第11話
俺がそう言うと男は黙って俯き、少し考えた後にこう言った。
「とっても明るくて、心強い方でした。友達が少ない僕にペアになってほしいと声を掛けてくれて、ペアを組んでからも僕の戦いぶりをいつもほめてくれていたんです。周りをよく見ているとか、剣筋がいつもいい、とか。本当は頼りない僕をそうやってほめてくれて本当に嬉しかった。まあ、結果的に僕はその恩を返すことができなかったんですがね」
「ジョージさん、それはきっと間違っていますよ」
「え?」
「ジョージさんのことは少し調べました。あなたは、隣町の剣術大会で2回優勝している、しかも共にシングル戦、そうですよね?それほどの剣術をお持ちの方が未熟だなんてそんなはずありませんよ。恋人さんなら僕よりもあなたが本当に腕の良い戦士だということをよくわかっているはずです。あなたは自分が思っている以上強い方です。それもきっと想像の何十倍もです。そして恋人さんはいつもあなたにそれをわかってほしかったに違いない。だからいつもあなたのことをほめていたんじゃないですか?僕らは薬草店ですからこの薬は勿論お渡しします。ですが、もしこれを飲んだら、恋人さんがあなたにかけてくれた本心からの褒め言葉、励ましも全て忘れてしまう。あなたが一人の戦士としていられるのは恋人の存在があったからともいえるはずです。薬を飲めばそのことをも忘れてしまうということを心にとどめておいて下さい」
「ユウサクさん、、、」
男は再び俯いた。
少し俺も強く言い過ぎてしまったかもしれない、でもきっとこの男はいつも恋人が励ましてくれたことをきっと忘れている。
沈黙の後、男はわずかに口を開いてこう呟いた。
「その通りです。アレキサンダー、本当に僕何やってんだろう」
「アレキサンダー?」
「ああ、僕のかつての恋人の名前です。お恥ずかしながら、僕同性愛者なんですよ」
「え!?」
俺は動転し、目を見開いた。だがそんな素振りを見せては失礼だと分かっていた俺は、直ぐに目線を逸らし、心を落ち着かせた。
「そうだったんですね、すみません驚いてしまって」
目線彼に戻し、申し訳なさそうに俺は返答した。
「いえいえ、驚くのも無理ありませんよ。でも、あなたの言う通り、僕はあの人の言葉の意味を理解していませんでした。昔から同性愛者だということで友達がいなくて、いつも一人で剣術を磨いていたんです。剣だけが友達でした。でも、誰も僕のことを認めてくれないから、あの頃はどこか自信がなかったように思えます。そんな時、初めて会った同じ同性愛者のアレキサンダーから剣術を褒められて、一緒にペアを組もうと言われたんです。先程言ったように彼は僕のことをすごくほめてくれた。だからこそ剣術大会にも出れたし、狩りに出ようと思えた。僕を作り上げたのは紛れもなくあの人なのに、それを忘れようとしていたんですね。すみません、また涙が」
俺はハンカチを渡しながら、彼を見つめた。俺はこの男の剣への愛をよくわかっていないまま彼を諭そうとしたんだな。俺も本当は何もわかっちゃいなかった。
俺が黙っていると、再び彼は話し始めた。
「あの人は死ぬ間際、お前なら一人でも大丈夫だと言って僕をドラゴンから逃がしてくれました。死ぬ間際まで僕を鼓舞していたのかもしれませんね。きっと僕が戦うのをやめたら、それこそあの人に申し訳ない。僕は本当は未熟なんかじゃない、なんだかまた戦える気がしてきました。この薬はやっぱり要りません、お金も相談した費用として受け取ってください」
いやいや、それにしてはあまりに高すぎる。
「そんな、受け取れないですよ、お返しします」
「いや、本当にいいんです。僕はあなたとあえて本当に良かった。なんだかあなたはアレキサンダーとよく似ている。本当にいい経験でした」
そう言って男は元の明るい笑顔で店を去った。
これが俺の初めての特別薬草調合となった。薬は渡せなかったが、きっと望みはかなえられたし、まあいいのかもしれない。願いをかなえるって仕事は本当に難しいんだな。
あの男が少しでも過去を明るく捉えられるようになっていれば嬉しい。露店のおじいさんの言う通り、自分の過去を良い方向に認識できるようになるのは、他人に自分を認められてからだ。
隣を見ると、昼飯を終えて帰ってきたペリーヌさんが目を輝かせていた。
「最高の絵面だったわ、ご飯三倍はいけちゃう」
流石は生粋の腐女子だ。
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