スタジオ19 よーく話し合う①

 おかしなことをいう。最初はそう思った。


 けど、全ての辻褄があった。


 佐倉菜花は、社長こと朝倉桜子の娘。


「佐倉は、このことを知っているの?」

「いいえ。知らないわ♡」


「じゃあ、はなさないと!」

「待って、お願い……♡」


 今はどうしても言いたくない。社長はそう付け足した。






 社長には、夢がある。


 それは娘に自分がなし得なかった2つの人生を味わってもらうこと。


「全ての殿方の心を鷲掴みにして、その中から1番いいのを選ぶ♡」

「そんな、都合のいいこと……。」


「山吹さくらには、それができるはず♡」




 またはじまった。俺の違和感。


 俺は違和感を覚えてから、はじめてその正体にたどり着いた。


 違和感の正体。それは『できるできない』と『やりたいやりたくない』だ。


 今までの俺は、前者を判断の基準にしていた。




 何だってできると思っていた小学生のころ。


 その結果は、ひどいいじめにあった。自信をなくした。


 そして、何もできないと思うようになった。


 半年前、さくらと出会い立ち直った。


 何かできることがあると思った。




 けど、それは違う。


 判断に重点を置かなければいけないのは、後者。


 『やりたいかやりたくないか』だ。




「社長、言っていいですか?」

「な……に……♡」


 気付いたから、どうしても言いたかった。


 ここから先、社長からハートが消える。


「俺、さくらのおっぱいが揉みたい。さくらとキスもしたい」

「親に向かって、よく言えたわね!」


「もっと言うよ。さくらのしたいこと、全部一緒にしたい」

「大胆ね。捨てたはずの羞恥が目覚めるわ」


 俺が、俺こそが、全てを手に入れる者なんだ!


「さくらは、俺だけのものにしたい!」

「……貴方も、そう考えるのね……。」


 社長は、寂しそうだった。




 社長が何故寂しそうなのか、俺には分からない。


 分かりたいかっていうと、このときはそうは思わなかった。


 けど、寂しそうな社長を見るのは好きじゃない。


「今すぐじゃなくてもいいんです!」

「えっ?」


「協力します!」


 俺は、佐倉にも社長にも幸せになってもらいたいだけ!




 最優先は、俺のしたいことをすること。


 佐倉や社長に協力することは、俺にとってもやりたいこと。


「佐倉が山吹るのに協力します!」

「坂本くん……。」


「そのためにも、佐倉達と話し合わないと!」


 ちょうどそのとき、佐倉たちが入室した。


 佐倉を先頭に、まりなさん、あの子さんがV字を作って並んだ。


「坂本くん。話し合いましょう!」


 俺より先に、佐倉が言った。


「俺もそうしたいって思ってたところさ」


 こうして、俺たちは話し合うことになった。




 添えられたのは、俺が作ったロールケーキとブラックコーヒー。


 社長はちゃっかりとロールケーキを1切れ確保していた。


 あと、ホワイトになったあまあまコーヒーも。


 どんだけ好きなんだろう。


「坂本くん。朝の1時間だけ、キスしてほしい」


 それって、どういうこと?




「山吹さくらは、活動時間1日1時間限定アイドルになる」

「そのために俺とキスをしたいってこと?」


 佐倉は頷きながら続けた。


「残りの時間、私は佐倉菜花としてトップアイドルを目指す!」

「そんなの、無理に決まってるじゃんか!」


 俺は思わず本音を言ってしまった。


「てっ、手厳しいのね。私じゃトップには立てない?」

「山吹さくらがいる限り、無理だよ!」


「でも、私は佐倉菜花としてデビューしたいのっ」


 佐倉の気持ちは伝わった。


 なんやかんや、佐倉とさくらの待遇の違いには苦しんでいるんだと思う。


 だから俺は、佐倉の味方になってあげたいと思った。


======== キ リ ト リ ========


ここから先、無双するのは主人公です。


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