第8話

店を出てきたものの昼飯はなかなか決まらず、昼休みもあまり長くないので、俺は露店でサラマンダーの丸焼き串を買って食べ歩くことにした。城下町といえどかなりの広さがあるし、店の移り変わりが激しいので、1年経っても飽きない風景だ。

メリアに相談をしたはいいものの、結局俺の中の疑問が晴れることはなかった。あの男の言っていることはわからなくもないが、やっぱり記憶は簡単に消していいものじゃあない気がする。

俺はこの異世界に転生する前のことをよく覚えている。友人と共に過ごした毎日。海に行ったり、ゲーセンで遊んだり、バイクに二人乗りして警察から追い掛け回されたり、どれも楽しかったし忘れたくはない。勿論、その中には忘れたいことだって沢山ある。今でも引きずっている思いもある。俺だって転生してこの世界に来ているわけだから、転生前のそんな記憶を忘れても私生活に影響は出ないだろうし、嫌なことは忘れてしまったほうがストレスも無くなる。

でも何だろう、それだけを忘れてしまうなんてことは出来るのかよくわかんないし、忘れたとしてもそれに関係した大事な何かも頭の中から消えてしまうような気がするんだ。きっと記憶っていうのは、パーツではなく複合体だ。あることを忘れたら、それに関連する他の大事なことも忘れてしまうような気がする。それで大事な記憶も消えてしまうのは嫌だ。あの男だって恋人との良い思い出を消すのは心苦しいと言っていた。それでも記憶を消したいと思うほどほど恋人の死が生活を苦しめているというのだろうか。

「しっかし、メリアにばれそうになるとは思わなかったなぁ」

実を言うと、俺はメリアのことが好きだ。勿論、容姿がいいからとかそんな下世話な理由じゃあない(ただ、かわいいのは確かだ)。高校時代好きだった女の子とメリアがそっくりなのだ。可愛らしい見た目も生真面目な中身も。初めて見たときは、一緒に転生してきたんじゃないかとさえ疑った。あの子の名前をメリアに言ったら通じなかったので、一応別人みたいなのだが。

そしてまた、その好きだった子との思い出があるからこそ、またあの男が言っていた「恋人との思い出を忘れたい」という言葉に共感しづらい。もう、昔の恋人に会うことはできないが、メリアを見て何度もあの子の事を思い出す。たしかに、あの男のように好きな人が死んでしまったわけではないから一括りに考えることはできないが、それでも納得がいかない。

「おおいお若いの、ちょっと見てかんかね?この服とか君に似合いそうなんじゃがのう」

そんなふうに俺が記憶消去について考えあぐねていると、そばで露店を開いていたおじいさんが俺に話しかけてきた。

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