スタジオ24 母娘

 まりなさんがはなしをまとめたとはいえ、俺はわだかまっていた。


 社長が実の母親であることを、さくらは知っているのかもしれない。

 そのことを社長は知らないのかもしれない。


 あのときのさくらの反応。

 あれは本当に偶然だったんだろうか。

 もしかしたら、さくらは社長がお母さんだってことを知ってるんじゃ!


 そんな仮説が俺の頭を支配していた。

 確かめるべく、機を窺った。


 もちろん最終的に社長がさくらに親子の名乗りをあげてくれればハッピー。


「山吹さくらの衣装チェンジは2回」

「1時間に1回ってことね。どんな衣装なの」


 今後の活動について、はなしていたとき。

 その機会が訪れた。


「ジャージ・普通の衣装・ウェディングドレスの順よ」

「ウェディングドレスって、ファンに結婚の報告でもするの!」

「それはタブーですよ! アイドルって恋愛禁止じゃないですか」

「そうです。結婚報告なんかもってのほかです」


 『超絶人気アイドルにウェディングドレスを着せたいのには理由がある』

 社長は静かに言った。最近、妙に素直。


「実は、ウェディングドレスのメーカーを買収したの」

「まっ、また会社買ったんですか!」


 1番驚いたのは、まりなさん。さすがは元、経理担当。

 さくらは至って冷静。それっきしのことで動じたりしない。


「世界的なドレスメーカー。買って損はないでしょう」

「得があるとも思えないけど」

「さくらさんのいう通りです。それとも社長、結婚するんですか」


 あの子さん、さすが。普通聞けないだろうけど。


「相手がいれば、いつだってそうするわ。再婚だけど」

「えっ! 社長って結婚歴あるんですか」


 あの子さん、頭なでなでしてあげよう。


「もう20年も前のことよ」

「えっ! お子さんはいないんですか」


 おおっ。あの子さん、コンボ決めたね。

 頭なでなでじゃ足りないぞ。

 おっぱいもみもみしてあげよう。


「3人いるわ。皆、すくすくと育ってるって聞くわ」

「えっ! 社長って、もしかして……。」


 いいぞ、あの子さん。

 そのまま社長がさくらのお母さんってこと、暴いちゃえ。

 社長もさくらも無警戒。

 今、疑惑の目を2人に向ければ、きっとタジタジになるだろう。

 俺は、静かにあの子さんを見守った。

 あとでほっぺたすりすりしてあげることを考えつつ。



「……もしかして、私のお母さんですか」



「はぁ?」


 俺とさくらと社長の3人が「はぁ?」をハモった。

 まりなさんの頭の上は「???」になっていた。


「いや。絶対に違うでしょう! 似てないもの」


 さくらが言った。


 さくらはきっと、母親の愛に飢えている。

 あの子さんに社長を奪われると思ったんだろう。


「そうでしょうか。社長って案外、ドジじゃないですか」


 あの子さんすごい。一言一言が重い。

 半ギレで反論してきたのは、さくらだった。


「何言ってんのよ! 人ん家のママ捕まえて。そんな言い方、許さない」


 さくら、あっさり尻尾を出した。

 でも、俺からは言い辛い。

 社長とは内緒にするってことにしているから。

 それに、他の誰も気付いていないみたい。


「えっ! 違うんですか、社長」

「違うでしょうね」


「そんな。折角巡り合えたと思ったのに……。」

「あの子さん、どういうこと?」


 さくらの問いに、あの子さんは力なく答えた。


「私がアイドルになったのは、生き別れた母を探すためなんです」


 あの子さんにそんな過去があったなんて、俺は知らなかった。


 母親に甘えること。それがあの子さんの夢なんだって。

 あの子さんがときどき俺に甘えるのは、その代償行為なのかも。

 俺は言わずにはいられなかった。


「探そう!」

「えっ?」


 4人の「えっ?」、いただきました。


「探すって言っても、どこをどうやって」

「だから、活躍するんだよ。芸能界で!」


 まりなさん、決して間違ったことは言わなかった。

 俺、あの子さん、さくらの順に相槌をうった。


「でもあのちゃん、半年前までトップに君臨してたんでしょう」

「そうだね」


「それでも誰も名乗り出なかった」

「そうなんです」


「相当活躍しないとムリなんじゃない」

「そうなるわね」


 打つ手なし。そんな雰囲気になった。

 少なくとも、俺たち4人は。


======== キ リ ト リ ========


あの子さんの夢、叶えてあげましょうよ。


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