第6話
結局10分くらい物思いに耽ったのち、俺はメリアにカルテを渡すことに決めた。
奥の部屋へ向かうと、机に向かって調合やら実験やらに明け暮れているメリアの姿が見えた。
「メリア、ちょっといいか?お客さんからのカルテを書き終えたんで渡したいんだ」
「わかった、そこに置いておいて」
どうやらだいぶ忙しいようだ。
「はいよ。昼時ぐらい休憩してもいいんじゃないのか?」
「他の時間は仕事に割かなきゃいけないから、こういう空いている時間を使わないと研究が進まないのよ」
メリアは本当に真面目だ。こういうひたむきに研究を進める姿を見ると、12才で一級薬草士になれたのもまあ納得できる。俺にはとてもできない。
「なるほど、まあ体壊さない程度にな。はい、これ薬草茶。お湯入れ直しただけだからちょい薄いけど」
「ありがとう」
俺は自分で入れたお茶を飲みながら、辺りを見渡した。
実験器具と薬品、それに関する本がずらりと棚に並べられている。メリアはここにある物たちのことはきっとすべて頭の中に記憶されているのだろう。凄まじい情報量だ。
「なあメリア、記憶を消す薬ってあるのか?」
「あるわ、ロートスの実っていう脳に作用して記憶を消す薬草がね。なんでそんなこと聞くの?」
すげぇ、本当にあるとは。やはり異世界は違う。
「あるのか。いや、後でカルテ見ればわかるけどさっき特別薬草調合を頼んだお客さんが、どうしても消したい記憶があるんだって言ってたんだよ。だから、そんなこと本当にできんのかなって思っちゃってさ」
「ふーん、あっそう」
メリアは目線を実験器具に戻し不愛想な感じで話を切り上げた。少し不機嫌そうだ。何か思い当たる節でもあったのだろうか。
「待てよ、記憶を消す薬があるってことは記憶を上書きする薬もあるんじゃないか、暗記〇ンみたいな。もしかしてメリアが薬草士の試験を受けた時もそれを使ったとか?」
するとメリアが目線をこちらに向け、鬼のような形相で俺を睨んだ。冗談のつもりだったのだが、また一言余計なことを言ってしまったみたいだ。
「う、噓だよメリア、冗談だって。そんなシリアスになるなよ」
「なんも面白くない。大体、そういう薬を調合するには知識と経験が必要だし、脳に作用するんだから体にもあんまりよくないの。それにテストとかのために薬を使ってたら、いずれ後悔するにきまってる。自分の努力じゃないんだから」
うわぁ、怒ってる。別にメリアを馬鹿にした訳じゃないんだけどな。
「悪かったよ。俺もそんな薬使うのは間違っていると思ってるよ。メリアのことを疑ってるわけじゃない」
「あっそう、まあいいわ。で、今回のお客さんはどんな感じだったの?」
メリアはそう言ってカルテを手に取った。なんとか落ち着いたようだ。
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