スタジオ30 超絶無名の野良アイドルの存在は、都市伝説ではありませんでした

 雨降って地固まる。

 フランクゲームでは争っていたみんな。

 闘いが終わるとサッパリと仲直り。


 さくらとまりこちゃんと俺の3人。

 明菜さんを思いっきり揶揄った。


「いやぁ、まりなさんはバカだし!」

「あの子さんも相当なあほだけど!」

「その上をいったのが、明菜さんでしたね」


 明菜さんも負けてない。

 爆弾を投下してきた。


「そりゃそうですよ。私、あの子の生みの親ですから」

「奇遇です。私も、血のつながりを感じていました」


 俺たちは互いに顔を見合わせずにはいられなかった。

 感動シーンになるはずの母娘の名乗り。

 それが台無しになったんだから。


 それでも気の良いまりなさんや社長ははなしを合わせた。

 そして、青天の霹靂の体で大はしゃぎした。


「分かっちゃうものなのね。誰にもバレないと思ったのに」

「私たち、母娘でしょう。みんなに分からなくても、私には分かる」


「そうよね。普通、分かるものよね」

「うん、ママ!」


 明菜さんとあの子さんの中でのこと。

 気付かなかった俺たちはマヌケみたいになってる。


 いやいやいや。みんなはっきりと気付いていたのに。

 そのことに気付かない2人の方がよほどマヌケでしょう。

 そう思ったが、おくびにも出さない俺たちだった。


 その代わりに、2人には最大限の祝福をした。


 でも、この人は違うんだなぁ。


「ちょっと、それじゃまるで、私たちが……。」


 文句を言いたげなさくら。それを止めたのがまりこちゃん。

 逆だろうって思うけど。


「さくらさんは黙ってて!」


 まりこちゃんはそう言うと明菜さん達に向き直った。

 そして続けた。


「私たち、全然気付かなかったわ。母娘の愛は偉大ね!」


 こうして、俺たちは奇妙な感動に包まれた。




 この日を境に、俺は正式にさくらのホテルで暮らすことになった。

 何故か社長やまりなさん母娘、明菜さん母娘も一緒。

 7人暮らしのはじまりだ。


 そして俺たちは、トップアイドルを目指す。ここ、重要。


 さくらとまりなさん、あの子さんは『ばあじ』として。

 社長と明菜さんとまりこちゃんは『才・然・使』として。


「何で『才・然・使』なんですか?」


 俺が率直な疑問を投げかけると、3人が応えてくれた。


「はい! 何でも買っちゃう天才経営者、社長でーす」

「はーいっ。すっぴん四十路の天然生娘、明菜ですっ!」

「はい。えっと。天使、まりこです。よろしくね、うふっ」


 天才と天然と天使の3人で『才・然・使』らしい。

 3人とも俺の持つ印象とはだいぶ違う。

 というよりは、嘘ばっかだ。

 だが面倒だから、突っ込むのはよそう。

 世間には受け入れられるのかもしれないし。




 それから、さくらとキスをした。1時間。

 さくらは、俺がいない間に山吹って何をするつもりだろう。

 どうせ、ろくなことじゃないだろうけど。


 というのも、俺は我が家へ戻ることになってたから。

 社長と一緒に、久し振りの我が家だ。

 生活用品一式をさくらのホテルに運び込むのが目的。




 我が家の玄関先。

 俺は頭をポリポリかきながら社長とはなした。


「随分と広いのね。さすがは二徹様の内孫様」

「じいちゃん、貧乏だけど人脈だけはすごくって」


 ここは、じいちゃんの家ではない。

 じいちゃんの知り合いが無償で提供してくれた物件だ。

 人脈というのは、資産より大切なのかもって思う。


 社長は腕を組んで何やら考えごとをしはじめた。


「じゃあここは借家なのね。使わないともったいないわ」

「いや。お返しすれば良いことじゃないですか」


「返すのがもったいないでしょう」

「屁理屈」


 社長には、具体的な使い道があるようだ。


「坂本くん。ついてきて」


 そう言って俺を強引に連れ出した。




 着いたのは、都内のとある公園だった。

 社長は、公園の噴水前の広場から芝生へと入っていった。

 この日は満月。

 月が明るくとも、足元は暗くて怖い。

 取り残されたら危険な気がした。

 俺は黙ってついていくしかなかった。


 社長は立ち止まると、おかしなことを言い出した。


「ルールルルッルーッ」


 えっ、何をはじめんの?


「ルールルルッルーッ」


 目が慣れてくると、芝生のほぼ中央にいることが分かった。


「ルールルルッルーッ」


 生暖かい風。周囲の茂みが一斉に揺れた。

 揺れているのは高木でなく、ツツジなどの低木。


「ルールルルッルーッ」


 茂みの揺れは次第に大きくなった。

 そして、そこから人影が出現した。

 その数、40人以上。


 それは、アイドル。超絶無名の野良アイドル達だった。

 野良アイドルというのは、アイドル業界の底辺。

 その存在は都市伝説とも言われていた。


『超絶無名の野良アイドルの存在は、都市伝説ではありませんでした』


 俺は思わず呟いた。


「本当にいたんだ、野良アイドル!」


 それも、こんなにたくさん。

 野良アイドル達は俺のことを警戒しているようだ。

 社長が珍しく笑った。かわいい。

 そして言った。


「お前達の新しいご主人様だ。ご挨拶なさい」


 新しいご主人様って、俺のこと?

 聞いてないけど、そうとしか思えない。


 野良アイドル達は隣同士で互いに顔を見合わせた。

 そのうちに1人が俺の方に歩んできた。

 1人・2人とそれに続いた。


 気が付けば俺の前に行列ができていた。


 まるで、アイドルの握手会のよう。

 違うのは、並んでいるのが野良アイドル。

 その前に俺が独りで立っているということ。


 先頭の子が、さらに1歩前へ出た。

 俺の手を優しく握り、笑顔で言った。


「はじめまして。麻衣です」


 麻衣は、俺に鮮烈な印象を残した。

 ご町内・学校中を探しても、こんなにかわいい子はいない。

 それで底辺扱いされるなんて。

 アイドル業界というものの層の厚さに戦慄した。


 それから交代交代で野良アイドル達が俺と握手をした。


「七瀬です。よろしくお願いします」

「飛鳥」

「祐希と申します。お目にかかれて光栄です」


「こっ、こちらこそ、よろしく」


 俺はそんな風に答えるのが精一杯だった。




 数えれば、総勢42人もの野良アイドルたち。

 この日を境に居候アイドルとして俺の家に住むことになった。

 俺が住むのはさくらの家だけど。


 そして、9つのユニットを編成した。

 その面倒を、俺が見ることになった。


 社長はアイドル業に専念したいのだとか。

 結局は厄介な仕事が俺に押し付けられたってだけのこと。




 このあと、さくらのホテルに戻った。

 そして、2人だけでフランクゲームを楽しんだ。

 俺は、泥のようになった。


======== キ リ ト リ ========


坂本くん家に住んでみたいですよね。


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