第7話

「優しそうな人だったけど、ちょいネガティブな感じだったよ。なんでも恋人との思い出を忘れたいんだとか」

「恋人を戦いで亡くして、戦意喪失ねぇ。その記憶が生活を邪魔してるっていうの?」

「そんな感じ。まあ言わんとしてることは分かるけど好きだった人との思い出を消したいだなんて、ちょっと考え過ぎじゃないかなと思ってたんだよ」

「そうね、なんか勿体ない気がするわ」

メリアもあまり賛同してはいないようだ。それもそのはず、特別薬草調合はこの店でしかできない職人芸みたいなもので、それ相応の手間がかかる。メリアも自分が叶えたくないお願いに手を焼くのはごめんだろう。

「メリアが嫌ならなんとか断ってもいいよ」

それもそれで俺の精神的な負担が増えるんだけど。

「まあいいわ、やるだけやってみる。何でも叶えるのがモットーだしね」

メリアは少しため息をつき、読み終えたカルテを机においた。

「いいのか?」

「だって、どうしても嫌な記憶なんでしょ?カルテを読む限りちょっと深刻そうな感じじゃない。忘れたほうが将来的にいいんだったら忘れたほうがいいわ。それに私たちがわざわざ止めることでもないし」

「まあ、それもそうか。あくまでも相手はお客さんだからな」

俺は意外とあっさりしていたメリアに少し驚いた。

「そうそう。というか逆にユウサクはなんでこんなことに拘泥してるの?忘れたくない昔の思い出でもあるの?」

そう言われて俺はドキッとした。

「え、いやまあ別に、そういうのじゃないけどさ。なんつーかその、ちょっと変だなって思ったんだよ、思い出を忘れたいなんてさ、ははは」

「ふーんそう」

「あ、おれちょっと昼飯食ってくるわ。体壊さないようにな」

俺は作り笑顔のままそそくさと部屋を出ていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る