第10話

あの男が来てから一週間が経った。前に来た時間は確か昼だったし、今はちょうど昼時だから恐らくそろそろ来るだろう。

気分を落ち着かせるために俺は手遊び代わりにメリアから渡された薬の瓶を握りしめたり傾けたりしながら、男が来るのをカウンターで待っていた。結局メリアは例の薬の開発に成功したのだ。内心成功しないことを少し期待してはいたが、まあ出来てしまったのならお客さんに渡すしかあるまい。そんな訳で俺も俺とて腹をくくってこのカウンターにいるのである。

「ユウくん休憩しなくていいの?」

「今日は大丈夫です。お客さんに薬渡さなきゃいけないんで」

そう言って俺はペリーヌさんに瓶を見せた。

「ああ、例のやつね。私お昼終わったから来たら代わりに渡しておいてもいいけど?」

「いや、大丈夫です。これ渡すときにお客さんに言わなきゃいけないこととかあるんで」

「そっか、了解。気張り過ぎないようにね、私達ただの薬草店だから」

そう言ってペリーヌさんは俺の背中をポンとたたいた。きっとこの励ましも経験に基づいてのことだろう。温かい。

そうやって俺がペリーヌさんに元気づけられたちょうどその時、例のお客さんが店にやってきた。前よりもなんだか不安そうな顔をしているように見える。俺はいつも通り挨拶して、お客さんの近くの椅子に腰かけた。

「お久しぶりです、ジョージさん。こちらがお薬になります」

「ありがとうございます。すごいや、本当にできたんですね」

男はそう言ってため息をついた。一見安堵したようにも見えるが、どこかもの悲しそうのも見える。

「詳しいことはこちらの紙にも書いてありますが、消したい記憶を思い浮かべて一日一回飲んで頂きます。1週間飲めば段々とその記憶が消えていきますので」

「なるほど、分かりました」

そうやって男は机に置かれた瓶と紙をゆっくりと手に取り、それらをじっと見つめた。いざとなるとやはり、どこか迷いがあるだろう。

俺はその様子を見ていたたまれなくなり、思わず口を開いた。

「あの、ジョージさん」

「何でしょうか?」

「プライベートな質問で申し訳ないのですが、もしよければ前の恋人さんについてもう少しお話し伺ってもよろしいでしょうか?その方がどのような方だったのか、それをお聞きしたいんです」

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