うしな」

「どういう意味それ?」

メリアが俺を睨んだ。

「いや、馬鹿にしてるとかそういうのじゃないよ。その、だからさ、図書館の雰囲気と合ってる女子っているじゃん?教養ある人っていいなってことだよ」

「そう、まあ悪く捉えないでおくわ」

何とか弁明に成功したようだ。俺は本心からメリアの持つ知性に惹かれているんだが、なかなか面と向かってそれをストレートには言えず、結局余計なこと言ったような感じになってしまった。情けない。

それにしても、自分で言っといてなんだが、知性の美、これって意外と興味深いことかもしれないな。メリアの美しさは容貌だけじゃなくその聡明さからも由来するってことだ。さっきまでメリアの顔を見ていたけど、実は魅力はそこだけじゃないんだな。常に研究にひたむきになっているその横顔を見て綺麗だなと思うことはあったが、その美しさがどこから来るのかなんて考えたこともなかった。

そしてそうやって考えると、あのクラーケンの眼が尚更バカバカしくもなってくる。薬で手に入れる美しさなんてきっと偽りだ。形だけ取り繕ろっても本当の美しさが人間の中身から来る以上本当に美しくはならない。きっとあの女性もそのことを理解せずに自分の欲望に駆られるままあの薬を買っただろう。命まで犠牲にして。

「さてと、そろそろ行くか。よいっしょ、っておわ、やべ!」

俺が箱を持ち上げると、箱の中からグリフォンの雛が飛び出してしまった。

「悪いメリア、ちょっと荷物頼む」

俺は逃がすまいと荷物をメリアに任せて何とか追いかけるも、群れを成してすばしっこく逃げ回る雛達。被験体のくせにどうも元気だ。

「くそ、あいつらどこいった?ん、あれは」

俺は服屋前にいたある女性にたかる雛達の光景が目に入った。

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