ステージ18 バカとあほとじみ

「ねぇ。2人とも、教えてほしいことがあるの」


 私はまりなさんとあの子さんに聞いた。

 山吹さくらにとっては、格下の存在。

 とるに足らない2人。


 けど、佐倉菜花にとっては、偉大なる先輩。

 金言を授けてほしい。


「遠慮しないで。なんなりと聞いて!」

「奇遇です。私も、さくら様と話したかったもの」


 ありがたいことに、2人は快諾してくれた。

 けど、いただけないのは、あの子さん。

 佐倉菜花と山吹さくらを同一視している。

 それは、今の私にとっては邪魔な考え。


「あの子さん。私が聞きたいのは、佐倉菜花としてなの」

「はい。それは分かってるわ。でも、2人は同一人物でしょう!」


 違うと言いたい。

 佐倉菜花と山吹さくらでは、性能が違い過ぎる。


「違うと思ってほしい!」

「………………。」


 あの子さんは何か言いたげだったけど、何も言いはしなかった。


「さくらん、大丈夫よ。あの子ちゃんも理解していると思うから」

「はい。ありがとう、あゆまりお姉さん!」


 自分の立場を弁えなきゃ。私は、デビュー前のアイドル。

 2人は実績ある大スターで先輩。

 敬っても敬いきれない存在。


「教えてほしいことは、2つあるの! 1つ目は、アイドルのこと」


 まりなさんとあの子さんは身構えた。

 2人とも仕事のこととなると、バカでもあほでもない。


「どうして、アイドルなの? どうして、山吹さくらとの共演なの」


 私の発言に対して、まりなさんは、静かに言った。


「今ので1つの質問? それとも2つ?」

「あっ、1つです。アイドルについてという括りで」


「じゃあ、簡単。歌が好きだから!」

「あれ? ちょっと違います。奇遇じゃないです! 私は曲を作りたいです」


 爽やかな曲を歌うのがアイドル。

 その点、2人ともちゃんとした動機がある。


「あの子ちゃん、曲作り上手だもんね!」

「えっ? そうなんですか?」


 あほの子あの子さんが曲作り? どんな曲を作っているの?


「えっ! 私なんかまだまだです。けど、あゆまりさんの詩、私好きです」


 何? 今度はあゆまりさんの詩? 聞いてない。


「あれは、あの子ちゃんの曲が素晴らしいからよ!」


 私の知らない2人がいる。

 山吹さくらに比べれば、2人のステージなんか幼稚園児のお遊戯以下。

 けど、どうしてこんなに楽しそうなのかしら。


「いいな。2人とも、アイドルに必要なもの持ってるんだね」


 私は心からそう思った。

 そんな私を、2人してジト目で見てきた。


「さくらんがそれ言う?」

「そうよ。菜花ちゃんの方がよほどアイドルっぽいじゃない」

「菜花、私がアイドルっぽい?」


 山吹さくらではなく、佐倉菜花がアイドルっぽい。

 私にはわからない……。


「アイドルって、直向きさがカギだと思うの」

「そう。その直向きさが、菜花ちゃんにはちゃんとある!」

「それって……。」


 ちょっと複雑な気持ちになった。

 直向きさって、どこか地味だから。


「……まぁ、いいわ! 私、それでいい」

「はい。それではーっ。乾杯といきましょうか!」

「それは……私たち、未成年よっ!」


 あの子さん、直球。私が言いたかった。


「えーっ。そんなの、今言わなくってもいいじゃないの」

「いや、普通、言うでしょう!」


「そんなぁーっ。紙コップでジュースで乾杯でも良いって思ってたのに」

「何ですか? その若づくり! あゆまりさん、実年齢考えて!」

「あの子さん、それ違う。若づくりじゃなくって、バカづくりでしょう!」


 なんだか、楽しい。


「なっ、何よ。もう、人をバカにして!」

「いいじゃないですか、バカで。私なんかあほの子ですよっ」

「私だって、地味なんだから!」


 バカとあほと地味。

 いいユニットになりそう。


======== キ リ ト リ ========


佐倉のはっきりした意志を感じていただければありがたいです。


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